書いてあること
- 主な読者:魂のこもった中期経営計画を策定したい企業の関係者
- 課題:自社の中期経営計画を策定あるいは見直しし、具体的な行動につなげたい
- 解決策:フレームワークを使って現状と未来を、定量・定性両面からまとめる。「策定」は目的ではなく、あくまでも実行が大切
1 中期経営計画とは何か
中期経営計画とは、企業が3~5年先の「将来あるべき姿」の実現に向けて現状を改めて確認し、これからやるべきことを定めた計画です。特に経営環境が刻々と変化しているときには、中期経営計画によって企業の進むべき方向性を明確にし、内外に示すことが大切です。
中期経営計画で示される3~5年の活動は、単年度の事業計画にも落とし込まれます。「将来あるべき姿」の達成に向け、年度ごとの売上目標・製品販売個数などに反映することで、具体的にどのような行動を起こせばいいかが定まってきます。
企業によりますが、中期経営計画は、基本的には以下の図のような手順で策定します。
この記事では、中期事業計画の事前準備から策定、運用に至るまでの一般的な流れと、そのポイントをご紹介します。
2 フレームワークを活用して、現状分析をしてみよう
1)現状分析で活用できるフレームワークとは
中期経営計画を策定するには、まず自社の現状を確認し分析することが必要です。ここでは
- 外部環境を分析する「PEST分析」
- 顧客(市場)・競合・自社の現状を洗い出す「3C分析」
の2つのフレームワークを紹介します。自社を取り巻く環境について確認することが、中期経営計画策定に向けた第一歩です。
他にも外部環境・内部環境の分析に使えるフレームワークとして、自社の強み・弱みを確認する「SWOT分析」、業界の競争環境を分析する「ファイブフォース分析」などがあります。
2)PEST分析
PEST分析は、自社を取り巻く外部環境のうち、政治や経済といった世の中の大きな流れを整理し、確認するフレームワークです。「PEST」(ペスト)は、分析する4つの項目の頭文字を表しています。
- 政治(Politics):政府の方針、法改正などの動向
- 経済(Economy):景気、価格変動などの動向
- 社会(Society):社会的な背景、世論などの動向
- 技術(Technology):技術革新、代替技術などの動向
項目ごとに現状を洗い出し、それが自社にとってプラス(↑)なのかマイナス(↓)なのかをまとめます。分析を重ねていけば、単に現状を理解するだけでなく、これからの時代の変化を予測するのにも役立ちます。
3)3C分析
3C分析は、顧客(市場)・競合・自社の現状を洗い出すフレームワークです。顧客(市場)のニーズや、競合に対する自社の優位性といった現状を把握するための基本となるものです。それぞれ確認する主な指標や項目などは次の通りです。
- 顧客(市場)(Customer):市場規模、成長性、購買動向、ニーズの変化など
- 競合(Competitor):販売実績、販売価格、新製品開発、営業戦略など
- 自社(Company):市場シェア、技術力、営業力、収益性、安全性、生産性など
3C分析では、市場規模・販売実績・市場シェアなどの定量面と、顧客(市場)のニーズの変化・競合の営業戦略といった定性面の両方を洗い出します。特に難しいのは定性面ですが、現場の営業担当者が持っている情報などが参考になるでしょう。
PEST分析や3C分析などを活用して現状を把握する際は、財務省「貿易統計」や内閣府「景気動向指数」、総務省「国勢調査」などの公的データに加え、新聞、インターネット、関係各所へのヒアリングなどが必要です。
3 戦略策定の要は「事業ドメイン」
現状分析で自社の立ち位置を把握したら、「戦略策定」を行いましょう。戦略策定とは、「将来あるべき姿」はどのようなものか、それに向かってどのように進むかを描いていくものです。
1)事業ドメインを検討する
戦略策定のためにまず重要なのは、自社が勝負する事業領域である「事業ドメイン」を決めることです。
創業時などを除けば、既に事業ドメインは決まっていることが多いでしょう。そのため中期経営計画を策定する際には、現状分析に基づいて、「事業ドメインを見直すかどうか」を検討することになります。
事業ドメインの決定や見直しは、企業が今後成長していくために重要な“要”であり、経営者1人の知見で考えられるものではありません。企業規模にもよりますが、日々現場でビジネスを進めている社員の、自社に対する意見をよく聞くことも大切です。
2)アンゾフの成長マトリクスで戦略を策定
今後、企業を成長させるための戦略を決めるには、どの市場・製品で成長していくのか、専業でいくのか多角化するのかなどを考えなければなりません。こうした戦略策定に活用できるのが、「アンゾフの成長マトリクス」です。
「既存市場×既存製品=市場浸透」は、これまでの自社のノウハウを活かしやすいこともあり、成功率が高い戦略といわれています。具体策としては、新しい提案方法で使用量を増やすなどが考えられるでしょう。
「新規市場×既存製品=新市場開拓」は、例えばターゲットの拡大です。既存製品を使って他の顧客(市場)を開拓するので、既存製品に対するニーズがありそうな顧客(市場)を見極める力や、営業力の強化が必要になるでしょう。
「既存市場×新規製品=新製品開発」は、既存顧客の潜在ニーズの掘り起こしが求められるでしょう。
