書いてあること

  • 主な読者:ビジネスチャンスを探している経営者
  • 課題:商品のライフサイクルが短くなっており、新しいビジネスチャンスを常に探さなくてはならない
  • 解決策:消費者ニーズの影響要因、商品の影響要因などについて注意し、ビジネスチャンスを狙う

1 ビジネスチャンスの重要性

近年、ビジネスのスピードは増す一方です。多くの企業が消費者のさまざまなニーズを掘り起こそうと、さまざまな商品を次々と世に送り出す一方、商品のライフサイクルはどんどん短くなっています。なお、本稿で使用する「商品」という言葉は、製品だけではなくサービスも含みます。また、「消費者」という言葉は、最終消費者だけではなく企業など産業財のユーザーも含みます。

主力事業や商品の転換には相応の経営資源の投入が必要であり、大きなリスクを伴います。しかし、既存の事業や商品に安住し続けることのほうが大きなリスクであり、ビジネスチャンスを逃さず、商品を提供していくことが求められます。

本稿では、ビジネスチャンスを捉える際の基本的な考え方と、ビジネスチャンスを発見するための具体的な視点について紹介していきます。

2 ビジネスチャンスの正体を理解する

1)ビジネスチャンスとは

ここでは、ビジネスチャンスについて考えてみましょう。そもそも、見いだすべきビジネスチャンスとはどのようなものなのでしょうか。これは、「商品」とそれを購入する「消費者のニーズ(以下「消費者ニーズ」)」の関係を見ると分かりやすいでしょう。

「商品」と「消費者ニーズ」の関係(イメージ)は次の通りです。

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消費者が商品を購入するのは、自身の持つニーズを充足するためです。従って、商品が消費者の持つニーズを完全に充足している姿が理想的な関係となります(図表左側の「理想的な関係」)。しかし、実際には、特定の商品が消費者ニーズを完全に充足しているケースはわずかです(図表右側の「現実の関係」)。むしろ、消費者は「若干の不満はあるものの、自身のニーズに一番近い商品を妥協して購入する」といったケースが多いものです。

例えば、図表右側の「現実の関係」のように「『購入した商品を、今すぐ使いたいのに、手元に届くのは3日後になる』『価格が高い』といったように『時間』や『価格』については不満があるが、他の商品よりは機能・特性などが良いので、これを購入しよう」というように購入を決定している消費者が多いのです。

消費者ニーズは多様です。このため、商品の持つ機能や特性などは消費者ニーズに追いつかず、商品と消費者ニーズの間に多くのギャップが存在しているのが実情なのです。

そして、このギャップにこそビジネスチャンスがあります。すなわち、このギャップを発見し、ギャップを解消する(消費者ニーズをより高い次元で充足させる)ような商品を提供できれば、消費者からの支持を集めることができます(商品を販売し、売り上げを上げることができます)。

2)具体例で考えるビジネスチャンス

簡単な例で考えてみましょう。「のどが渇いたので、今すぐ冷えたオレンジジュースをコップ1杯飲みたい」と考えている消費者に対して、その場でコップ1杯の冷えたオレンジジュースを販売している企業があれば、商品と消費者ニーズの間にギャップはありません。しかし、アップルジュースを販売している企業しか存在しなければ、商品と消費者ニーズの間にギャップ(ビジネスチャンス)が生じます。そこで、自社がオレンジジュースを販売できれば、消費者ニーズとの間のギャップを解消することができます。

また、他の企業がオレンジジュースを販売していても、1リットルのボトルサイズしか販売していなければ、同様にコップ1杯分のオレンジジュースを販売する自社商品を購入してもらうことができます。

これは、ビジネスチャンスを単純化した例です。実際には、「自社が収益を獲得することができるだけの市場性があるのか(ビジネスとして成立し得るのか)」「競合他社の動向はどうか」など、さまざまな側面から、ビジネスチャンスを検討する必要があります。しかし、商品と消費者ニーズの間にあるギャップこそがビジネスチャンスであり、そのギャップを埋めるような商品を消費者に販売することで売り上げを上げていくという視点が基本となります。

3)ビジネスチャンスの発生要因

次に、ビジネスチャンスである商品と消費者ニーズの間にギャップが発生する理由を考えてみましょう。その理由はさまざまですが、大別すると「消費者ニーズの把握の困難性」と「商品に関する制約要因の存在」に分けることができます。

1.消費者ニーズの把握の困難性

消費者ニーズは常に変化しています。そのため、消費者ニーズに関する情報収集を十分に行っていない場合はもちろん、独自に市場調査を実施している企業でさえ、消費者ニーズを的確に把握できないこともあります。

