書いてあること
- 主な読者:「マーケティング」を意識できる組織を作りたい経営者
- 課題:マーケティングの概念は幅広く、どこから学べばよいのか分からない
- 解決策:マーケティングの基本として「マーケティング・ミックス」を学ぶ
1 プロモーション戦略の検討
プロモーションは、自社製品の販売を促進するための取り組みです。企業が行うべきことは多岐にわたりますが、この記事では、
- 標的市場とプロモーション戦略の目的の決定
- プロモーション・ミックスの取り組み方
という大切な2点を中心に紹介します。
2 標的市場とプロモーション戦略の目的の決定
プロモーションを実施する「標的市場」の設定は、事業ドメイン(企業が事業を展開する領域)を検討したり、新製品を開発したりする際などに行う「ターゲット顧客の設定」と同様の考え方で取り組むことができます。
注意すべきは、「プロモーション戦略の目的」です。プロモーションの目的は、消費者に自社製品を購入してもらい、売り上げを拡大させることです。すると、プロモーション戦略の目的が、とにかく「売り上げ増加」ということになりがちです。
しかし、消費者は「製品に対するニーズを感じたら、すぐに製品を購入する」といったように単純ではありません。例えば、自動車などの高額製品や、消費者の関与度(こだわり度)の高い製品は、次のプロセスを経て製品の購入に至るといわれています。
- 認知段階:製品に関する情報収集などを通じて「製品について知る段階」
- 情動段階:収集した情報などを基に「製品を評価する段階」
- 行動段階:評価した結果を基に「実際に製品を購入する段階」
認知段階では、製品の名称や特長などを消費者に知ってもらうことが大切です。情動段階では、自社製品が消費者のニーズを十分満たすものであることをアピールし、自社製品に対して好意を抱いてもらい、良い製品であると認識してもらうことが大切です。
そして、行動段階では、自社製品に対して好意を抱いている消費者の購買行動を促すことが大切です。逆に「値引き」などのセールスプロモーションは、「行動段階」においては効果があり、「認知段階」での効果は薄いといわれています。
ただし、消費者の購買プロセスは一様ではありません。関与度(こだわり度)の高い製品は上記のプロセスを経る場合が多いのですが、日用品など関与度が低い製品は、知っている製品を購入し、その使用経験から評価するというプロセスを経ることがあります。つまり、「認知段階→行動段階→情動段階」というプロセスです。
プロモーション戦略の目的を設定する際は、その製品カテゴリーにおける消費者の購買プロセスの特徴や、自社製品に対する消費者の認知度などを勘案した上で検討する必要があります。
3 広告
1)訴求内容に基づく広告の分類1:製品広告と制度(企業)広告
製品広告は特定の製品について行われる広告で、私たちが多く目にするものです。一方、制度(企業)広告とは、製品そのものを売るためではなく、企業の姿勢、考え方などを広告し、それによって人々に好意や好感を持ってもらい、親密度や信頼度を高めようとするものです。自社のイメージ向上などを目的に行われるケースが一般的です。
2)訴求内容に基づく広告の分類2:情報提供型広告と説得型広告
革新的な製品については、最初に、その製品が消費者にもたらすメリットや製品の使用方法などを消費者に理解してもらう必要があります。こうした内容を中心に訴求している広告を情報提供型広告といいます。一方、説得型広告とは、自社製品の特長などを訴求し、多くの競合する製品の中から自社製品を選択してもらうために行うものです。
3)訴求内容に基づく広告の分類3:その他の広告
その他の広告には、比較広告とリマインダー広告があります。比較広告は、競合他社の製品と自社製品を比較したり、自社の旧製品と新製品を比較したりするなどして、自社製品あるいは新製品が優れていることを訴求するものです。リマインダー広告は、既に構築されているブランドや、消費者の間に浸透している認知度を維持するためのものです。
4 パブリシティー
パブリシティーとは、広報活動のことをいい、新聞・雑誌の記事やテレビの特集コーナーなどを通じて、自社の情報をマスメディアに取り上げてもらうよう働き掛ける取り組みです。
第三者による客観的な視点から評価された情報であるパブリシティーは、信頼性の高い情報として消費者に認識されます。企業はパブリシティーを通じて自社の情報を発信したいところですが、取り上げる情報を決定する権限はメディア側にあります。
従って、パブリシティーを活用するためには、情報の発信者であるメディアに注目してもらわなければなりません。そのためには、「メディアが注目しそうな情報を積極的に発信する」ことが大切です。
発信する情報には、新製品情報の他に、ボランティア活動などの社会貢献活動、経営者など社内人材に関する情報(執筆した出版物)などがあります。展示会や期間限定のイベントなどを行い、メディアが注目する話題づくりに取り組むことも有効です。
5 人的販売
