書いてあること

  • 主な読者:新規ビジネスを考える経営者
  • 課題:ビジネスチャンスを発見するに、ゲームチェンジャーの思考を身に付けたい
  • 解決策:価値創造のための思考法やフレームワークを紹介する

1 ゲームチェンジャーに必要な発想

ビジネスでもプライベートでも、多くの人はこれまでの経験や知識に照らして物事を考え、意思決定する傾向があります。これは、大きな失敗につながりにくい安全な考え方といえます。しかし、ビジネスの場合、ここから一歩飛び出さなければ、既存の枠にとらわれない、自由な発想でビジネスを創造していく“ゲームチェンジャー”にはなれません。

本稿では、「思考」に焦点を当てながら、価値創造の取り組みを円滑に進める上で押さえておきたい、基本的なポイントを紹介していきます。

2 創造すべき真の価値とは

1)真の価値はどこにあるのか?

価値創造の取り組みを考える前に、創造すべき価値とは何かを考えてみましょう。それは、「競合他社より魅力的で、消費者から支持を得られる価値」です。このような価値を生み出すためには、競合他社や消費者の視点だけでなく、もう少し広く多面的な視点で捉える必要があります。例えば、「個人」「組織」「社会」の3つの視点を取り入れるとよいでしょう。

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2)個人にとっての価値

価値創造に取り組むのは、従業員をはじめとした組織内の人々が中心となります。従って、創造する価値は組織内の人々にとって、取り組みに積極的に参加したくなる魅力を備えていることが必要です。

3)組織にとっての価値

創造する価値が組織の理念やビジョンと一致することで、場当たり的ではなく、持続的な取り組みにすることができます。ただし創造する価値は短期的にはもちろん、将来的にも組織に有益でなければなりません。

4)社会にとっての価値

創造する価値は、消費者・株主・取引先・地域社会などの外部のステークホルダーにとって魅力的で、恩恵をもたらすものであることが求められます。

3 価値創造のための思考とは

価値創造は、既存の枠にとらわれない自由で多様な発想で思考することによって生まれます。そのため、次の2点を前提として押さえておきましょう。

  • チームを組成し、多くの人々の多様な意見を活用できる体制で取り組む
  • 「経験や知識は自由な発想を阻害する要因になり得る」ことを念頭に置き、チームのメンバー選定や、チーム内の意思決定など、あらゆる場面で経験や知識を過度に重視しないようにする

本稿では、チームで価値創造を進めることを想定して話を進めていきます。しかし実際は必ずしもチームを作る必要はなく、従業員へのアンケートなどによって意見を幅広く収集する方法もあります。

4 思考のためのフレームワーク

1)価値創造の思考法

個人で思考する場合も、集団で思考(議論)する場合も同様ですが、一般的に思考法は「選択/集中型思考」と「仮説/検証型思考」の2つに大別できます。

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価値創造に適しているのは「仮説/検証型思考」です。なぜなら、「選択/集中型思考」のように現状だけに注目せず、一部現状を生かしながらも仮説を自由に立て、その仮説の適切性を検証するものだからです。

2)思考のステップ

思考とは、目的やテーマなどの前提条件の範囲内で、持ち合わせている情報の中から結論を導き出すために必要な情報を選択し、結論へと連結させていく一連の流れをいいます。思考のイメージは次の通りです。

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価値創造の取り組みを推進するチーム(以下「価値創造型チーム」)は、「結論のみならず、どのような情報が抽出・選択され、どのように連結されて結論に至ったのか」というプロセスをメンバー間で共有しながら議論を進めます。では、「仮説/検証型思考」のステップを具体的に見ていきましょう。

1.思考の前提

思考プロセス(情報連結のフレーム)の大枠をあらかじめ設定します。

2.情報抽出

情報や意見を出して集めます。こうして集めることを「拡散」といいます。結論や選択基準にとらわれずに、自由に多くの情報を列挙することが重要です。

3.情報選択

多くの情報や意見から、必要なものや重要なものを選択します。こうして選択することを「収束」といいます。具体的で明確な選択基準を設定することが重要です。

4.仮説構築

選択した情報を連結し、仮説の行動プランを構築します。

5.検証・意思決定

仮説の行動プランの妥当性を証明できる根拠を明らかにし、意思決定を行います。

3)ポイントは「思考の前提」

価値創造に関する議論では、多様なメンバーが自由闊達(かったつ)に意見するため、議論が拡散しがちです。そこで、思考の前提を設定し、こうした事態を防ぎます。

思考の前提になるのは、「目的」「テーマ」「使用情報」「ゴール(アウトプット)」「時間内に合意できない場合の最終決定方法」「時間・場所・メンバーなどの討議環境」の6つです。議論に先立って、これら6つの前提をメンバーに周知徹底することで、議論の無用な混乱を防ぐようにします。

5 価値創造型チームを成功に導くリーダー像

1)リーダーに求められる能力

リーダーは通常、チームの成果を左右する重要な役割を担います。これは価値創造型チームにおいても同様です。以降では、価値創造型チームを成功に導くリーダー像について紹介します。価値創造型チームのリーダーに欠かせないのは、次の2つの能力です。

  • 議論をリードする理論的な思考力
  • メンバーの能力を引き出し、結集させるコミュニケーション力

価値創造型チームは明確な結論が見えない中、新たな価値を模索します。そのため、議論が混乱したり行き詰まったりするなど、さまざまな障害に直面しがちです。こうした障害を乗り越えて結論を導き出すには、リーダーがその時々の状況を勘案しながら、全メンバーが納得できるように議論を理論的にリードすることが必要です。

また、自由闊達な議論を通じて、個々のメンバーが持つ能力を最大限に発揮してもらうことも大切です。しかし、単に個々のメンバーの能力を引き出すだけでは不十分です。

個々のメンバーの力を結集しなければ、チームとしての成果は見込めません。リーダーは個々のメンバーの能力を引き出しつつ、多様なメンバーを1つにまとめる能力が求められます。

2)ファシリテーション型のリーダーシップ

価値創造型チームのリーダーには、「議論をリードする理論的な思考力」「メンバーの能力を引き出し、結集させるコミュニケーション力」が求められます。しかし、リーダーシップが強すぎると、メンバーはリーダーと異なる意見を出すのを遠慮したり、安易な妥協や追随を見せたりするなど、自由な議論が損なわれる可能性があります。そこで重要になるのが、ファシリテーションです。

ファシリテーションとは、「指示したり結論を示したりするなどして議論の内容自体をリードするのではなく、議論の枠組みを示すなどして『議論の場』をコントロールしながら、議論を促進・支援・後押しするリーダーシップ」をいいます。 

価値創造型チームのリーダーは、メンバーが自由に、かつ自発的・意欲的に発言できる場を形成するファシリテーション型のリーダーシップを発揮することが好ましいといえるでしょう。

3)押さえておきたいファシリテーションの手法

ファシリテーション型のリーダーシップを発揮するには幾つかの手法があります。ここでは特に重要な「思考の前提」「プロセスリード」「質問」「傾聴」「肯定・受容」「確認」の概要を紹介します。それぞれの手法は次の通りです。

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メンバーの能力を最大限に生かし、価値創造型チームの活動を有益にするには、リーダーは上記の点に注意しながら、議論を進めていくことが大切です。

以上(2018年10月)

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