書いてあること
- 主な読者:受け入れが再開され外国人観光客の取り込みを検討する宿泊業者
- 課題:外国人観光客向けの宿泊施設が、どのような差別化を図っているか参考にしたい
- 解決策:地域ならではの体験や自然体験ができる施設、若手アーティストとの交流や支援ができる施設、スタッフによる接触を極力行わない施設などの取り組みを参考にする
1 外国人観光客を引き付けるユニークな宿泊施設
新型コロナ感染症対策のために制限されてきた外国人観光客の入国が、2022年10月11日から全面解禁となり、宿泊業者にとって、インバウンドの取り込みが期待できるようになりました。そこでこの記事では、「ウィズコロナ」の中で外国人観光客を引きつける、特徴ある宿泊施設を紹介します。具体的には、
- 地域と連携し、その土地の食・文化・アクティビティが体験できるホテル
- 日本の伝統的風景や自然体験が堪能できるグランピング施設
- 若手アーティストとの交流や支援を目玉にするホテル
- 受付をロボットが行い、人との対面を極力行わないホテル
などです。
以降で、これらのホテルのコンセプトや特徴、外国人受け入れのための取り組みを紹介します。
2 外国人観光客をどうやって引きつけるか?
ここで紹介する宿泊施設の特徴は、次のように位置付けることができます。
各宿泊施設の特徴を見ていきましょう。
1)アオアヲ ナルト リゾート:地域を巻き込んで郷土料理や伝統体験、アクティビティを提供
アオアヲナルトリゾート(徳島県県鳴門市)は、瀬戸内海国立公園内にあり、鳴門海峡を一望するリゾートホテルです。名物の鳴門の渦潮やホテル内での阿波おどり公演、江戸時代から明治時代中期の徳島で生産された藍染めの体験、ホテル内にあるビーチでの海水浴、家族で楽しめるドラゴンボートやカヤックなどの海上アクティビティ、ホテルの仕事が体験できる仕事体験などが人気です。
旅行先の食事で求められているのは、安価でそれなりの料理ではなく、地元のおいしいものを楽しむことではないかと考え、コロナ禍でも単価を上げて、料理を充実させることでADR(客室平均単価)の向上に成功したそうです。
四国はコロナ前から他の地域と比べてインバウンドが少なく、コロナ後のインバウンド誘致が課題でした。そこで鳴門市や四国が一体となって取り組むためにも2019年から地元の有志とまちづくり協議会を立ち上げたり、徳島経済研究所やイーストとくしま観光地域づくり法人とともに四国の認知度を高めたりするなど、地域を巻き込んだ活動を行っています。
また、成果にはまだつながっていませんが、SNSで欧米豪向けに動画で徳島鳴門観光のPRを始めています。
■アオアヲ ナルト リゾート■
https://www.aoawo-naruto.com/
2)Mt.Fuji グランピングテラス 嶺乃華:富士山の絶景と地域の野外体験の拠点に
富士河口湖周辺で2022年8月にオープンしたのが「Mt.Fuji グランピングテラス 嶺乃華」です。富士山を正面に望むドーム型テントで、富士山と河口湖の絶景を眺めることができます。代表社員の下田高広さんは、
「富士山は外国人にも眺望や登山、話題性などのコンテンツとして人気の高いスポットなので、いつでも富士山と河口湖の絶景が楽しめるようにドームテントを配置しています」
と言います。外国人観光客を引きつけるための同社の売りは、グランピングサイト単体ではなく、地域のアクティビティも含んでいます。
「グランピングは泊まることが目的ではなく、バーベキューをはじめ、周辺にある魅力的なアクティビティを通じてさまざまな体験を提供する施設です。近隣地の観光巡りや河口湖ならではのボートや遊覧船、バギー、ゴルフ、樹海ツアーなどのアクティビティを運営する地域の事業者と提携し、宿泊者に利用していただければ、地域の活性化にもつながります」(下田さん)
■Mt.Fuji グランピングテラス 嶺乃華■
https://minenohana.com/
3)BnA_WALL:アーティストと触れ合える国際色の豊かなホテル
