書いてあること

  • 主な読者:眉毛サロンをフランチャイズで出店したい方
  • 課題:収益構造や法規制、開業にかかる費用を知りたい
  • 解決策:眉毛のみの施術メニューでは差別化が難しい。美容師免許を持つ人材の確保も大きな課題。一定条件の収支シミュレーション結果は、7年度目の売上高2858万円、営業利益759万円となった

1 眉毛サロン事業の概要

このリポートでは、眉毛サロンにおける開業要件や業界動向、ビジネス環境、さらに開業後の収支シミュレーションを紹介します。

なお、シミュレーションに当たっては、東京都渋谷区の恵比寿エリアで店舗を開業すること、フランチャイズで出店することを想定しています。

眉毛サロンとは、アイブロウ・スタイリング(眉を整えること)サービスの提供を専門とするエステティックサロンです。カウンセリングを通じて眉のデザインを決め、主にワックス脱毛とカット、ツイージング(毛抜き)で眉を整えます。

利用者は、ブロウアーティストの整えた眉毛をガイドラインとして、日々の手入れをするだけでよいので、眉が整うだけでなく、メイク時間の短縮にもなります。

施術後さらに、メイクとそのアドバイスまで行う店舗や、髪色などに合わせた眉毛のカラーリング、まつげエクステンション、フェイシャルエステ(顔)、ネイルアート(爪)といった複数のメニューを展開している店舗もあります。

2 開業に必要なこと

眉毛サロンを開業するには、出店エリアを管轄する保健所に届け出て営業許可を得なくてはなりません。その基準は、大きく分けて「人的基準」と「設備基準」の2つがあります。それぞれ簡単に解説します。

人的基準については、

  • 施術を行うスタッフは「美容師」(美容師免許を保有している)であること
  • 常時2人以上の美容師を配置する場合は、いわゆる「管理美容師」を置かなければならないこと

と定められています。

設備基準については、

  • 作業室面積は内法13平方メートル以上であること
  • 客待ち場所と作業室は、ついたて、ケースなどで区画されていること
  • 洗い場は流水装置とすること
  • 洗い場に近接して消毒用の場所を設け、消毒設備を整えていること
  • イスの台数は13平方メートルに6台までであること
  • イスが1台増えるごとに作業室面積を3平方メートル追加すること

などが定められています。

基準は保健所ごとに異なる場合があります。詳しくは管轄の保健所にてご確認ください。今回のシミュレーションでは恵比寿で店舗を開くことを想定しているので、管轄は渋谷区保健所となります。また、東京都内の管轄保健所については、東京都保健医療局のウェブサイトから調べられます。

■東京都渋谷区「理容所・美容所」■
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/jigyosha/jigyo-eisei/kankyo-eisei/riyo_biyo.html
■東京都保健医療局「美容所の開設に関する基準等について」■
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kankyo/eisei/biyou/biyou_kijyun.html

なお、渋谷区保健所へのヒアリングでは、施術スペースを個室にする場合、1室当たりの内法面積を13平方メートル以上とする必要があるとのことでした。ただし、扉がないものやカーテンのみで仕切っているものは個室として認められないため、この限りではないそうです。

また、床置きの棚などで床が有効に使えない場合、棚の床占有面積は作業室面積として認められません。内装設計の際は、これらにご留意ください。

届け出のおおまかな流れは以下の通りです。

  • 相談:必要書類や審査基準などの説明を受ける(※店舗工事の着工前に行うことが推奨されている)
  • 申請:開設届・施設平面図・従業員名簿と美容師免許・健康診断書などの必要書類を提出する(※申請手数料が必要)
  • 検査:店舗の工事完了後、構造設備の検査が行われる。不適合箇所があれば再検査となる
  • 許可:保健所の窓口にて確認書を受領する

