書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:コミュニケーションに関わる知識やノウハウは、頭では理解できても、実際の場面で使いこなせるようになるまでには高いハードルがあるものです。
  • 解決策:前回シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』での知識やノウハウを聞いただけではまだ一歩を踏み出せない、あるいはトライしてみたがうまくいかないという方のために、新シリーズでは【実践編】として社内の“あるある”場面を想定した質問に対して一緒に考えながら、実践イメージを膨らませていただきます。またリーダー側の視点とは別に、若手社員側の視点による上司世代との上手な付き合い方のヒントも紹介していきます。リーダー世代と若手社員とのコミュニケーションギャップを埋めることは、世界を舞台にスピーディな成長をめざす日本企業にとっても喫緊の課題だからです。

1 コミュニケーションに関わる知識やノウハウを、実践するのは難しい

今回から新シリーズが始まります。その前に、前回シリーズの『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』を読んでくださった皆さん、ありがとうございました。その後、現場で実践してみていただけましたか? うまく一歩を踏み出せたでしょうか?

今シリーズは、「コミュニケーションに関わる知識やノウハウを、実践するのは難しい」という前提でお送りする前回シリーズの【実践編】です。

前回シリーズをまだ読んでいないという方、読んだけれど忘れてしまったかもという方のために、簡単におさらいしておきましょう。「私はしっかり読んで覚えている」という方はこの章を飛ばして先に進んでください。

組織は人でできていて、多くの仕事がチームで行われるため、仕事をスピーディかつ高い成果へと結実させるには、人と人とのコミュニケーションが欠かせません。とりわけ管理職・リーダーの立場にある人たちには、チームとしての課や部、経営者であれば会社全体をリードしマネジメントしたりする立場として高いコミュニケーション能力が求められます。

しかしながら、ここ10年で若手社員が職場や上司に求めるものがすっかり変化しているにもかかわらず、そのことに気付いていないリーダーが多いのです。

新入社員が理想とする職場像の上司像のキーワードとして、ここ10年で「丁寧な指導/褒める/傾聴」「個性の尊重/助け合い」などの優先順位が上昇しています。逆に低下したのは「活気がある」「互いに鍛え合う」「みんなで1つの目標を共有する」などでした。

若手社員のそうしたスタンスに対して、上司としては「君たちは仕事や組織というものが全く分かっていない、教えてやろう」と言いたくなる方もいるかもしれません。が、グローバルな視点で見てみれば、彼らのスタンスの方が正しいことが分かります。

世界のビジネストレンドのキーワードは、[競争]から[共創]へ、[経験・改善]から[新価値創造(イノベーション)]へと変わり、それらを選択し、決断した企業が高い成長力を手にしています。

[共創]や[新価値創造(イノベーション)]を進めていくためのマネジメントにおいても、[管理]から[自律]へ、[指導]から[支援]へと時代は変わっているのです。これらは先ほど挙げた新入社員が理想とする職場像の上司像である「丁寧な指導/褒める/傾聴」「個性の尊重/助け合い」の方向性に合致しています。

すなわち、管理職・リーダーの側が昭和世代のマネジメントやコミュニケーションスタイルを持ち出しても何の解決にもならないばかりか、成長が期待できず戦えない、そして若手の人材確保すらできなくなってしまうのです。

会社は人でできています。将来に向けて人がいなくなれば、会社は存在できません。となれば、昭和世代の上司やリーダーの側が若手や世界のトレンドに合わせ、むしろ推進していくしかありません。

そこで前回シリーズでは『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』として「①傾聴」「②褒める」「③前向き発想」の3つをご提案し、詳しい解説とその使い方をご紹介しました。

さて問題は実践です。私はコラムの執筆以外にもコンサルティングを初め、企業向け研修の講師や講演・セミナーなどを行っているのですが、そこで受講者の声として感じるのは実践し定着させることの難しさです。

2 お金と時間をかけていくら学んでも、実践しない限り1円にもならない

世の中には参加無料をうたう研修・講演・セミナーがいろいろあります。

経済の原則からすれば至極当然ですが、こうした研修などの裏には、費用を負担している主催者側の少なからぬ期待が隠れています。それは必ずしも受講者の学びや成長を意図するものではありません。募集で得た受講者リストを事後の商売につなげる意図があるからこそ、費用を全て負担=投資してくれているのです。