例えば、マーケティングの専門部署を設けて積極的に情報を収集している大企業でさえ、「消費者ニーズの読み違い」といった理由から事業に失敗するケースがあることを考えれば、消費者ニーズを把握することが困難なことは容易に理解できるでしょう。 

当然、消費者ニーズを的確に把握できなければ、消費者ニーズを完全に充足するような理想的な商品を開発・販売することはできません。つまり、消費者ニーズの把握の困難性という要因が、商品と消費者ニーズの間にギャップを発生させているのです。

2.商品に関する制約要因の存在

消費者ニーズには気付いても、そのニーズを充足するような商品を開発・販売できないことがあります。この場合も商品と消費者ニーズの間にギャップが生じます。

制約要因にはさまざまなものがありますが、代表的なものとしては、「技術面の制約要因」があります。例えば、多くの消費者が「タイムマシン」が欲しいと思っても、現在の技術水準では実現することは不可能でしょう。また、新規開発されたばかりの機器などの場合、商品(プロトタイプなど)の開発には成功しているものの、量産技術が確立されていないため、商品として販売できないケースもあります。

また、「コスト面の制約要因」がある場合もあります。商品化はできても、膨大なコストが掛かり、販売価格が高過ぎて、ほとんどの消費者が購入しないようなケースです。

これらのケースにおいては、企業が商品と消費者ニーズの間にギャップがあることに気付いていても、商品などが持つ制約要因の存在が、ビジネスチャンスをものにすることを妨げているのです。

3 ビジネスチャンスを見つける視点

1)ビジネスチャンスを見つける視点を身に付ける

ビジネスチャンスを発見するためには、市場調査などを通じて得た消費者や競合他社などの外部環境に関する情報、自社の商品や商品の製造プロセスなど内部環境に関する情報などを総合的に勘案しながら、商品と消費者ニーズの間に潜むギャップを発見することが必要です。

しかし、こうしたプロセスを経てもなお、ビジネスチャンスを発見するのは容易ではありません。ここでは、ビジネスチャンスを発見する際に参考となる視点について紹介します。

2)「ビジネスチャンスの発生要因」に注目する

1.消費者ニーズの影響要因に注目する

消費者ニーズに変化をもたらす影響要因が分かれば、消費者ニーズの動向を的確に把握できる可能性が高まります。多くの場合、消費者ニーズに影響を与える要因はさまざまであり、それら全てを明確にすることは困難です。

しかし、中には影響要因やそれが及ぼす影響を、比較的容易に捉えることができるものもあります。代表的なものは、法令改正などといったさまざまな制度変更です。制度変更には強制力を伴う法令改正や、業界団体などが策定する「ガイドライン」などのように、法的拘束力はないものの対象となる企業や個人の行動を事実上、制限してしまうものもあります。

制度変更があれば、関連する企業や個人は変更された制度に従わなければならないため、消費者ニーズの動向を容易に予測できる場合があります。

2.商品の制約要因に注目する

商品の制約要因を把握する際のキーワードは、「ボトルネック」です。ボトルネックとは、生産現場などではよく使われる言葉で、生産プロセスなどにおいて、全体の円滑な進行・発展の妨げとなるような制約要因のことをいいます。

例えば、「金型製作工程(A工程)→プレス工程(B工程)→溶接工程(C工程)→組立工程(D工程)→表面処理工程(E工程)」という金属プレス加工のプロセスがあるとします(各工程は流れ作業で進んでいきます)。この場合、B工程を除く各工程の処理速度が「1時間当たり5つ」で、B工程のみが「1時間当たり2つ」であれば、最終的にE工程を経た完成品は「1時間当たり2つ」しかできません。この場合、全体の処理速度を落としているB工程を「ボトルネック」といいます。ボトルネックは大きな問題ですが、逆の見方をすると、ボトルネックさえ解消することができれば、生産性は劇的に改善します。

ここでは、生産プロセスを例に説明しましたが、ボトルネックという考え方は商品の開発などにおいても同様です。技術の進展などによりボトルネックが解消されることで、商品の質や性能などが飛躍的に向上し、従来の商品では充足できなかった消費者ニーズを充足できるようになる可能性があります。

3)「時間・量・場所」に注目する

「消費者ニーズを捉えた商品づくり」といった取り組みを見ると、商品の持つ機能や特性といった「商品面」や、消費動向に大きな影響を与える「価格面」にのみ注力しているケースが散見されます。その結果、商品面や価格面以外のさまざまな消費者ニーズが見落とされていることがあります。例えば「『必要なときに、必要な量、必要な場所で』の商品が欲しい」といった消費者ニーズです。

