書いてあること
- 主な読者:防災訓練をしっかりしておかなければならないと感じている経営者
- 課題:具体的に何を訓練すべきか分かっていない
- 解決策:応急救護訓練、通報・伝達訓練、消火訓練、避難訓練を押さえる
1 【提案】日ごろからの訓練で災害に備えましょう!
大地震などの災害時に適切な行動が取れるようにするため、日ごろの訓練はできていますか。2011年の東日本大震災では、大津波に襲われた岩手県釜石市で、鵜住居(うのすまい)地区の児童・生徒約570人が日ごろの防災訓練・防災教育を活かして全員無事に避難した「釜石の奇跡」が注目されました。
2024年は元日から令和6年能登半島地震が発生、その後も各地で豪雨被害が相次いでいます。また、8月8日の日向灘地震(宮崎県日向灘を震源とする地震)に伴い、南海トラフの巨大地震への注意を呼びかける臨時情報が発表されるという出来事もありました。今、改めて企業の防災意識と具体的な備えが求められています。具体的には、以下を実現させましょう。
- 災害が発生した場合の初動対応の流れ(全体像)を理解する
- 初動対応を円滑に進められるよう、代表的な防災訓練である「応急救護訓練」「通報・伝達訓練」「消火訓練」「避難訓練」のポイントを押さえ、実施する
2 仕事中に大地震が発生したらどうする?
仕事中に大地震が発生した場合を想定した場合の初動対応は、一般的に次のようになります。
- 安全確保と応急救護
- 通報と初期消火(火災が発生した場合)
- 避難
火災も発生してしまった場合には、周囲に火災が発生した旨を伝え、119番通報(第4章参照)を促した上で、初期消火(第5章参照)などを行います。
火災や建物の倒壊の危険があったり、役所・警察・消防から避難の指示があったりした場合はすぐに避難(第6章参照)します。避難の流れは次の通りで、火災や建物の倒壊の危険がなく、役所・警察・消防から避難の指示がない場合、会社が避難すべきかどうかを判断します。
- 近所の学校や公園などの「一時集合場所」に避難
- 一時集合場所への避難が危険な場合、大きな公園・広場などの「避難場所」に避難
- 火災や建物の倒壊の危険がなくなり自宅に被害がない場合、帰宅
- 自宅で生活できない場合、学校などの「避難所」に避難
以上が、大地震が発生した場合の初動対応の流れですが、日ごろから訓練していなければ、いざというとき適切な対応を取るのは難しいです。次章からは、いよいよ具体的な防災訓練のポイントを見ていきます。ここまでの初動対応の流れを踏まえ、
- 応急救護訓練
- 通報・伝達訓練
- 消火訓練
- 避難訓練
という順番で紹介します。
防災訓練についてより詳細な情報を知りたい方は、総務省消防庁のマニュアルなども参考になります。また、訓練内容や消防署員の派遣などについて相談したい方は、最寄りの消防署にお問い合わせください。
■総務省消防庁「消防安第31号 小規模ビル避難等訓練マニュアルについて」■
https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/post1367/
■東京消防庁「自衛消防訓練~もしもの時に備えて訓練していますか?~」■
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/office_adv/life11.htm
3 応急救護訓練
1)応急救護訓練の概要
災害が発生したとき、まずは身の安全を確保し、周りの人の安否を確認します。その際、けがをした人に応急救護する必要があります。応急救護訓練では、三角巾やAED(自動体外式除細動器)の使い方、人工呼吸や心臓マッサージのやり方などを身に付けます。専門的な内容もあるので、可能であれば消防署に相談の上、救命講習を受講するのが理想です。総務省消防庁の「一般市民向け応急手当WEB講習」サイトなどでも、基本的な知識を学ぶことができます。
■一般市民向け応急手当WEB講習■
https://www.fdma.go.jp/relocation/kyukyukikaku/oukyu/index.html
2)応急救護訓練のポイント
応急救護の基本的な流れは、
- 負傷者の状況を確認し、必要に応じ119番通報する
- 救急車の到着まで手当てをする
です。
手当ての内容は、「出血している」「骨折している」「意識・呼吸がない」などの状況によって異なるので、救命講習で状況ごとの対応を習いましょう。また、救命処置の一環として、特にAEDの場所と使い方は社員に周知しておきましょう。
AEDとは、心臓がけいれんして血液を全身に送れない状態(心室細動)になった場合、電気ショックを与えて蘇生を試みるための医療機器
です。
一般市民が心肺蘇生を実施した傷病者(全体)の1カ月後の生存率は12.8%なのに対し、AEDを使用した傷病者の1カ月後の生存率は50.3%になっています(総務省消防庁「令和5年版 救急救助の現況」)。AEDは全国の駅や公共施設など、さまざまな場所に設置されています。AEDの設置場所を検索したり、地図上で確認したりできるサービス・アプリが登場しているので使ってみるとよいでしょう。
■日本救急医療財団「財団全国AEDマップ」■
https://www.qqzaidanmap.jp
■日本AED財団「AED N@VI」■
https://aed-navi.jp
■アルム「日本全国AEDマップ」■
https://aedm.jp
AEDの基本的な使い方については、前述した一般市民向け応急手当WEB講習のサイトなどで動画が公開されているので、こちらも併せて社内に周知しておきましょう。
■一般市民向け応急手当WEB講習「心肺蘇生 AEDの基本的な使い方」■