片や有料の場合はどうでしょう。

受講者本人が費用を負担するケースと会社が「行って来い」と送り出して負担するケースがありますが、いずれにしても“投資”です。会社負担の場合、単価と人数を考えれば年間では少なくない金額となるでしょう。加えて本人が参加している時間自体も投資です。だからこそ、私は講師として受講者の皆さんにこう言います。

「お金と時間をかけていくら学んでも、あなたが実践しない限り1円にもなりませんよ」

自腹を切ることなく、会社負担で参加されている社員の皆さんにも分かってほしいのです。社員研修や講演・セミナーへの参加は、新たな機械やシステムの導入、新事業開拓、新技術への投資などと同じく“投資”であり、投資額に見合ったリターンが必要なのです。同じ額を他のことに投資したらどうだっただろうという検証も含めて。

管理職・リーダーの方にとっては釈迦(しゃか)に説法かもしれませんね。その上で「分かってはいるけれど、『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』をなかなか実践できない」と悩んでおられるのかもしれません。

そんなわけで、今シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣【実践編】』をスタートすることとしました。

『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』の実践がうまくいかないという方のために、

毎回社内の“あるある”場面を想定したケースを用意し、回をまたいで読者の皆さんにも考えていただきながら、実践イメージを膨らませていただきます。

また、若手社員の読者の皆さんに向けては、リーダー側の視点とは別に、若手社員側の視点による“上司世代との上手な付き合い方のヒント”も紹介していこうと思います。

ご期待ください。

3 笑顔のない新人Aさんを飲みに誘ったところあいまいな返事。どうしますか?

ではさっそく、第1回の“あるある”場面を想定したケースについて考えていきましょう。

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[事例1]

〇4月に新人Aさんが加わりました(皆さんの部署に新卒配属がなければ、若手の異動をイメージしてください)。歓迎会など酒席パーティが開かれ、部署単位での2次会も用意してひと通りの交流を無事に終えました。幸いにも部署の業績は右肩上がりで、その後はずっと部署全員が日々の業務に追われる毎日でした。

〇ところが最近Aさんの表情が心配です。「おはよう」と声をかけても元気がなく、業務中も飲み会の時に見たような笑顔がありません。

〇そこで上司であるあなたは、Aさんと話す時間をつくってみようと考えて声を掛けました。「Aさん、最近仕事はどう? よかったら今日仕事が終わったら一杯飲みに行かないか」。するとAさんは「ええ……まあ……」とはっきりしません。

—————————

Q. Aさんに対して、あなたはこの後、最初にどんな声をかけますか? また最初の声かけを考える際に注意するべきポイントを3つほど挙げください。書かれているさまざまな要素を考慮してみましょう。

ヒントの1つは、「まずAさんの現在の心の状態を想像すること」です。「ええ……まあ……」の言葉の裏にはどんな心理状態があるのでしょうか。

4 あなたが新人Aさんだとして、上司にどのように告げればうまくいくでしょうか?

Aさんのような若手社員の皆さん。あなたの上司がこのコラムを読んで一生懸命に若手社員の気持ちやコミュニケーションを考えて努力してくれる人であればいいのですが……。

必ずしもそうでなかった場合、あなたならどのような一言を告げますか。上司の反感を買うことなく、自分の素直な気持ちを伝えられるでしょうか。

上司の側の視点だけでなく、上司からの的確な一言が期待できなかった場合 の部下側の上手なコミュニケ―ションの方法についても触れていきたいと思います。ぜひ第2回までに考えてみてください。

上司の方にとっても若手社員の視点を想像することは、毎回の事例を考える上でもヒントになります。彼らがどんな気持ちでそのように返してくるのかを想像できれば、自身の日常のコミュニケ―ションを『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』に変えるヒントになることでしょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。次回は、[事例1]に対して最初に上司がAさんにかけるべき一言、また若手社員Aさんが上司の反感を買うことなく、自分の素直な気持ちを伝えられる一言の例をご紹介していきたいと思います。

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※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。

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以上(2024年7月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)

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