書いてあること
- 主な読者:会社法の基本を一から学びたい人・復習したい人
- 課題:会社法は複雑で難しいイメージがあり、とっつきにくい
- 解決策:会社経営の実務ごとに、関連する会社法のルールを押さえる
1 取っ付きにくい会社法を分かりやすく整理!
「会社法」とは、簡単に言うと、
会社にまつわる基本的なルール(会社の設立、組織、運営、管理など)を定めた法律
です。会社経営に直結するとても重要な法律ですが、内容が多岐にわたる上に専門用語も多く、「正直取っ付きにくい」という人も少なくないはずです。
とはいえ、900以上ある会社法の条文を丸暗記する必要はありません。
「会社の設立」「機関設計」「資金調達」「M&A(企業再編)」「会社の縮小」など会社経営の実務ごとに、関連する基本的なルールと要点を押さえておけばそれで十分
です。以降で関連記事と併せて紹介するので見ていきましょう。なお、会社法の「会社」は、
- 株式会社:株式の発行により、多くの人から出資を募る会社
- 持分会社(合名会社・合資会社・合同会社):株式を発行せず、自分たちで資本金を出資する会社
に分けられますが、このシリーズで対象とするのは「株式会社」です。
2 会社の設立
会社を設立する方法には、
- 発起設立:会社の設立を企画した発起人が、会社設立時に発行される株式(設立時発行株式)を全て引き受ける方式
- 募集設立:設立時発行株式のうち、発起人が一部だけを引き受け、その他の株式は第三者から募集する方式
の2種類がありますが、手続き(定款の作成・認証など)に問題があると、会社の設立が無効となってしまうこともあるので注意が必要です。
3 機関設計
会社は経営上の意思決定をしたり、適正な経営がされているか監視したりするため「機関」を設置します。また、複数の機関を会社に適した形に組み合わせることを「機関設計」といいます。
1)株式会社の機関と機能
会社が設置できる機関には、
株主総会、取締役、取締役会、代表取締役、監査役、監査役会、会計参与、会計監査人、監査等委員会、指名委員会等、執行役
などがあり、株主総会と取締役は必ず設置しなければなりません。
2)中小企業に多い機関設計のパターン
機関設計は「公開会社か非公開会社か」「大会社か非大会社か」などによって変わります。
- 公開会社:証券市場に株式を公開して、株主が株式を自由に譲渡・取得できる会社
- 非公開会社:発行する全ての株式について譲渡制限を定めている会社
- 大会社:資本金5億円以上、または負債200億円以上の会社
- 非大会社:大会社に該当しない会社(中小企業などが含まれる)
「非公開会社×非大会社」の中小企業の場合、「株主総会+取締役」「株主総会+取締役会+監査役」など、比較的シンプルな機関設計になることが多いようです。
4 資金調達
会社が株主から資金を調達する方法には、株式の内容の工夫、増資、新株予約権の発行、社債の発行、計算書類などがあります。それぞれ資金調達の形態や手続きが、会社法で細かく定められています。
1)株式の内容の工夫
さまざまなタイプの会社や株主の要望に応じられるよう、株式の内容を自由に設計できれば、それだけ資金調達がしやすくなります。会社法では、定款で一定の事項を定めることで、
9つの種類株式(剰余金の配当額や、残余財産の分配額が異なる株式など)を発行できる
ので、それぞれの特徴を押さえておきましょう。
2)増資
増資とは、新たに株式を発行して資金を調達する手法のことです。
- 第三者割当:特定の者に募集をかけ、応募者に株式を発行する
- 株主割当:既存株主に株式割当の権利を与え、応募者に株式を発行する
- 公募:不特定多数に募集をかけ、応募者に株式を発行する
の3つの形態があり、「公開会社か非公開会社か」などによって手続きの内容が異なります。
3)新株予約権の発行
新株予約権とは、会社の株式の交付を受けられる権利のことです(役員や社員にストックオプションとして付与するなど)。こちらも「第三者割当」「株主割当」「公募」の3つの形態があり、「公開会社か非公開会社か」などによって手続きの内容が異なります。
4)社債の発行
社債とは、会社が多額で長期間の資金を調達する際に行われる手法です。株式と違い、投資家は会社がもうかっていなくても、あらかじめ定められた利息を受け取れます。
- 社債権者となる者を募集する方法
