書いてあること
- 主な読者:持株会社を活用した経営統合を検討している経営者
- 課題:持株会社化のメリットとデメリット、具体的な手法を知りたい
- 解決策:現在の組織体制、株主との関係、各事業の好不調に応じて適切な方法を選択する
1 経営の先行きが不透明な中でのグループ経営
持株会社とは、他社の株式の相当割合を保有し、子会社として支配・管理することを主たる事業とする会社で、一般的には、
- 純粋持株会社:子会社の活動を支配・管理することを主たる事業とする
- 事業持株会社:子会社の支配・管理を行うだけでなく、自らも何らかの事業を行う
といったように分類されます。本稿では、持株会社が子会社の株式を100%保有して経営統合することを「持株会社化」とします。持株会社化によって、グループ間の役割を分離する、好調な事業への投資をする、不調な事業から徹底するなどの判断がしやすくなります。
持株会社化のメリットとデメリットを整理した上で、具体的な手法として「株式移転」「株式交換」「会社分割」の概要を紹介します。
2 持株会社化の一般的なメリットとデメリット
1)戦略立案と事業遂行を分離した効率化。ただし、運営が複雑になることも?
持株会社化の最大の特徴は、経営戦略と個別事業の分離です。グループ全体の経営戦略を持株会社が担い、個別事業の執行を子会社に委ねることで、権限・責任の明確化とグループ全体の戦略の最適化が図れます。
一方、子会社はグループ全体の方針や意思決定に従うため、この点で経営の自由度は低下します。また、重要な意思決定は、子会社のみならず、持株会社(場合によっては他の子会社)との調整が必要になります。会社法上も、取締役会等の機関は持株会社・各子会社に設置することになり、この点も経営判断の遅れや手続の煩雑化などの原因になります。
2)管理部門の効率化が見込める。ただし、管理体制の整備が不可欠?
子会社に配置すべき人事や総務、法務といった管理部門等を持株会社が包括して担当するなどして、グループ全体の業務を効率化できます。
ただし、グループ全体の管理体制が整っていないとこのメリットは享受できず、逆に混乱を招きます。そのため、管理部門等の重複業務の効率化という視点から、シェアードサービスを提供するなど、最適化を図る必要があるでしょう。
3)各企業が独立できる。ただし、一体感の醸成は困難?
持株会社化で個々の企業を傘下に収めることで、一体的な経営ができます。合併との違いは、企業文化の融合や人事制度の擦り合わせが不要な点です。つまり、個々の企業の個性を生かしつつ、経営の一体化が図れます。こうした特徴を踏まえ、将来の合併を見据えつつ、その前段階として持株会社化を図るケースなどがあります。
半面、グループとしての一体感の醸成を阻害することにもなります。こうした傾向は、意思決定の迅速化や各企業の自主性を重視して権限委譲を進めるほど顕著になりがちです。
4)機動的な事業再編が可能になる。ただし、維持には相応の負担が掛かる?
持株会社化によって、グループ内の事業の再構成を機動的に行えます。例えば、事業の拡大を図るために他社を取り込む場合、持株会社傘下の一事業会社とすることができます。また、不採算事業を切り離すときも、事業ごとに会社を分けておけば、その不採算事業を担当する会社の株式譲渡等を行って事業を切り離すことができます。
一方、持株会社の維持には相応の負担が生じます。純粋持株会社の収益源は子会社から受け取る剰余金の配当、子会社が支払う経営指導料やブランド使用料などに限られてしまいます。事業持株会社には本業の収益がありますが、費用の相当部分は子会社負担が一般的です。
5)税制上のメリットを受けられる
1.グループ法人税制の適用
子会社の株式を100%保有すると、グループ法人税制が強制的に適用されます。詳細は省略しますが、グループ法人税制では、100%グループ内における一定資産の譲渡に関する譲渡損益の繰り延べ、受取配当金の益金不算入、寄附金の損金・益金不算入等が定められています。
2.連結納税の導入
所定の手続をすれば、持株会社化によって法人税の連結納税ができます。連結納税とは、企業グループ内の個々の企業の所得と欠損を通算して法人税を課税する仕組みです。「景気動向の影響を受ける企業と常に安定している企業の損益を通算し、景気後退時の納税額を抑える」ことなどが可能です。
ただし、連結納税制度の適用を受ける際は、一定の要件に該当する連結子法人の繰越欠損金を引き継ぐことができない、子会社が保有する一定の資産については時価評価をする必要があるなどのデメリットもあります。
6)事業承継対策に活用することができる
純粋持株会社化は事業承継対策の面で効果が期待できます。詳細は省略しますが、純粋持株会社の株価評価は、純資産価額法となるため、純粋持株会社化することで株価の評価額を引き下げられる場合があります。また、複数の事業会社がある場合、相続の対象となる株式を純粋持株会社の株式のみにできるので、株式の分散防止や相続時の手続の簡素化などが図れます。
3 「株式移転」による持株会社化
