書いてあること
- 主な読者:効果的な業務改善策を打ち出せずにいる経営者
- 課題:業務改善の取り組み方法が分からない
- 解決策:「5S」の考え方を業務改善に転用する
1 言われるまでもない「業務改善」
現在、働き方改革の文脈で「業務改善」が叫ばれていますが、経営者に言わせれば、経営を始めた瞬間から意識している課題でしょう。しかし、これがなかなかうまくいきません。
業務の見える化や標準化などを進めるといっても抜本的な改革には至らず、局所的に改善されれば、別の場所で問題が出てきます。また、そもそも“削る”ことが前提の業務改善は、従業員にとっては楽しくないのです。
とはいえ、限られた人員で効率性や生産性を追求することが求められる経営に、業務改善は必須です。こうした問題意識を持つ経営者にご提案したいのが、職場環境の改善に使われる「5S」を応用した業務改善です。早速、見ていきましょう。
2 5Sの考えに基づく業務改善策
「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」を表す5Sは、考え方がシンプルで分かりやすいため、従業員は業務改善という漠然とした施策であっても、取り組むべき内容をイメージしやすくなります。
5Sによる職場改善活動を経験済みの企業ならなじみもあり、業務改善のハードルを下げる効果が見込めるでしょう。5Sの5つのキーワードを業務改善に置き換えると、次のようになります。
以降では、業務改善の進め方に合わせ、「清掃」「整頓」「整理」「清潔」「しつけ」の順に並び替えて、企業が取り組むべき業務改善策と、成功に導くポイントを紹介していきます。
1)清掃(無駄な業務を取り除く)
今ある業務を「清掃」し、無駄な業務を取り除きます。そのためには業務の担当者以外でも業務の実態を把握できるよう、図表を使って表すことが大切です。
業務の全体像を俯瞰(ふかん)できるようにします。具体的には、業務を粒度に応じて3段階(大・中・小)程度に分類し、業務を構成する全ての「作業」を抽出します。例えば「受注業務」の場合、次のように業務を分類します。
業務に関与しない従業員に図表を見せ、気になる点を指摘してもらいます。図表2の例で言えば、「『見積書の作成』は営業部で同様の作業をしているはず」「『次の納品日の確認』は受注業務には不要ではないか」などです。別の業務で同様の作業をしている従業員がいれば、「『電話による注文確認』は優良顧客に限り営業担当者の私が電話している。電話が重複しないか」などの指摘もあるでしょう。
こうして全社で業務(作業)内容や範囲を共有・修正し、何が必要で何が不要なのかを線引きします。業務の前後の工程を把握しておくと、重複する作業を見つけられるため、無駄な作業を絞り込みやすくなります。
特に、次の点に注意して業務の「清掃」を進めましょう。
- 業務担当者以外でも業務内容を把握できるよう、可視化する
- 作業内容を一番理解している現場の担当者主導で業務を分解する
- 全社で業務(作業)内容や範囲の認識の違いを埋める
2)整頓(業務を標準化する)
次に、効率的な業務に「整頓」し、業務をきれいに直します。生産性の向上や属人的な作業の排除などといった、目的に照らした業務の理想型を目指します。
こうした業務像を描くときに欠かせないのが「業務マニュアル」です。何のための業務(作業)なのかを明示するとともに、どの手順で進めるのが効率的なのかを示します。担当者不在でも業務が停滞しないようにしたり、特定の従業員が持つ属人的かつ効率的な作業手法を、他の従業員に引き継いだりする上でも必要です。
業務マニュアルは、業務(作業)内容を事細かく説明するのが基本です。起こりがちなトラブルを例示したり、抜け漏れを防ぐチェックリストをつくったりしてもよいでしょう。例えば図表2の「該当商品の在庫状況確認」なら、「在庫システムと実際の在庫数が合っているか、物流センターに電話で現在の在庫数を確認する」「在庫を確保する際は、物流センターに確保数量と出荷日を報告する」などのチェックリスト例が考えられます。
特に、次の点に注意して業務の「整頓」を進めましょう。
- 各業務の最も効率的な手順を示した業務マニュアルを作成する
- 業務マニュアルが形骸化しないよう、手順を確認する機会を定期的に設ける