東京・日本橋に2021年4月、巨大な壁画「WALL」がシンボルのアートホテルがオープンしました。23組のアーティストたちが空間デザインを手掛けた計26の客室(アートルーム)の他、アーティストスタジオ、カフェ・バー・ラウンジが併設されています。壁画アートは日本では描ける場所が少なく、描ける人や描きたい人の発信の場所をとして作ったので、「WALL」は2カ月に一度描き換えられます。BnA広報の近藤吉孝さんは、
「バーにいると以前とは別のアーティストが新しい壁画を描いているところに遭遇することもあり、アーティストやアート好きの観光客との交流も楽しめます。こういう経験ができるホテルは国内では他にありません」
と言います。同社は2016年のホテル事業設立から、宿泊売り上げの一部をアーティストに還元する「世界で初めて」(近藤さん)の試みを行っていて、アートシーンの活性化を狙っています。趣旨を知るとラグジュアリーホテルに宿泊した翌日にBnAホテルグループに宿泊しに来る外国人観光客もいたそうです。
「欧米ではアートに触れる機会が日常的にありますが、日本ではあまりありません。当ホテルは、日本で唯一アートとアーティストに触れ合える場を提供しているので、インバウンドと相性がいいのだと思います。そのため、PRを積極的にしなくても、海外メディアの取材も多く、半年後1年後の予約が埋まっている状況です」(近藤さん)
■BnA_WALL■
https://bnawall.com/
4)変なホテル舞浜 東京ベイ:恐竜ロボットがお出迎え、人と触れ合わないホテル
恐竜ロボットがフロントでお出迎えし、各客室ではコンシェルジュロボットがお世話をしてくれる「人と触れ合わない」ホテルで、「世界初のロボットが働くホテル」としてギネス認定されています。
ホテルは、朝食用レストラン「ジュラシックダイナー」を恐竜が生きていたジュラ紀をモチーフにデザインにしたり、恐竜仕様の客室にした恐竜ルームでは恐竜の化石発掘キットが用意されていたりと、恐竜を楽しめる遊び心が各所にちりばめられています。
客室は約100室で、恐竜ロボ、お掃除ロボ、客室コンシェルジュロボなど、120体前後のロボットが“従業員”として働いています。このため、通常は35~40人のスタッフが必要な規模ですが、7~8人で運営できているそうです。ロボットのランニングコストは定期的なメンテナンス料と電気代のみで、減価償却が終われば、人間のスタッフを雇い続けるよりも低コストで運用きるようになります。
■変なホテル舞浜 東京ベイ■
https://www.hennnahotel.com/maihama/
5)無人ホテルmizuka:誰にも会わずにチェックイン・チェックアウトができるホテル
福岡市内に11施設ある“無人ホテル”です。入り口のタブレット端末に顔認証か、事前に通知されるIDを入力することでチェックインします。部屋のキーもオンラインで番号が渡されます。本部にスタッフが24時間待機しているので、部屋に入室してから質問や要望がある場合は、室内に設置されているタブレット端末ですぐにコンタクトをとることができます。
1号店がオープンしたのは2017年。無人ホテルの特徴はすでに建っている建物の空いたスペースに部屋を作るもので、3カ月ほどでスタートできます。そのため急増するインバウンド需要にマッチし、規模が拡大できたといいます。当時は完全無人化できる都道府県は大阪と福岡、沖縄の3カ所のみでしたが、福岡を選んだのはマーケット規模が同社にとって適切で、季節性に左右されず、中国・韓国・台湾などからのデジタルネイティブな若い観光客が多いからでした。
コロナ禍によりインバウンドが消滅してからも、自主隔離などでホテルのマンスリ―利用やワーケーションなどのオンライン生活が浸透したことが追い風になりました。無人化してオンラインで対応することへの理解やメリットを知って、敬遠しがちだった50~60代の宿泊客も増えるとともに、ネイルサロンやエステサロンの個人経営者への時間貸しのニーズも生まれているそうです。
■mizuka■
https://mizuka.co.jp/ja
以上(2022年10月)
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画像:pixta