この流れについても保健所ごとに異なる場合があります。詳しくは管轄の保健所にてご確認ください。

3 業界動向とビジネス環境

1)業界動向

リクルートが運営する、美容に関する調査研究機関「ホットペッパービューティーアカデミー」は、美容サロン、コスメ、美容医療の利用行動調査「美容センサス」を公表しています。この項では、主に同調査のデータに基づいて業界動向を俯瞰(ふかん)します。

なお、同調査は眉毛サロンに限らず、まつげエクステサロンやまつげパーマ専門店なども含めた、アイビューティーサロン全体での調査であることにご留意ください。ここでいうアイビューティーサロンとは、「まつげパーマ」や「まつげエクステンション」「アイブロウ・眉カット」のメニューが利用できるサロンのことです。

また、同調査においてアイブロウ(眉)に関する調査を始めた、2020年からのデータを参考とします。

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まずは、市場規模から確認していきます。2024年上期調査によると、アイビューティーサロンの市場規模は1179億円でした。これはサロン業界全体(2兆6496億円)の4.5%に当たります。

市場規模は拡大と縮小を繰り返しており、2024年は前年比で28.9%増加しました。これは男女ともに利用者が増えたことに加えて、1回あたり利用金額や、女性の年間利用回数の増加が影響しています。

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次に、市場の成長性を確認していきましょう。アイビューティーサロンの過去1年間の利用率は、2020年時点で女性7.2%、男性3.1%でしたが、2024年時点では女性9.1%、男性4.4%に成長しています。

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しかし、2024年調査のアイビューティーサロンの利用意向を確認すると、「とても利用したい」が女性4.3%、男性1.4%、「まあ利用したい」が女性9.3%、男性3.4%と低く、今後の急激な成長はあまり期待できない状況にあることが分かります。

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最後に、アイブロウ(眉)メニューの利用傾向について確認しましょう。2024年調査において、過去1年間でアイビューティーサロンを利用した人の、アイブロウ・眉カットのメニュー利用率は、女性26.5%、男性42.2%となっています。

男性の利用率は上下の激しい推移となっていますが、他のメニューの利用率も35%以上となっており、全体的に女性よりも高い傾向にあることが分かります。ただし、(図表1)で確認した通り、アイビューティーサロン業界における男性の市場規模は、女性と比べて圧倒的に少ないことに留意しなければなりません。

2)ビジネス環境

眉技術(眉を整える技術)や脱毛技術によるサービスは、眉毛サロン以外でも提供されています。これらを整理するために、アイブロウ(眉)関連のスタイリング技術を、以下の(図表5)にまとめました。

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この中で、眉毛サロンで取り扱っているのは、主にワックス脱毛と眉カットです。一部のサロンではスレッディング(糸脱毛、毛を糸に絡めて脱毛する手法)も行っていますが、高い技術力を要するため、サービスを提供している店舗は限られています。なお、ホットペッパービューティーにて、“関東エリア全て”で“スレッディング”と検索したところ、検索結果はわずか14件でした。

光脱毛は、光を照射することで一時的な除毛・減毛などを行う脱毛方法で、エステでもできます。効果は一時的なものであるため、永久脱毛や効果の長い脱毛方法に比べて、リピーターを得られる機会が多くなります。一方、眉以外の部位において、皮膚障害や熱傷のような健康被害が多く報告されており、サービスを提供する際には十分な注意が必要です。

レーザー脱毛やニードル脱毛、眉毛アートメイクは医療行為とされており、医師もしくは医師の監修を受ける看護師がいないとサービスを提供できません。中でもレーザー脱毛とニードル脱毛はどちらも脱毛効果が長い技術、もしくは永久脱毛であり、脱毛効果の高さと通院回数を抑えられることから、利用者はこれらの方法を選ぶことが多いようです。しかしその半面、デザインが気に入らない場合でも、やり直すのが難しいというリスクがあります。

眉ティントは、色素を塗って乾燥・沈着させることで、眉毛と肌を染める化粧品とその技術のことです。海外製ティントの一部は2週間ほどもつそうですが、成分が強いものが用いられており、日本では認可されていません。日本製のものは3日ほどしかもたないようなので、施術の際には利用者との認識齟齬(そご)から生まれるトラブルに発展しないよう、十分な説明をする必要があるでしょう。