人的販売とは、販売員が消費者と直接コミュニケーションを図りながら製品を販売することです。人的販売を行う販売員の役割は、「オーダーゲッター」「オーダーテイカー」「ミッショナリー」の3つに大別できます。
オーダーゲッターは新規顧客の開拓が役割、オーダーテイカーは既存取引先との関係性の維持が役割、ミッショナリーは受注の獲得ではなく、消費者との良好な関係構築や、消費者が必要としている情報の提供などが主な役割です。
営業部門の施策をこうした視点で見直すと、取り組みが不十分な点が分かることがあります。例えば、「新規顧客の獲得1件につき○円支給」といったように、オーダーゲッターに対してはインセンティブ制度を設けている企業は多いものの、その他の役割には、こうした施策を検討していない企業もあります。これでは不満が出てしまうでしょう。
6 セールスプロモーション
セールスプロモーションは、広告、パブリシティー、人的販売以外の手法で、消費者や流通業者などの需要を刺激する全ての取り組みのことをいいます。消費者に直接働き掛ける「消費者プロモーション」と、製造業者などが小売店などの取引先企業に対して働き掛ける「企業間プロモーション」があります。
消費者プロモーションには、試供品の提供、クーポンの配布、景品のプレゼント、陳列POPによるアピールなどがあります。企業間プロモーションには、アローワンス(小売業者などが自社の意図に従って行動してくれたときに金銭を還元するプロモーション。「陳列アローワンス」など)、優遇条件による特別出荷、販売奨励策などがあります。
7 プロモーション・ミックスの取り組み方
1)プロモーション・ミックスの検討事項
プロモーションの手法は多岐にわたり、効果もさまざまです。一般的に企業がプロモーションを行う場合、自社の目的に合ったプロモーション手法を選択し、複数の手法を組み合わせて(プロモーション・ミックス)取り組んでいくことになります。
自社の目的に合ったプロモーション手法を検討する際には、「製品のタイプ」「プロモーション戦略の基本方針(「プッシュ戦略」と「プル戦略」)」「消費者の購買プロセス」「製品ライフサイクルの段階」の4つの視点から考えることが基本です。
2)製品のタイプ
生産財のプロモーションは「人的販売」「セールスプロモーション」「広告」「パブリシティー」の順、消費財のプロモーションは「広告」「セールスプロモーション」「人的販売」「パブリシティー」の順に効果が高いといわれています。
3)プロモーション戦略の基本方針(「プッシュ戦略」と「プル戦略」)
プッシュ戦略は、製造業者が小売業者などに対して、自社製品を積極的に販売してもらう戦略です。人的販売や企業間プロモーションが重要になります。
一方、プル戦略は、消費者に自社製品の魅力を直接訴求することで、購買意欲を喚起して、「自社製品の指名買い」を促す戦略です。広告や消費者プロモーションが重要になります。
4)消費者の購買プロセス
「認知段階」「情動段階」「行動段階」に応じて、効果の高いプロモーション手法は異なります。「認知段階」では、多くの情報を提供できる広告や、「第三者の信頼できる情報」であるパブリシティーの効果が高いといわれています。
そして、製品に対する認知が深まると、消費者は詳細な情報を求めるようになるため、対話を通じて必要な情報を得ることができる人的販売の効果が高くなります。製品の評価を行う「情動段階」でも、同様に人的販売の効果が高くなります。
実際に製品を購入する「行動段階」では、値引きなど製品の購入を促す効果の高いセールスプロモーションが有効です。また、購入するか否か迷っている消費者に、「最後の一押し」を行う存在として人的販売の効果が高いといわれています。
5)製品ライフサイクルの段階
製品には、新規に開発されて市場に登場する「導入期」から「成長期」「成熟期」を経て「衰退期」を迎えて市場から消えていく、製品ライフサイクル(Product Life Cycle、以下「PLC」)という考え方があります。
「導入期」は製品に対する十分な知識がない消費者の多い段階です。製品のもたらすメリットや製品の使用方法などさまざまな情報を伝えたり、製品自体の認知度を向上させたりすることのできる広告やパブリシティーの効果が高くなります。
「成長期」は企業間競争が比較的穏やかな段階です。製品の認知度が高まっていることもあり、プロモーションの規模を縮小することができます。
「成熟期」は企業間競争の激しくなる段階です。消費者の購買行動を促すセールスプロモーションの効果が高くなります。また、多くの競合製品の中から自社製品を購入してもらうために、消費者に自社製品を強く印象付ける広告も重要です。
「衰退期」は市場が縮小している段階です。消費者から見ると、機能面など製品自体の持つ魅力(メリット)などは小さくなっています。そのため、値引きなどのセールスプロモーションの効果が大きくなります。
以上(2022年8月)
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画像:unsplash