一見、当たり前のことのようですが、「時間・量・場所」に要因に注目することで、ビジネスチャンスを発見できることもあります。「時間」でいえば、宅配便事業者が行っている荷物の配送時間帯を指定できる「時間指定配送」というサービスが代表的な例です。また、「量」という観点でいえば、単身者や一人暮らしの高齢者層の需要に対応した小分けの総菜などがあります。「場所」でいえば、通信販売で発注した商品を、自宅ではなく指定したコンビニエンスストアに配送してもらい、受け取ることができる「コンビニ受け取りサービス」があります。

4)「業界の常識」に注目する

「業界の常識を打破しろ」とは、ビジネスチャンスをつかんだ経営者などがよく口にする言葉です。確かに、業界内だけで通用するような商慣行や暗黙のルールといった「業界の常識」を打ち破ることでビジネスチャンスが広がる場合があります。

例えば、近年、葬祭業界では料金体系とそこに含まれるサービスを事前に明確にした「葬儀パック」などを提供している企業があります。「消費者に対して料金を明確に伝える」ことは、普通に考えれば「商売のいろはの『い』」に相当する基本的な条件です。 しかし、葬儀は、棺・祭壇・霊柩車や送迎用のバスなどさまざまな費用が別々になっている上、それぞれにグレードがあり、そのグレードに応じて料金が異なるなど、料金体系が非常に複雑です。こうした料金体系は長い間「業界の常識」とされてきました。

一方、消費者(利用者)側から見ると、葬儀社を利用する機会は限られており、料金体系や費用相場に詳しくないこと、突然の出来事の中でゆっくりと費用などを確認している時間がないなどの理由から、「料金が分かりにくい」「当初の説明よりも費用が多く掛かっている気がする」など、料金に不満を持つ消費者は少なくありませんでした。このような消費者のニーズを背景に、料金を明確にしている企業が支持を集めています。

この視点からビジネスチャンスを発見する際の問題は、そもそも業界の常識に気付かないことです。そのときに、有効なのが、他の業界と自らの業界を比較してみることです。そうすると、「業界の常識」が持つ盲点に気付くきっかけとなることがあります。

5)トレンドの「深掘り」を行ってみる

消費者は、ある商品によって自身の持つニーズが満たされると、一旦はそれで満足します。しかし、その商品を一旦「経験」すると、消費者ニーズはより高度なものへとシフトする傾向があります。先に紹介したオレンジジュースの例でいえば、最初は、「オレンジ味のする飲み物が欲しい」と考え、果汁10%のオレンジジュースで満足していたものが、今度は「より健康的なものが欲しい」と考え、果汁100%のオレンジジュースへとニーズがシフトします。最終的には「果物本来の持つ、新鮮さが味わえるものが欲しい」と考え、絞りたてのフレッシュジュースへとニーズが変化するようなケースです。

また、消費者ニーズは、高度化する過程で多様化が進むことも少なくありません。例えば、フレッシュジュースへのニーズが高まる一方で、「コップ1杯じゃ物足りないので、もう少し量の多いジュースが欲しい」「○○産のオレンジを使ったジュースが欲しい」といったニーズが出てくるといったケースです。

こうした高度化・多様化する消費者ニーズを捉え、ビジネスチャンスにつなげていくためには、消費者ニーズのトレンドを「深掘り」した商品を販売することが有効です。

6)「逆バリ」を行ってみる

先の例とは逆に、市場で主流と見られる消費者ニーズに逆らうような商品を開発することによって、ビジネスチャンスを見いだすケースもあります。

「逆バリ」商品が人気を集める背景には、消費者ニーズの多様化があります。一つのカテゴリーの商品群の中で、質の高い高価な商品を好んで購入する消費者もいれば、価格を重視して安価な商品を好む消費者もいます。また、同じ消費者でもその商品を購入・利用する状況によって選択する商品は異なる場合もあります。

「逆バリ」の商品は当該市場におけるメーン商品となることは少ないものの、一定の市場を確実にキャッチすることができるのです。

7)まとめ

ここで紹介したものは、ビジネスチャンスを発見する際に参考となる視点の例であり、こうした視点から検討をするだけで、簡単にビジネスチャンスを発見できるわけではありません。あくまで、消費者ニーズや市場動向などの情報を収集した上で、こうした視点を参考にしながら新たなビジネスチャンスについて検討してみるとよいでしょう。

本稿では、ビジネスチャンスの発見方法についていくつかの視点を紹介してきました。しかし、実際には、自社の経営資源に見合った実現可能なビジネスチャンスの獲得というものは、そう都合よくつかめるものではありません。

ビジネスチャンスをつかむ上でまず重要なことは、ビジネスチャンスを見落としてしまわないように、「担当者が積極的かつ敏感にビジネスチャンスを模索し続ける」「担当者の下に自社や業界の情報が集まってくる体制をつくり上げる」ことです。

以上(2018年4月)

pj80006
画像:fizkes-shutterstock

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