1 2024年度・2025年度の3大ニュース
2024年度は、特にパート等関連では、明示する労働条件の範囲が広がったり(「無期転換」に関するものを含む)、社会保険の適用拡大が進んで、中小企業で働くパート等の多くが社会保険の加入対象となったりしました。また、いわゆる「2024年問題」として、建設業、自動車運転業務などに、時間外労働の上限規制が適用されました。
2025年度は、育児・介護に関する支援制度、高年齢者の働き方に関する重大な制度改正が実施されます。また、近年、社会問題となっている、いわゆる「自爆営業」について、厚生労働省のパワーハラスメント防止指針に対応が明記され、防止に向けた対策が求められる予定です。
2024年度・2025年度の労務3大ニュースは次の通りです。
2 2024年度の総括
2024年4月1日より、労働契約の締結・更新時に明示すべき労働条件として、「就業場所・業務の変更の範囲」「更新上限の有無と内容」「無期転換申込機会、無期転換後の労働条件」が追加されました。特に無期転換後の労働条件の整備への対応が万全ではない会社も目立つところです。
同じく2024年4月1日より、「時間外労働の上限規制」が、長らく適用を猶予されていた建設業、自動車運転業務、医師、砂糖製造業(鹿児島県・沖縄県)にも適用されるようになりました。いわゆる「2024年問題」です。業務体制の変更を余儀なくされた会社も多かったのではないでしょうか。
また、2024年10月1日より、社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入するパート等の範囲が拡大されました。改正前は、厚生年金保険の被保険者数が「常時100人超」の会社に雇用され、一定の条件を満たすパート等が対象でしたが、この被保険者数の要件が「常時50人超」に引き下げられました。なお、パート等については現在、年収の壁、国民年金の第3号被保険者問題、税制上の扶養範囲の見直しなどが議論されており、今後の動向に注視する必要があります。
3 2025年度の主なニュース
1)育児・介護に関する支援制度の拡充
2025年4月1日(一部は10月1日)より、
働きながら育児・介護をする従業員に対する支援制度が拡充
されます。内容は図表2の通りですので、要点を押さえつつ、必要に応じて就業規則や労使協定の見直しを行いましょう。なお、今回の改正により、育児・介護の支援制度等について、従業員への個別周知や意向確認などが必要になってきますが、このあたりについては、面談を実施する担当部署に負担が偏らないよう留意することも大切です。
また、育児関連では支援制度の拡充に伴って、2025年4月1日より、「共働き・共育て」の推進などを目的とする雇用保険給付「出生後休業支援給付金」「育児時短就業給付金」が新設されます。
もともと雇用保険には、最大で休業開始前賃金の67%相当額を支給する「育児休業給付金」という給付がありますが、図表3の給付が新設されることで、保障がより手厚くなります。
2)高年齢者の働き方に関する改正
2025年4月1日より、
定年後も働くことを希望する従業員は全員、継続雇用(65歳まで)の対象
になります。これまで、労使協定(2012年度以前に締結されたものに限る)により、一定年齢以上の従業員を、継続雇用の対象から除外すること(雇用確保義務に対する経過措置)が認められていましたが、この経過措置が終了します。
さらに、同じく2025年4月1日より、
雇用保険給付の高年齢雇用継続給付の最大支給率が「15%→10%」に引き下げ
られます。高年齢雇用継続給付は、賃金が「60歳時点の75%未満」に低下した状態で働く場合に支給される雇用保険給付で、この支給率が次の通り変動します。
3)パワーハラスメント防止指針に「自爆営業」が追加(予定)
現在(2025年1月31日時点)、政府内で、
パワーハラスメント防止指針に、パワハラの1つとして「自爆営業」を追加
することが検討されています。自爆営業とは、会社が使用者としての立場を利用し、従業員に不要な商品の購入を強要したり、ノルマを達成できない場合に自腹で契約を結ばせたりすることです。過去に、郵便局員が年賀はがきの販売ノルマなどにより、うつ病を発症した事案が労災認定されたことで、自爆営業という言葉が世に知れ渡ることになりました。
指針には、自爆営業が次の3要素を満たすと、パワハラに該当する旨が盛り込まれる予定です。
- 優越的な関係を背景とした言動であること
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
- 従業員の就業環境が害されるものであること
もともと労働施策総合推進法(いわゆる「パワハラ防止法」)により、会社にはパワハラの防止措置が義務付けられています。「自爆営業」が指針に具体的に明記されることで、防止措置の責任が明確化するため、具体的な防止策を講じる必要が出てきます。
4 今後の対応について
2025年度のトピックスには、労働力の減少を防ぐための改正が多く含まれています。
今回の育児・介護休業法の改正は内容が多岐にわたり、就業規則の見直し、従業員への周知など、実務面でもいろいろと対応が必要になるでしょう。ただ、両立支援に積極的に取り組むことは、会社にとっても「子育てサポート企業」としての認定(くるみん認定など)が受けやすくなったり、「両立支援等助成金」を受け取れたりといったメリットがあります。従業員の離職を防止する観点からも重要な改正ですので、これを機に社内の体制を見直していきましょう。
高年齢者については、高年齢雇用継続給付が縮小されるのに加え、現在、在職老齢年金(働きながら老齢厚生年金をもらうと、一定の場合に年金が減額される制度)の支給停止調整額の引き上げが検討されています。「公的給付があるから」という理由で、継続雇用する従業員の賃金を定年前よりも低く設定する運用も、次第に難しくなっていくかもしれません。従って、高年齢者に対する雇用制度・処遇の見直しも進めていくべきでしょう。
以上(2025年3月作成)
(監修 社会保険労務士法人AKJパートナーズ)
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画像:Artur Szczybylo-shutterstock