1 社員の「やる気」は完璧を求めない

経営者として、社員全員のやる気を常に高く保ちたい。その気持ちはよく分かります。ですが正直に言うと、それは無理です。

経営者がどれだけ熱く語っても、その熱量を100%受け止められる社員は一部だけ。しかも、社員のやる気は波があります。今日調子が良い人が、来週も同じとは限りません。大切なのは、

「高くあるべき人のやる気が高ければOK」 という割り切り

です。全員を完璧にしようとすると、経営者自身が疲弊してしまいます。

この前提に立った上で、高くあるべき人のやる気を高めるためのアプローチをご紹介します。

2 不満の解消が不可欠だけど・・・・・・

社員のやる気を高めるためのアプローチはさまざまありますが、根本にあるのは、

社員の不満を解消し、自己実現をサポートすること

です。これはハーズバーグの「2要因理論」や、マズローの「欲求段階説」といった理論でも裏付けられています。社員のやる気について語るとき、よく登場する理論です。

1)ハーズバーグの「2要因理論」 とマズローの「欲求段階説」

1.ハーズバーグの2要因理論

ハーズバーグの2要因理論では、

  • 衛生要因:満たされないと不満になるが、満たされても満足になりにくい
  • 動機付け要因: 満たされると満足になるが、満たされなくても不満になりにくい

に注目します。

衛生要因と動機付け要因

2.マズローの欲求段階説

マズローの欲求段階説では、人の欲求として5つを段階的に示していますが、これらは、

  • 低次の欲求:生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求
  • 高次の欲求:尊厳の欲求、自己実現の欲求

といったように分かれます。

マズローの欲求段階説

2)2つの理論に共通する「不満の排除」

2つの理論に共通する重要なポイントは、端的に言うと、

基本的な不満が解消されていないのに、「やりがい」や「成長」を語っても意味がない

ということです。2要因理論では、衛生要因が満たされなければ、満足の要因にアプローチしてもあまり意味がありませんし、欲求段階説では、低次の欲求が満たされなければ、高次の欲求が刺激されません。給与や人間関係に不満がある人に、「この仕事には意義がある」と語っても響かないわけです。まずは土台を整える必要があります。

3 3つのタイプ別アプローチ「優秀な社員への対応こそが肝心」

第2章までの内容を踏まえた上で、社員を3つのタイプに分け、それぞれのタイプへのアプローチを考えてみましょう。

1)基本的な不満すら解消されていない社員

「職場の人間関係に強い不満がある」 「給与や待遇に納得していない」 「会社の方針に根本的に反対している」といった社員です。

本来であれば、自分で選んだ組織に所属しているのだから、衛生要因や低次の欲求は、ある程度、満たされているはずですが、さまざまなすれ違いからこのレベルさえ満たされなくなってしまっている状態です。こうした社員のやる気を高めたいなら、

  • 配置転換をして、現在の人間関係から解放させる
  • 職務変更をして、適正の再発見をする

などして、人間関係や職務を根本的に変える必要があるでしょう。

ただ、厳しい判断ですが、このレベルの社員は「静観する」という選択肢もありです。次のような理由から、このレベル社員全員の不満を解消するのは極めて難しく、無理にやる気を引き上げようとすると、経営者が消耗してしまうからです。

  • どんなに素晴らしい会社にも、一定の「アンチ」がいる
  • 本人が変わる気がなければ、周りがどれだけ頑張っても無駄
  • 会社を大事に思っていない社員に、会社がリソースを割く必要はない

2)普通に働いている社員

1)のような基本的な不満はないものの、特別やる気が高いわけでもなく、安定して仕事をこなしている社員です。

このタイプは無理に奮い立たせる必要はありませんが、かといって何もしないでいると、経営者の気付かないところで「職場の人間関係」「会社の方針」などに不満を募らせていても気付かなくなります。したがって、やる気を「維持」 する取り組みは必要です。具体的には

  • 定期的な声かけで存在を認める
  • 小さな成功体験を積ませる
  • チーム全体でのコミュニケーションを円滑にする

などのアプローチを心がけます。なお、小さな成功体験を積ませるに当たっては、「数字や成果を可視化し、それらを週次や月次で共有する」など、「見える化」の取り組みも必要です。小さな成功体験が“線”で見えるようになれば、社員は「成長している」 実感を得やすくなります。

3)優秀だが、刺激が足りない社員

満足要因や高次の欲求が満たされていない社員で、最も時間を割くべき相手です。このタイプの社員は、

  • 実力ややる気があるのに、それを発揮できる機会に恵まれていない
  • 本来やるべきでない仕事に忙殺され、結果を出せていない

といった状況に陥っている可能性があり、最悪の場合、自分の実力を活かすチャンスがもらえる会社に転職してしまいます。すでに会社の重要なポジションに着いているケースも多く、転職は会社にとって大きな損失です。

こうした社員を引き留めるのは容易ではありません。優秀な社員ほど刺激を求め、新しい状況に身を置きたがるので、経営者は社員に刺激を与え続けなければなりません。具体的には、

  • 経営者が1対1で本気で話を聞く(月1回、30分でもいいので「何がしたいか」 「何が足りないか」を聞く)
  • 具体的なチャンスを与える (新規プロジェクトのリーダー、新しい領域への挑戦、経営会議への参加など)
  • 社員に足りない点があれば、率直に伝える(優秀でも、経営者から見て不十分な点があれば、それを丁寧に伝え、克服できるようサポートする)

といったアプローチが求められます。

いずれにしても、自己実現を目指すようなレベルの高い社員のやる気を高めたければ、個別のアプローチが必要であり、その適任者は経営者となります。先ほどとは全くトーンが異なり、

このレベルの社員のやる気が低い責任の多くは経営者にある

と考え、本気で取り組むべきことが求められます。

多忙な経営者にとっては大変な面もあるかもしれませんが、優秀な社員のやる気が高まると、周囲にも良い影響が広がります。逆に、優秀な社員が腐ると、組織全体に悪影響が及んでしまうのです。

以上(2026年2月更新)

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画像:-Adobe Stock

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