「新規市場×新規製品=多角化」では、思い切った新規事業開発が必要になるかもしれません。
こうして全体的な方向性が決定した後は、それを実現するためのマーケティング戦略や人材戦略などを個別に決めていくことになります。個別の戦略策定では、どこに経営資源を集中させるかという点を重視するとよいでしょう。
4 計画立案は「課題」と「数値」がポイント
1)盛り込むべき内容
戦略策定の後、いよいよ具体的な計画を立案します。進め方としては、ビジョンにたどり着くために解決すべき課題を、時間軸とともに盛り込んでいくのが分かりやすいでしょう。次のような項目などで資料に落とし込むイメージです。
具体的な計画立案では、活動計画に落とし込んでいくのが難所の1つです。そこで、「理由:なぜこの課題を改善するのか」「手段:改善するために必要なことは何か」などを整理していきます。
例えば、「理由:新規市場開拓に注力するためには営業面の人材確保・育成が課題」「手段:既存の営業担当者の社外研修、新しい営業担当者の採用枠拡大」といったことが考えられるでしょう。
改善する課題は企業によって違いますが、課題となりやすいのは売上増大や管理者層の育成、資金繰りなどです。現状分析に基づく自社の課題に加え、日本政策金融公庫「事業計画書」などを参考にすると、抜け漏れがなく課題を考えられるでしょう。
2)数値計画を踏まえた経営計画
計画立案では、これからの活動を具体的な数値に落とし込みます。企業の状況にもよりますが、「営業利益」がポイントの1つです。3~5年先には「本業でどれだけもうけられるようになっていたいか」を念頭に、数値計画を立てていきます。
ただし、数値が一人歩きするようではいけません。3~5年先のビジョンを達成するため、「いつ、どのような課題を解決するか」「どのように営業利益を伸ばしていくか」といった活動計画と連動させると、具体的な経営計画となります。
5 中期経営計画を運用していくための4つのポイント
1)経営者が自ら全社員に伝える
まず、中期経営計画の内容を、経営者が全社員に伝えることが大切です。外部環境・内部環境から自社の置かれている現状を説明し、「なぜこのような中期経営計画が必要なのか」というところから話します。
このとき、ビジョンをしっかりと伝えましょう。例えば、「今から10年後の203X年に、我が社は○○のような姿になっている」と理想を語り、社員に夢を持たせるのもよいでしょう。
2)責任者を明確にする
活動計画には、具体的なプロジェクトやタスクが盛り込まれます。それらを進行し、経営者に進捗状況を報告する責任者を明確にします。経営者は責任者と話し合い、「いつまでに」「何をするか」を決め、ガントチャートを作成しておくとよいでしょう。こうして責任者を明確にしておけば、「計画は立てたものの、誰も何も動いていなかった」という事態を防げます。
また、細かな確認のためにプロジェクトなどの進行が止まらないように、責任者にはある程度の権限を与えることも必要です。
3)進捗を確認できる仕組みをつくる
進捗を確認できる仕組みをつくります。例えば、毎月1回、責任者を集めて報告会を行うようにします。オンラインミーティングが定着した今、地理的に離れた場所にいる責任者ともコミュニケーションが取りやすくなりました。事前に動画や資料で状況を報告してもらうことで、責任者が順番に話す単なる報告会ではなく、その場で議論ができるようになります。
4)月次決算を行って予実管理をする
月次決算は、中期経営計画の達成度合いを把握するのに有効です。とはいえ、年度末の決算書のようなルールがないので、数値計画と照らし合わせやすいように、売上や利益であれば取引先別・製品群別に管理するなどの工夫が必要です。いわゆる「管理会計」の分野です。
ただし、管理会計は凝り過ぎると実務負担が大きくなるので注意しましょう。売上原価を管理する場合はあまり科目を細かくせずに、固定費と変動費の内訳がおおよそ分かるくらいのレベルでよいでしょう。
6 中期経営計画にとって本当に必要なもの
中期経営計画は策定して終わりではなく、実行、つまり具体的な行動が伴わなければ意味がありません。また、行動の内容は外部環境・内部環境の変化などに応じて柔軟に見直す必要があります。その時々の状況によって優先すべきことは変わってくるからです。
また、市場環境が大きく変化した場合は「将来あるべき姿」そのものを見直さざるを得ないこともあります。企業にとって、「将来あるべき姿」はとても重要ですが、企業経営では、多角化によって事業ドメインそのものを変えなければならないこともあります。こうした大きな方向転換は大変なことです。
とはいえ、「事業ドメインそのものを変えるべき」なのに、その変化に気付かず進んでしまうことのほうが問題です。「将来あるべき姿」を決めたからといって、必ずそのゴールにたどり着かなければならないわけではないのです。
中期経営計画を策定した後は、常に「本当にこれが自社にとって正しいのか」を客観視する目を持ち、変化を捉え続ける努力が求められます。こうした努力こそが、中期経営計画を支え、企業の未来をつくっていくのです。
以上(2024年10月更新)
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