1 あなたの老齢年金はいくら?
人生100年時代。何だかんだといっても「老齢年金」にも頼りたいところです。皆さんが知りたいのは、「何歳になったらいくらもらえるのか?」ということだと思いますので、この記事で、2025年10月27日時点の制度に基づいたシミュレーションを示します。先に老齢年金の基本ルールを知りたい人は、こちらのコンテンツをご確認ください。
さて、この記事でシミュレーションのモデルとなるのは、次の条件のAさんです。なお、Aさんは60歳以降も厚生年金保険に加入しながら働いていますが、60歳以降の賞与支給はないものとします。
- 生年月日:1965年4月2日(2030年4月1日に65歳)
- 性別:男性
- 生計維持関係にある家族:妻(2030年4月1日に60歳)
- 国民年金保険料の納付済期間:2025年4月1日時点で40年(1985年4月1日加入)
- 厚生年金保険の被保険者期間:2030年4月1日時点で42年(1988年4月1日加入)
- 平均標準報酬月額(2003年3月31日まで):29万円
- 平均標準報酬額(2003年4月1日以降):44万円
(注)平均標準報酬月額、平均標準報酬額は、厚生労働省「健康保険・船員保険被保険者実態調査(令和5年10月)」を基に算定。
老齢年金は、原則として65歳からもらえます。Aさんの老齢年金の支給額(原則)は次の通りです。

受給開始は2030年4月1日以降、支給額は月額20万5324円ですが、これだけで老後の生活を支えられるか気になります。そもそも老後の生活費はどのぐらいなのか、次の章で確認してみましょう。
2 老齢年金だけだと厳しい?
総務省「2024年家計調査」によると、1世帯1カ月当たりの実支出(2人以上、勤労者世帯)は次の通りです。

Aさんの老齢年金の支給額(原則)は月額20万5324円でした。妻の老齢年金やその他の収入もあるので一概に言えませんが、
65~69歳の実支出(総額)が月額38万6131円であることを考えると、少なくともAさんの老齢年金だけで生活を支えるのは難しい
といえそうです。
3 働きながら老齢年金をもらうと支給額が減る?
60歳以降も厚生年金保険に加入したまま、働きながら老齢年金をもらうと、
「在職老齢年金」といって、賃金額に応じて老齢年金が調整される仕組みの対象
になります。老齢年金と賃金の合計額が「支給停止調整額」というボーダーラインを超えると、老齢年金が減額されます。減額の対象は老齢厚生年金だけであり、老齢基礎年金は対象外です。
ここでは、Aさんの60歳到達時の賃金などの前提条件を、次のように設定します。
- 60歳到達時の賃金(月額):44万円
- 基本月額:9万6108円(65歳時点における老齢厚生年金の報酬比例部分の額)
- 総報酬月額相当額:44万円(65歳時点における標準報酬月額、賞与の支給はなし)
(注)60歳到達時の賃金は、厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」(産業計、男性(学歴計)、55~59歳の所定内給与額)を、総報酬月額相当額は日本年金機構「厚生年金保険料額表」を基に算定。
2025年4月1日以降の在職老齢年金の制度では、
基本月額と総報酬月額相当額の合計が51万円を超えると、老齢年金が減額される
ことになっています。基本月額は老齢厚生年金の報酬比例部分のことなので、60歳以降の賃金が下がればその分、65歳から受給できる年金額(基本月額)も下がり、老齢年金は減りにくくなります。この点を強調し「賃金が維持されても、手放しで喜ぶべきではない」と示す記事もありますが、在職老齢年金の調整対象となったとしても、
老齢年金が減るだけで全体の収入は増えますし、会社もこの点を考慮して賃金を設定する
ため、それほど気にする必要はないという見方もできます。Aさんが65歳から老齢年金をもらう場合の収入(月額)は次の通りです。

賃金が60%に下がったとしても月額46万4392円なので、前述した月額38万6131円(65~69歳の1世帯1カ月当たりの実支出)を超えます。
なお、賃金100%の場合、現状のルールでは基本月額(9万6108円)と総報酬月額相当額(44万円)の合計が51万円を超えるため、在職老齢年金で1万3054円の減額が発生していますが、
2026年4月1日からは支給停止調整額が「51万円」から「62万円」に引き上げ
られるため、2026年4月1日以降のルールでは減額は発生しないことになります。
【支給停止調整額が51万円 → 62万円に引き上げられた場合の月の収入】
- (賃金の低下率100%)63万2270円 → 64万5324円
ちなみに、厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受給している65歳以上70歳未満の方は、毎年10月に年金額が見直されることになっています(在職定時改定)。
以前は65歳以降に支払った厚生年金保険料が年金額に反映されるタイミングは、70歳到達時または退職時など限定的でした。しかし、2022年4月の法改正により、基本月額は毎年見直しされることが決まったため、在職老齢年金にも少なからず影響が派生することになります。
4 60歳から老齢年金をもらう場合は?
60歳から65歳までの生活が不安な場合、「繰り上げ受給」といって、老齢年金をもらう時期を前倒しにすることができます。ここでは支給を60歳に繰り上げることを想定します。この場合、老齢年金(加給年金は繰り上げできず、65歳から満額を支給)は60歳からもらえますが、
支給を繰り上げた5年分、支給額が減る(Aさんの場合、24%の減額)
ので注意が必要です。また、老齢年金と「高年齢雇用継続給付」を同時にもらう場合も、老齢年金が減ります。高年齢雇用継続給付とは、雇用保険給付の1つで、
賃金額が60歳到達時の75%未満に低下した場合に、低下後の賃金に一定率を掛けた額の給付を受けられる制度(65歳になると支給終了。2025年4月以降の最大給付率は10%)
です。
Aさんが60歳から老齢年金をもらう場合の収入(月額)は次の通りです。

支給を繰り上げた分、60~64歳の収入は安定しますが、65歳以降の老齢年金は減るので、慎重な判断が必要です。
5 75歳から老齢年金をもらう場合
老後の生活に余裕がありそうな場合、繰り上げ受給とは逆に、「繰り下げ受給」といって老齢年金をもらう時期を後ろ倒しにすることができます。ここでは支給を75歳に繰り下げることを想定します。この場合、老齢年金の受給開始は75歳からとなり、
支給を繰り下げた10年分、支給額が増える(Aさんの場合、84%の増額)
ことになります。ただし、繰り下げ受給だと繰り下げた期間についての加給年金は一切もらえず、繰り下げた分に対する増額もありませんので注意する必要があります。Aさんが75歳から老齢年金をもらう場合の収入(月額)は次の通りです。

支給を繰り下げた分、75歳以降の収入が多くなります。ただ、65~74歳の間は賃金や私的な年金などで生活しなければならないので、60歳以降も賃金が多い人や貯蓄に余裕がある人に向いているといえます。
なお、賃金の低下率が100%、90%、80%の場合、図表5の通り在職老齢年金による減額が発生しています。ただ、こちらも2026年4月1日から支給停止調整額が51万円から62万円に引き上げられた場合、減額される部分が小さくなるため、月の収入が次のように変わってきます。
【支給停止調整額が51万円 → 62万円に引き上げられた場合の月の収入】
- (賃金の低下率100%)72万7222円 →78万2222円
- (賃金の低下率90%)70万3709円 → 74万4709円
- (賃金の低下率80%)67万8684円 → 69万4658円
以上(2025年12月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)
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