以上から、眉毛サロンのビジネス環境と外的脅威を、次の図表6にまとめました。

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業界内では、同じ眉毛サロンだけでなく、脱毛サロンや脱毛クリニックともアイブロウ(眉)のスタイリングサービスとして競合しています。

アイビューティーサロン業界ではまつげパーマ・カールや、まつげエクステンションが人気を集めており、これらの専門サロンや美容院がアイブロウ(眉)のスタイリングメニューを導入する可能性があります。

また、美容業界の人材採用環境は売り手市場です。まず、美容師免許を保有している人材が限られており、優秀なスタッフが育ったとしても転籍や独立してしまう可能性が高い業界慣習があり、多くの経営者は常に人手不足に悩まされています。

加えて、目元に使用する薬剤は、健康上の理由から規制されてきた経緯があり、脱毛ワックス剤も規制の対象となる可能性があります。そうなれば事業の根幹が揺らいでしまうことになり、これらの影響は大きいものと考えられるでしょう。

最後に、首都圏にある眉メニューを提供している美容院オーナーによると、東京都内でアイブロウ(眉)のみの施術で顧客を呼び込むことはかなり難しいとのことでした。以下、ヒアリングの内容です。

「地方都市であれば眉毛サロンが少ないので、顧客のターゲット層を広く取り、広い敷地面積で個室型のラグジュアリーな店舗を経営することが可能です。しかし、都内の場合は、競合が多くて家賃も高いので、顧客のターゲット層を絞り込み、その顧客に適した、眉毛に限定しない施術メニューの組み合わせや、メイクサービスで使用した化粧品の販売などで客単価を向上させなければ、思うような売り上げは上がりません」(美容院オーナー)

4 開業収支シミュレーション

1)前提条件

ここでは、眉毛サロンの開業収支をシミュレーションします。前提条件として、東京都渋谷区恵比寿にある13坪の居抜き物件にて、施術スペース2室、店頭スタッフ2人(スタッフ総数3人のシフト制)の眉毛サロンを想定します。

1.売上高

売上高は年間1613万円とします。算出式は次の通りです。

1回当たりの平均利用金額7000円×1日当たりの平均施術回数6.4回×年間営業日数360日≒1613万円

1回当たりの平均利用金額は、ホットペッパービューティー“恵比寿・広尾”エリアに掲載されている眉毛サロンの料金を参考に、7000円とします。

1日当たりの平均施術回数は、店頭スタッフの人数、勤務時間、施術1回当たりの時間、稼働率から算出します。13坪(約43平方メートル)の物件で設備要件(作業場の内法面積13平方メートル以上)を満たすためには、施術スペ-ス2室が妥当だと考えられます。そこで、店頭スタッフ数は2人と設定します。

施術1回当たりの時間は、眉毛サロンの実例を参考に60分、スタッフの勤務時間はそれぞれ8時間、初年度の稼働率は40%と仮定し、これらから1日当たりの平均施術回数を6.4回(スタッフの1日当たり施術可能回数8回×スタッフ2人×稼働率40%)と算出しました。

年間営業日数は、不定休かつ年末年始休業(12/30~1/3)で360日とします。

2.原価率

原価率は17.5%とします。算出式は次の通りです。

フランチャイズのロイヤリティ10%+材料費3%+水道光熱費2%+キャッシュレス決済手数料2.5%=17.5%

フランチャイズのロイヤリティは、フランチャイズを募集しているサロンが公開している情報を基に10%とします。

材料費は、脱毛ワックスや施術道具、肌ケア用品、化粧品などが含まれます。まつエク、アイブロウ(眉)の技術者養成スクール「ジャパンアイリストカレッジ」と都内の眉毛サロンへの取材を基に、売上比3%とします。