- 特定の者に社債を引き受けさせる方法(総額引受)
があり、それぞれ社債の発行手続きが異なります。
5)計算書類
資金調達と併せ、会社法で作成が義務付けられている計算書類についても、内容や作成後の対応(計算書類の監査と承認、公告など)を押さえておきましょう。
5 M&A(企業再編)
「M&A(Mergers and Acquisitions)」は、新市場の開拓、競争相手の排除、コスト削減、経済規模の拡大などさまざまな目的で実施されます。M&Aには、合併と買収という2つの意味がありますが、両方の意味を含むものとして、「企業再編」という言葉が使われることもあります。
1)事業譲渡
事業譲渡とは、自社の全部または一部の事業を別の会社に売り渡すことです。事業そのものは存続し、事業を運営する会社が変わるというイメージです。大きな特徴は、
- 譲渡する事業の内容、範囲を自由に選択できる
- 通常、対価は株式などではなく金銭となる
ことです。譲渡会社(売り手)側では、株主総会の特別決議や、事業譲渡に反対する株主のために、株式買取請求の機会を与えるなどの対応が必要になります。
2)合併
合併とは、複数の会社が1つになることで、
- 吸収合併:1社が存続会社となり、残りは消滅会社として存続会社に吸収される
- 新設合併:会社が全てなくなり、新たに設立された会社に権利義務を承継させる
に分けられます。合併する際は「合併契約」を締結しますが、吸収合併と新設合併とで内容が異なります。また、締結に当たり、契約内容の事前開示や株主総会の承認などが必要になります。
3)株式譲渡
株式譲渡とは、自社の株式の全部または一部を別の会社に売り渡すことです。会社のオーナーが変わるというイメージです。大きな特徴は、
- 譲渡会社の法人格や契約関係など、対外的な側面には何も影響がない
- 通常、対価は株式などではなく金銭となる
ことです。会社の設立時期によっては株券(株式を表章する有価証券)の交付が必要になります。
4)会社分割
会社分割とは、事業の権利義務の全部または一部を別の会社に譲渡することで、
- 吸収分割:存在する会社に事業を譲渡する
- 新設分割:新たに会社を設立し、事業を譲渡する
に分けられます。吸収分割の際は「吸収分割契約」を締結、新設分割の際は「新設分割計画」を作成します。また、それぞれ契約・計画内容の事前開示や株主総会の承認などが必要になります。
5)株式交換・株式移転・株式交付
株式交換・株式移転・株式交付は、いずれも自社株を買収対価とする企業再編の手法です。株式交換と株式移転は、完全親子関係になります。株式交付は株式交換に似ていますが、完全親子関係にとらわれずに実施できます。株式交換をする際は「株式交換契約」を締結します。こちらも締結に当たり、契約内容の事前開示や株主総会の承認などが必要になります。
6 会社の縮小
最後に、資本金の額を減少する「減資」、会社を終わらせる「解散・清算」を紹介します。
1)減資
「減資」は、会社の業績が芳しくない場合などに資本金の額を減少することで、
- 実質上の減資:事業縮小などで不要となった資本金の額を減少する。資本金を剰余金へ振り分けて株主に配当する
- 形式上の減資:赤字などを解消するために資本金で欠損を填補する。形式上、資本金の額を減少するだけで、株主に配当はしない
に分けられます。減資の際は、株主総会の特別決議の他、債権者が不利益を被る恐れがあるので、異議を述べる機会を設ける必要などがあります。
2)解散と清算
会社の始まりが設立だとすれば、終わりは解散と清算になります。
- 解散:法人格を消滅させる原因となる事実のこと。原則、会社が解散するだけでは法人格は消滅しない。清算の手続きが必要
- 清算:解散した会社の資産や負債の処理のための法的な手続きのこと。解散した会社が残った債務を全額支払うことができる場合は通常清算となり、解散した会社が債務超過で、裁判所の監督
の下行われる清算の場合は特別清算となる
解散は、会社法で定められた理由(定款で定めた存続期間の満了など)に基づいて行う必要があり、株主総会の特別決議によって決定します。また、清算を行うには手続きを遂行する「清算人」という機関の選任が必要になります。
以上(2024年11月作成)
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画像:Mariko Mitsuda