書いてあること
- 主な読者:後継者がいない等の理由で、会社をたたもうと考えている経営者
- 課題:関係者にできるだけ迷惑をかけたくないが、どうしたらよいか分からない
- 解決策:自社の財務を確認したうえで法的手続きを決める。事前に金融機関等に相談する
1 会社を“美しく”たたむ前提は良好な財務
後継者がいない等の理由で、会社をたたまざるを得ないことがあります。経営者にとってはつらい選択ですが、そうと決めたなら、
顧客や取引先、従業員、金融機関等の利害関係者に迷惑をかけずに、できるだけ会社を“美しく”たたみたい
ものです。
個人の場合も同様ですが、やはり周囲に迷惑をかけずに会社をたたむには、健全な財務が前提となります。財務というと分かりにくいかもしれませんが、要するに、
- 自分の資産は目減りしていないか
- 誰にどれだけ借金をしているか
- 保証人になっていないか
等を確認するということです。そして、この結果を踏まえて会社をたたむ手続きを検討する流れとなります。なお、会社をたたむ手続きとして、この記事では、いわゆる「通常清算」に注目します。
2 自社の「財務」の健全性を確認する
1)資産を時価で再評価する
古くから所有している不動産等は、簿価と時価とが乖離(かいり)していることが多いので、不動産鑑定士に依頼する等して時価で再評価します。
また、設備や器具備品は、資産管理台帳で減価償却後の価額を把握しているでしょうが、これらも時価評価します。例えば、資産管理台帳上は残存価値があっても、実際には売却できない(=現金化できない)資産は、「評価額ゼロ」とする等します。
2)債権者を把握する
買掛金、未払金、借入金等の負債について、誰に対して、いくらの債務があり、いつまでに支払い(返済)しなければならないのかを整理します。また、借入金については、保証人がいる場合はその旨も記載します。
3)担保資産を整理する
不動産等に設定されている担保および担保を設定した借り入れに関する借入先・借入残高を整理します。担保が設定されている資産は、借入金を返済して抵当権等を解除しなければ処分が難しいので、不動産の処分の可否を検討する際に必要になります。
4)従業員の給与・退職金を見積もる
従業員を解雇する場合、少なくとも30日前にその旨を予告します。あるいは、30日分以上の解雇予告手当を支払います。
また、退職金規程がある場合、それに基づいて退職金を支払う必要があります。なお、退職金は法的に使用者がその支給条件を明確にして支払約束をした場合に初めて発生するので、そうでなければ退職金を支払わなくてよいと考えられます。従業員に退職金を支払う想定の場合、原則として、賃借対照表上に退職給付引当金が計上されますが、中小企業では退職給付引当金を計上していないことも少なくありません。また、計上していても、同時期に全従業員が会社都合により退職することを想定した金額までは計上されていないでしょう。そのため、退職金の支払いの要否を確認しつつ、支払いが必要な場合には、それを前提とした準備をします。
5)個人資産の評価
中小企業の経営者の場合は、会社の債務に対して個人保証しているケースが多くなります。そのため、経営者個人の資産状況についても整理しておきます。
6)会社をたたむための費用を把握する
会社をたたむためには、次のような費用が掛かるので事前に想定しておきましょう。
- 登記等、法令上の手続きに関する費用
- 弁護士等の専門家への報酬
- 売却できない設備や器具・備品の廃棄費用
- 店舗や工場の原状回復費用
- 各種契約に基づく解約金や違約金
3 会社をたたむための法的手続き
会社をたたむための法的手続きは、解散と清算があります。
- 解散:法人格を消滅させる原因となる事実のこと。原則、会社が解散するだけでは法人格は消滅しない。清算の手続きが必要
- 清算:解散した会社の資産や負債の処理のための法的な手続きのこと。解散した会社が残った債務を全額支払うことができる場合は通常清算となり、解散した会社が債務超過で裁判所の監督のもと行われる清算の場合は特別清算となる
ここでは、通常清算に注目してみましょう。通常清算の場合、裁判所は関与しないのが普通です。清算人の下、債権・債務等の会社の権利義務の一切を整理し、残余財産を株主に分配する等します。清算人とは、
清算株式会社(清算手続きに入った株式会社)の清算職務を行い、業務を執行する者のことで、一般的に取締役全員が清算人に、代表取締役が代表清算人になる
ことになります(それ以外の者がなることもできます)。
4 通常清算の手続きとスケジュール
「通常清算」の手続きとスケジュールイメージは次の通りです。
1)取締役会の決議