水道光熱費は、同スクールと都内の眉毛サロンへの取材によると月3万円とのことでした。今回のシミュレーション上では、売上比2%となります(水道光熱費3万円×12カ月÷売上高1613万円)。

キャッシュレス決済手数料は、業界水準が3.24%となっています。キャッシュレス利用率は、ホットペッパービューティーアカデミー「美容サロンのDXに関する利用意識・実態調査(2022年)」を参考に約77%と仮定して、キャッシュレス決済手数料の売上比は2.5%とします。

また、人件費、賃借料も売上原価に含まれますが、必ずしも売り上げに連動するわけではないので、今回のシミュレーションでは原価率に含めず計算します。

3.人件費

令和5年度賃金構造基本統計調査と、美容院オーナーへのヒアリングを基に、施術スタッフ(正社員)の給与を月35万円とします。スタッフ総数3人として、年間人件費は1260万円となります。

4.賃借料

サロン専門の不動産検索サイトを確認したところ、店舗種別が「アイラッシュサロン」であった恵比寿エリアの物件(JR山手線・恵比寿駅から徒歩2分、13.68坪)の賃借料を参考に月19万円、年間228万円とします。

5.その他

この項目には、宣伝広告費、予約管理システムの支払手数料、賠償責任保険料が入ります。

広告宣伝費は、大手サロン集客・予約サイトの掲載料を想定します。同サービス“恵比寿・広尾”エリアの店舗への取材によると、月5万5000円を支払っているとのことでした。今回はこれを参考に、年間66万円とします。

予約管理システムは、Maneql(マネクル、大阪府堺市)の提供する「Lステップ」を利用することを想定します。同サービスのウェブサイトで紹介されている費用イメージを参考に、予約管理システムの支払手数料は年間13万円とします。

賠償責任保険料は、年間3万円とします。

6.建物附属設備

この項目には、内装工事費を盛り込みます。改装の坪単価30万円として、390万円(13坪×坪単価30万円)と算出しました。

7.開業費用

この項目には、開業前に準備したアイブロウスクールのジャパンブロウテストスクールや眉毛サロンへのヒアリングにより、利用者を寝かせるリクライニングチェアーやワゴン台、スツール(移動可能な椅子)、フェイスタオル、ひざ掛け、サンダル(スタッフ用)、スリッパ(来店者用)、清掃用具、レジカウンター、POSレジなどを想定し、50万円とします。

8. 差入保証金

差引保証金は、賃借料の10カ月分となる190万円とします。

2)収支シミュレーション

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5 資料一覧

このリポートの作成に当たって参考にした資料を以下に紹介します。

ウェブサイト一覧

■リクルート「ホットペッパービューティーアカデミー」■
https://hba.beauty.hotpepper.jp/
■リクルート「ホットペッパービューティー」■
https://beauty.hotpepper.jp/nail/svcSA/
■J-Net21「業種別開業ガイド(まつ毛エクステサロン)」■
https://j-net21.smrj.go.jp/startup/guide/service/2017071301.html
■J-Net21「業種別開業ガイド(脱毛サロン)」■
https://j-net21.smrj.go.jp/startup/guide/service/2017071303.html
■ジャパンブロウアーティスト協会■
https://j-eyebrow.com/
■e-Gov法令検索「美容師法」■
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=332AC1000000163
■厚生労働省「美容師法概要」■
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei04/06.html
■東京都保健医療局「美容所の開設に関する基準等について」■
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kankyo/eisei/biyou/biyou_kijyun.html
■東京都渋谷区「理容所・美容所」■
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/jigyosha/jigyo-eisei/kankyo-eisei/riyo_biyo.html
■東京都豊島区「理容所・美容所の開業を予定されているかたへ」■
https://www.city.toshima.lg.jp/214/kurashi/ese/kankyoese/jigyosha/002025.html
■東京都千代田区「理容所・美容所の開設」■
https://www.city.chiyoda.lg.jp/koho/kurashi/kankyoese/egyo/riyojo.html

以上(2024年7月作成)

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画像:Parilov-Adobe Stock

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