https://www.fdma.go.jp/relocation/kyukyukikaku/oukyu/01futsu/05shinpai/01_05_11.html
4 通報・伝達訓練
1)通報・伝達訓練の概要
通報訓練では、火災などの災害発生時から通報するまでの一連の流れ(119番通報の方法、非常放送の流し方など)を身に付けます。119番通報の訓練で実際に119番通報することもできますが、この場合は消防職員の立会いが必要です。
2)通報・伝達訓練のポイント
119番通報などをする場合の基本的な流れは、
- 非常ベルを押す
- 火災を確認後、非常放送などで社内に知らせる
- 119番通報する
です。非常放送では、次のように「火災の状況」と「社員に対する指示」を正確かつ簡潔に知らせます。
- (非常ベルを押した場合)ただ今○階で、非常ベルが作動しました。現在、確認中ですので、指示があるまで待機してください
- (火災の発生を確認した場合)ただ今○階で、火災が発生しました。所属長の指示に従って避難してください
- (確認したが、火災でなかった場合)先ほど今○階で、非常ベルが作動しましたが、火災ではないことが確認できました。安全を確認しましたので、ご安心ください
- (火災が発生後、消火が完了した場合)先ほど〇階で発生した火災の消火が完了しました。避難中の社員の皆さんは、安全の確認が取れるまでそのまま待機してください
消防署員にも正確かつ簡潔に状況を伝えます。総務省消防庁が、通報に便利な「119番通報メモ」を公表しているので、あらかじめ通報項目を記入して、電話機の前などに貼っておくとよいでしょう。なお、スマートフォンの場合は通報前にGPS機能をONにしておくと、災害発生場所の特定がより迅速になることが期待できます。
5 消火訓練
1)消火訓練の概要
消火訓練では、消火器や屋内消火栓の使い方を身に付けます。屋内消火栓は消火器よりも放水能力が高く、消火器での初期消火が難しい場合などに使われます。
放水訓練(実際に燃えている火を消す訓練)の場合、最寄りの消防署や防災センターなどに問い合わせることで、訓練が受けられます。最近はVRなどを使って、初期消火を擬似的に体感しながら学ぶ訓練もあります。
2)消火訓練のポイント
消火器を使う場合の基本的な流れは、
- 火事だと大きな声で周囲に知らせる
- 消火器を取りに行く
- 初期消火を行う
です。消火器は安全ピンを抜いてから使用しますが、運搬時に誤ってピンを抜くと事故のもとなので気を付けましょう。また、
消火器で初期消火を行える限界は、炎が天井に到達するまでが目安
です。危険を感じたら直ちに初期消火を中止し、安全な場所に避難してください。
なお、消火器は使用期限を過ぎると腐食が進み、破裂などの事故を起こす恐れがあります。
使用期限は、業務用消火器の場合で約10年(住宅用消火器は約5年)
ですので、社内の消火器が使用期限を過ぎていないか必ず確認してください。屋内消火栓を使って消火を行う場合、
- 1号消火栓(ホースを延長しないと、水を流せないタイプ)
- 2号消火栓・易操作性1号消火栓(ホースが収納状態でも、水を流せるタイプ)
の2種類があり、それぞれ操作要領が違うので注意が必要です。下記にて両者の違いがイラスト付きで掲載されているのでご確認ください。
■総務省消防庁「小規模ビル避難等訓練マニュアル 消火訓練」(下記2枚目を参照)■
https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/items/160305an31_1.pdf
6 避難訓練
1)避難訓練の概要
避難訓練では、通路・階段を使った、安全な場所までの避難方法を身に付けます。火災で煙が出ることを想定する場合、ハンカチやタオルで鼻・口を押さえ、姿勢を低くして避難します。
避難器具(緩降機や避難はしご)の使い方を訓練する場合、事故防止のため消防署員の立会いのもとで行うことが推奨されています。
2)避難訓練のポイント
非常放送(第4章)が流れてから避難するまでの基本的な流れは、
- 避難誘導を行う
- 避難通路・避難階段を使って外に出て、安全が確保できる場所まで誘導する
- 避難者を確認する
です。避難誘導は、所属長が拡声器を使うなどして避難ルートを指示しながら行います。エレベーターの使用は禁止し、あらかじめ決められた通路・階段を使って外に出ます。この際、
通路・階段に物が放置されていると、消防法違反になる上、避難経路が断たれてしまう
ので、避難ルートの状況は必ず確認しておきましょう。誘導灯の照明が切れていないかなども要チェックです。
実際は出火場所などによって通れない通路や階段も出てくるので、
避難ルートを何パターンか決めておき、出火場所の想定を訓練のたびに変えるなどして、状況に合わせた避難ができるよう社員を訓練すること
も大切です。
避難器具については、使い方が分からないという社員も少なくないので、消防署員の立会いのもと、学習の機会を設けましょう。また、東京消防庁のウェブサイトでは、緩降機や避難はしごの使い方を動画で説明しているので、併せて社員に周知するとよいでしょう。
■東京消防庁「消防用設備などの取扱い要領メニュー」■
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/learning/contents/shobo-setsubi/#breadcrumb
以上(2024年9月作成)
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画像:TY Lim-shutterstock