書いてあること
- 主な読者:予算管理を自社に取り入れたい、あるいはしっかり取り組みたい経営者
- 課題:予算管理は将来のことであるが故に、月次決算を軽く見がちになりやすい
- 解決策:予算管理をより正確に行うには、月次決算に発生主義を取り入れ、かつスピードをもって仕上げる。ただし、発生主義を取り入れる科目は、重要度に応じて臨機応変に
1 予算管理も月次決算から
前回までで解説してきた予算管理をする上で、重要なのが月次決算です。
月次決算の最大の目的は、数字の正確さも気を付けつつ、なるべく早いタイミングで足元の業績を把握すること
です。
過去の結果である月次決算を軽く見がちな人もいますが、月次決算がうまく回っていない状況で予算を策定しようとしても、不安定な土台の上に建物を建てるようなものです。正確でない予算で予算管理をされてしまうと、営業や製造といった現場はむしろ混乱してしまいます。実績の数字を通じて現在の状況を把握することが、予算管理を始める上で重要になります。
では、具体的に何をしたらいいのでしょうか。まずは月次決算の精度を上げるために、
月次決算に発生主義を取り入れること
です。小規模企業では、現金主義を用いて記帳していくのが一般的です。現金主義は、入金時に売上を計上し、支払時に費用を計上する会計処理です。一方、発生主義は、商品やサービスを引き渡した時に売上を計上し、商品やサービスを使った時に費用を計上する会計処理です。
重要なところから発生主義を月次で取り入れていくことをお勧めします。例えば、売上であれば入金ベースではなく、業務の完了や請求書を発行したところで記帳しましょう。恐らく、これは日頃、会計事務所などからアドバイスを受けていることと同じだと思います。
もう1つ重要なのがスピードです。期中での予測をするのにも月次の数字が必要になるので、
とにかく早く月次決算を締めること
が求められます。つまり、月次決算を締めるのに1カ月以上もかかるのでは遅すぎて、あまり役に立ちません。やはり翌月2、3週目、遅くても翌月末までには数値を確定させましょう。
しかし、重要な項目に発生主義を取り入れる点と、早く月次決算を締めるという点に、少し矛盾を感じる人がいるかもしれません。発生主義で実務をこなすのは現金主義に比べ手数がかかりますから、スピードが出にくくなるのも確かです。
そこで、勘定科目ごとに月次決算を組み立てることがポイントとなります。月次決算でやるべきことと、やるべきでないことを明確に分けていくとよいでしょう。
2 勘定科目ごとに「経営に役立つか」を考える
下の表は、月次決算で科目ごとに発生主義にするかどうかを整理したものです。金額的な重要性や、固定費か変動費かなど、他の要素もあるので一概には言えない場合もありますが、1つの目安として参考にしてみてください。
まず、左側の「①必ず」の欄。売上高、仕入高や外注費などは、会社の事業の根幹に関わるもので、最初に、発生主義にしてほしい科目です。
逆に手を抜けるところもあります。重要でないものは現金主義のままとします。この発生主義にする、しないの区分けをする時に重要になるのが管理会計の目的です。この目的とは、
経営者の経営意思決定に役立つかどうか
です。経営者にとって意味のある情報でなければ、やらないという判断をすることが肝になります。
例えば、支払保険料を発生主義で処理するケースで考えてみましょう。年間12万円の保険料がかかる時に、その支払いが年1回なので、支払いのない月次決算においても、未払費用や前払費用を立てることになります(年間12万円なので毎月1万円の保険料を計上)。確かに正確性は高まりますが、経営判断をする上での重要度は高くないでしょう。その上、年間契約であれば、月単位で把握しても削減できるものではありません。
次に、真ん中にある「②実情に応じて」の欄。賞与というのは判断が少し難しいかもしれません。賞与引当金(将来に支払う概算の額を引当金として負債に、繰入額として費用に計上するもの)を計上して月次決算で費用とすることで、月次決算の数字を正確にし、同じ期のどの月が儲かっているかの判断に役立てることができます。ただし、賞与は売上と連動するものではなく、人事考課などに基づき、大体毎年同じ時期に支払われるものです。このため、支払った時に費用としても、前期比較や予算比較で判断を誤るということは少ないと考えられます。つまり、会社の求めるものに応じて手間をかけるかどうか決める項目といえます。
たな卸資産も、在庫の金額が大きくて、月ごとの変動が大きければ、ぜひ月次決算で正確に把握したい項目になります。例えば、コンビニエンスストアのフランチャイズオーナーの場合だと、在庫戦略が重要なので、月々のたな卸資産でかなり営業利益が変わってしまいます。ですので、たな卸資産を毎月きっちり計上していくわけです。一方で、在庫が少額であったり、たとえ金額が大きくても、ほぼ毎月一定であったりすれば、月次決算では無視しても問題ないと判断できます。
そして、減価償却費です。毎月年間の12分の1を計上するのも当然ありですが、ここでは違った見方で考えてみましょう。減価償却費は結局、過去に支払った金額を按分した費用になります。なので、月ごとに分けたとしても減るものではありません。例えば、決算の期末に一括して計上するのでも、予算と比較したり、前期実績と比較したりする時に、毎回決算時に計上すると分かっていれば、判断を誤ることもありません。そこで②に分類してあります。「実情に応じて」ということです。
正直なところ、月次決算で正確性を追い求めると切りがありません。年度の決算を12回作業するような水準になると、時間がなくなってしまいます。それで数値が出てくるのが遅くなり、経営判断の役に立たないのでは意味がありません。
経営の役に立つかどうかという判断基準を持って、適度なところで正確性を諦める
というところが、時間をかけないで役立つ月次決算を行うコツなのです。
まずは、重要性の高いものから取り組んでください。月次決算も予算管理も、法律やルールで強制されてやるものではなく、役に立つからこそやるものなので、役に立つために必要な正確性というのを一番の肝として考えていただけたらと思います。
以上(2024年12月作成)
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