- 作業が複雑すぎて効率化できなければ、外部委託による効率化を検討する
3)整理(業務に適した体制をつくる)
次に、標準化した業務を適切に運用できるよう、組織や部署を「整理」します。組織や部署の役割を明確にし、所属スタッフが、何のための業務なのかを理解して取り組めるようにします。
業務マニュアル同様、組織や部署ごとの役割を文書化します。部署をまたがる業務に備え、組織や部署ごとの役割分担や業務分掌を明確にすることも必要です。別々の部署が同じ作業をすることによる無駄の発生を防ぎます。
また、無駄を省いてシンプルになった業務は、これまでと同じ作業時間をかけずに済むかもしれません。経営者は業務改善によって生まれた空き時間をどう活かすのかを、事前に踏まえておくことも必要です。
特に、次の点に注意して組織や部署の「整理」を進めましょう。
- 組織や部署ごとの役割を文書化する
- 場合によっては、業務改善を推進する専門チームの設置を検討する
- 新たな業務に最も適した組織や部署に再編する
4)清潔(従業員の不快感を取り除く)
次に、実際に業務改善に取り組む従業員の気持ちに目を向けます。不快感を抱いたまま取り組んでいる従業員の気持ちを、業務改善に「清潔(=真っすぐ)」に向き合うように意識を変えます。
これまでの業務内容や進め方を見直す業務改善は、少なからず現場からの抵抗を受けます。中には、やらされ感を抱いたり、面倒だと思ったりする従業員も少なくないでしょう。こうした従業員のモチベーションは施策の成否に影響します。
従業員の意識を変えるため、経営者が関与していることを表明するのが効果的です。経営者自ら、なぜ必要な取り組みなのかを、自社の置かれている危機的状況とともに説明します。こうした訴えにより、業務改善の必要性を従業員に感じ取ってもらいます。
特に、次の点に注意して従業員の気持ちを「清潔(=真っすぐ)」に変えましょう。
- 経営者が従業員に対し、取り組みの重要性や意義を説明する
- 従業員にアンケートを実施し、取り組みの満足度を調査する
- 従業員に無理や負荷がかからないスケジュールを計画する
5)しつけ(改善を定着させるルールをつくる)
最後は、改善した業務内容や進め方が定着するための「しつけ」、つまりルールをつくります。業務を改善して終わりではなく、見直した業務の不備や改善点などを洗い出します。これらの課題を集約し、どのように修正するか、誰が主導して見直すかなどを決め、継続的な施策として取り組むようにします。こうしたPDCAを繰り返すことで、業務の質を徐々に高めていきます。
業務に費やす時間が、改善前後でどの程度短縮したのかを比較してもよいでしょう。思ったより短縮していない、かえって時間がかかるなどの事態を想定した対策も踏まえておくべきです。目標とする短縮時間を事前に定め、改善後の効果を検証するのも有効です。
特に、次の点に注意して改善定着に向けた「しつけ」を検討しましょう。
- 一度の取り組みで終わらせず、継続的な施策として位置付ける
- 改善による効果が十分でないことを前提に、対策や体制を準備する
- 時間やコストなどの定量データによる分析・検証を実施する
3 業務の5Sを成功に導くポイント
1)高い効果を見込める業務から着手する
業務改善は、全ての業務を対象に取り組み始めると失敗します。業務の無駄を洗い出すだけで膨大な時間を要し、従業員が疲弊してしまうためです。
まずは、特に改善が必要な業務から手を加え、短期間に高い効果を見込めるようにするのが望ましいでしょう。スピード感を持って取り組むことで、従業員が業務改善の目的や効果を見失わないようにします。
その後、成功事例を他の業務や組織に横展開し、対象領域を徐々に拡大させます。期間や対象を絞った施策を複数回に分けて取り組めば、継続的な成果も見込めます。
2)業務改善の目的を明確にする
なぜ業務改善するのか、なぜその業務が必要なのかといった目的や狙い、目標を明確に示すことが重要です。目的が不明瞭なまま進めると、取り組み自体が目的化し、業務改善による十分な効果を見込みにくくなります。前述したように文書化し、全従業員が理解した上で進めることが大切です。
以上(2020年7月)
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