株式移転とは、1または2以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることです。子会社の株主には、持株会社の株式などを交付することで、持株会社の傘下に複数の完全子会社を置くことが可能です。株式移転による持株会社化を「株式移転方式」ということもあります。
株式移転の特徴は、持株会社(A社)を新設する点であり、持株会社と子会社はいずれも株式会社でなければなりません。また、子会社の株主に株式の対価として交付するものは、持株会社の株式や社債などとされています。一般的には、組織再編税制における適格要件を充足するために、持株会社の株式のみを交付することが多いようです。組織再編税制における適格要件は、1.完全支配関係内(100%グループ内)の組織再編、2.支配関係内(50%グループ内)の組織再編、3.共同事業を形成するための組織再編でそれぞれ異なります。しかし、いずれの場合であっても、対価要件(株式移転等の対価として、移転後の持株会社の株式等以外の資産が交付されないこと)が課されています。
これに加え、1.と2.の場合においては従前の支配関係継続が要件となります。また、2.と3.の場合には事業継続と従業者の引き継ぎ(おおむね80%)も要件となり、3.の場合はさらに事業の関連性、発行済株式の80%以上の継続保有、事業規模5倍以内または特定役員の継続就任が要件となります。
株主・債権者への対応としては、子会社の反対株主の株式買取請求権が認められています。
一方、債権者保護手続については、特定のケースに限定されています。債権者保護手続とは、合併などを行う場合、債権者に対して事前にその旨を知らせ、異議を述べる機会を設ける手続です。異議申立のあった債権者に対しては弁済などの措置を取らなければなりません。株式移転における債権者保護の対象は、交付される持株会社の新株予約権が、新株予約権付社債に付された新株予約権である場合の、新株予約権付社債権者に限られます。
4 「株式交換」による持株会社化
株式交換とは、株式会社がその発行済株式の全部を他の株式会社または合同会社に取得させることです。株式交換は、株式移転と同様、持株会社の100%子会社化により持株会社化を図るための方法です。株式移転と違うのは、持株会社は既存の会社であることです。株式交換は、主に事業持株会社化をするときに利用されます。
子会社の株主に株式の対価として交付するものは、株式や社債などに限定されておらず、現金を交付することができます。ただし、組織再編成税制における適格要件の1つに、持株会社の株式のみとする旨が定められているのは株式移転と同じです。
株主・債権者への対応としては、株式移転と同様、子会社の反対株主の株式買取請求権が認められているだけでなく、持株会社の反対株主の株式買取請求権も認められています。
一方、債権者保護手続については、株式移転と同様、子会社の新株予約権付社債権者に対して必要である他、子会社の株主に株式移転の対価として持株会社の株式等以外の財産(現金等)を交付する場合は、持株会社の既存の債権者に対しても必要となります。
5 「会社分割」による持株会社化
会社分割とは、株式会社または合同会社が事業に関して有する権利義務の全部または一部を、分割後に他の会社に承継させる手続です。会社分割には、
- 新設分割:事業に関して有する権利義務を新たに設立する新設会社に承継させる
- 吸収分割:事業に関して有する権利義務を既存の承継会社に承継させる
といった手法があります。「新設分割」は、複数の事業部門を有する会社を事業部門ごとに分社化して独立採算制とする(カンパニー制)場合などに使われます。一方、「吸収分割」は、グループ会社において実質的に重複する事業を行っているケースなどにおいて、1つの会社に同一事業を集中して経営効率を上げる場合などに使われます。
会社分割では、純粋持株会社を創設させるための方法として「抜け殻方式」と呼ばれる方法があります。抜け殻方式とは、事業に関する権利義務の全部を他の会社に承継させて、親会社はグループ統括のみを行うようにする方式です。
会社分割には、会社の一部の事業を切り分けて分社化する際に煩雑な手続を回避できるという大きなメリットがあります。
会社の一部の事業を他の会社に譲渡する方法には「事業譲渡」もあります。しかし、事業の包括承継ではないため、譲渡する事業に係る契約を全て個別に結び直す必要があります。債務も当然には承継されないため、個別の債権者の同意が必要です。これに対して、会社分割は事業を包括承継できるため、事業に関する契約は当然に引き継がれますし、個別の債権者の同意も不要です。また、事業承継の対価として必ずしも資金を用意する必要はなく、株式を割り当てることができます。
以上(2021年3月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)
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