書いてあること
- 主な読者:自社株の評価額の引き下げ方法を知りたい経営者
- 課題:評価方式によって評価額の引き下げ方法が違うので分かりにくい
- 解決策:基本は収益や資産を減らすこと。会社規模の変更が有効な場合もある
1 自社株の評価をコントロールしたい
この記事で取り扱うのは、上場していない会社の株式は「取引相場のない株式等」(以下「自社株」)です。自社株の評価は収益や資産を増減させることで、ある程度はコントロールできますが、評価方式によって方法が違います。
なお、自社に適用される評価方式の決定方法や評価方式の詳細な内容(計算式など)については、以下の記事でまとめています。
▶ 30097 【自社株(2)】自社株の評価方式は会社規模と株主区分で決まる
▶ 80145 【自社株(1)】自社株の評価方式とそれぞれの計算式
2 類似業種比準方式による評価額を下げる
1)利益を減らす
1.含み損を実現させる
含み損を実現して利益を減少させます。例えば、時価が簿価を下回る棚卸資産を売却して売却損を計上します。また、回収の見込みのない売掛金や未収金のうち、損金計上ができるものを損金計上します。
2.役員の報酬・従業員の賞与を増やす
役員報酬などを増やして利益を減少させます。税務上の否認のリスクを低減するため、役員報酬規程等を整備し、それに基づいて運用します。同様に、従業員の賞与を増やすことでも利益を減らせます。
2)配当金額を減らす
配当金額を減らせば、類似業種比準方式による評価額を引き下げることができます。ただし、内部留保が厚くなると純資産価額が増えて評価額が上がる要因になるので、
普通配当を減らし、記念配当(創立10周年記念など)を行う
ようにします。類似業種比準方式で認識するのは普通配当だけなので、記念配当などは評価額の引き下げに有効なのです。
普通配当を減らす方法はオーナー会社でよく行われます。ただし、
2年間無配・1株当たりの配当をゼロにした場合で、他の比準要素である所得の金額もゼロになると類似業種比準方式が使えない
ことになります。この場合、純資産価額方式が適用されるので、逆に評価が上がる恐れがあります。
3)純資産価額を減らす
簿価を大きく下回った不動産などの資産を売却すると、利益金額の減少と併せて純資産価額を引き下げる効果が期待できます。
4)第三者割当増資をする
株式数を増やして、
1株当たり利益、1株当たり配当、1株当たり純資産価額の引き下げ
をします。ただし、株式数を増やしても持分が同じでは意味がないので、第三者割当増資をして第三者の持分を増やします。この場合、会社の支配権に影響するので、従業員持株会などを活用します。
第三者割当増資における税務上の留意点は、株式が有利な価額で発行されたと認定される場合です。通常よりも有利な金額で取得した有価証券の価額は、取得時における通常要する価額となります。通常よりも有利な金額の目安は10%以上の乖離(かいり)です。また、第三者割当増資によって既存株主から新株主に利益が移転したと判断されると、個人なら贈与税または所得税が、法人なら法人税が課税されることがあります。
5)従業員持株会の活用
社長一族の株式を従業員持株会に売却します。株価対策や節税対策になるだけではなく、従業員の財産形成のモチベーション向上につながります。
6)類似業種平均株価の低い業種への移行
複数の事業を営んでいる場合、類似業種比準方式では、取引金額の割合が50%超の主たる事業の業種を選択します。もし、各事業の売上が近ければ、売上構成を変更して評価が下がる業種に移行できます。
また、事業を別会社にできる場合、評価が高い事業を100%出資子会社として分離独立させたり、後継者が設立した会社に事業譲渡したりする方法もあります。
3 純資産価額方式による評価額を下げる
1)オーナーへ早期の退職金を支給する
純資産価額方式は、課税時期における資産、負債を相続税評価額により評価する方式です。
純資産価額=相続税評価額による資産額-負債の合計額-含み益(評価差額)×37%
株価を下げれば評価額も下がります。具体的な方法としては、役員退職金を支給して大きな赤字を計上し、自己資本を減らすことがあります。通常、役員退職金は最終の役員給与を基準に算定されるため、事前に役員給与の見直しも必要です。
役員退職金=退職時の役員給与月額×勤続年数×功績倍率等
なお、退任する代表取締役が、代表権を持たずに従前の報酬の2分の1以下にするなど一定の条件を満たした場合、「みなし退職」として、その後も非常勤役員(代表権のない会長や相談役)として会社に残れることがあります。
2)保有資産の見直し
含み益を減らすことでも評価額が下がります。具体的な方法としては、不動産投資があります。会社が所有する土地に賃貸用のビルやマンションなどを建設して賃貸すると、土地と建物の評価が下がり、含み益が減ります。なお、建設資金は自己資金でも借入金でも、同様の効果が期待できます。
3)赤字会社と合併する
赤字会社と合併すれば株価が下がります。ただし、自社の収益が大きく圧迫されることは避けなければならず、慎重な判断が必要です。
4 土地・株式保有割合を見直して評価額を下げる
総資産額のうち、
- 土地の占める割合が大会社では70%以上(中会社では90%以上)
- 株式の占める割合が50%以上
の場合は、原則として、純資産価額方式による評価となります。
なお、土地の占める割合が高い企業の場合、建物や設備を取得すれば割合を下げることができます。また、株式の占める割合が高い企業の場合、株式を売却すれば割合を下げることができます。
5 会社規模の変更
この記事で紹介してきたのは、上場していない会社の株式は「取引相場のない株式等」ですが、その税務上の評価方式は会社規模と株主区分で決まります。組織再編によって会社規模を変更することで評価方式が変わり、評価額を引き下げられる場合があります。組織再編には、会社組織の形態を変える会社法上の法律行為で、合併、会社分割、株式交換、株式移転、現物出資、現物分配といったものがあります。
以上(2023年6月更新)
(監修 南青山税理士法人 税理士 窪田 博行)
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