会社を株主総会の決議によって解散するときは、株主総会の招集の決定が必要です。取締役会設置会社の場合、株主総会招集の決定に係る決議をします。
2)株主総会における解散の決議
株主総会で解散の決議をします。株主総会の招集は、公開会社でない株式会社の場合、原則、株主総会の1週間前までに通知します。解散決議の株主総会は臨時で行われることも多く、その場合は議決権を行使するための株主を確定するには基準日を定めます。基準日を定めるには、定款に定めがない限り、基準日の2週間前までに基準日等を公告します。
また、解散の決議は特別決議となります。特別決議は議決権を行使できる株主の議決権の過半数が出席し、かつ出席した当該株主の議決権の3分の2以上で決する決議です。ただし、定款で別途要件(出席割合等)を定めている場合は、その規定に従います。
3)解散の登記、清算人の選出、清算人の登記
1.解散の登記
清算人(代表清算人)は、会社の解散の日から2週間以内に、その本店の所在地において、解散の登記をします。
2.清算人の選出
会社が解散したときは、原則、取締役全員がそのまま清算人に就任します。これを「法定清算人」といい、この場合は清算人の選任決議は不要です。また、定款に会社清算時の清算人が定められている場合は、その定めに従って清算人が選任されます。
この他、解散決議をする株主総会において、清算人を選任することができます。解散前の取締役以外の者を清算人にする場合や、解散前の取締役のうちの一部を清算人にする場合等は、この方法によって選任されます。
3.清算人の登記
清算株式会社(清算中の株式会社)の清算人となったときは、解散の日から2週間以内に、その本店の所在地において、定められた事項の登記をします。
4)債権者への公告・催告
清算株式会社は、解散した場合、遅滞なく債権者に対して債権を申し出るべき旨を官報に公告し、かつ、知れている債権者には各別に催告しなければなりません。この公告・催告の期間は2カ月以上でなければなりません。
公告には、当該期間内に申し出がなければ、清算から除斥される旨を付記する必要があります。なお、債権者に対する催告の方法や回数については特に会社法上の規定はありませんが、一般的に書面で1回実施することが多いでしょう。
5)財産目録等の作成、株主総会への提出・承認決議
清算人は、就任後遅滞なく、清算株式会社の財産の現況を調査し、法務省令で定めるところにより、会社の解散等、清算の開始原因が発生した日における財産目録および貸借対照表(以下「財産目録等」)を作成しなければなりません。また、清算人は、財産目録等を株主総会に提出し、その承認を受ける必要があります。
6)財産の処分や債権・債務の整理
債権者等の利害関係者との合意に基づいて、財産の処分や債権・債務の整理をします。ただし、利害関係者間の公平を欠いたり、任意整理に応じない債権者がいたりする等の場合は、破産管財人の下で強制力をもって手続きを進めることのできる破産手続き等に移行します。
7)貸借対照表等の作成
清算株式会社は、法務省令で定めるところにより、清算事務の遂行状況等を株主に知らせるため、解散した日の翌日から始まる各1年の期間を「清算事務年度」として、各清算事務年度に係る貸借対照表および事務報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければなりません。
8)残余財産の確定・分配
清算会社は、会社債務の弁済が完了した後、残った残余財産の分配をしようとするときは、清算人の決定によって、残余財産の種類、株主に対する残余財産の割当に関する事項を定めなければなりません。なお、残余財産の分配を実施するための株主総会の決議は不要です。
9)清算事務の終了、株主総会における決算報告の承認
清算株式会社は清算事務が終了したときは、遅滞なく決算報告を作成しなければなりません。清算人は決算報告を株主総会に提出し、または提供し、その承認を受けなければなりません。
10)清算結了の登記
清算事務に係る決算報告を株主総会で承認を受けた日から2週間以内に、清算結了の登記をしなければなりません。
5 さまざまな選択肢
この記事では、会社を“美しく”たたむための法的手続きとして、通常清算を紹介しましたが、その他にもさまざまな選択肢があります。事業売却等を含め、何らかの形で事業承継をする選択肢もあります。金融機関では、後継者候補や事業売却先等を紹介してくれることもあるので、一度相談してみてはいかがでしょうか。
以上(2022年7月)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)
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