1 働き方改革推進支援助成金などを活用しよう!

働き方改革やSDGsの観点から、社員の「健康」維持が大きく注目されています。残業を減らす、休暇や休日を増やすなどアプローチはさまざまですが、同時に社内制度や設備の見直しも必要で、それなりにコストがかかります。そこで、ご提案するのが助成金の活用です。例えば、

建設業など特定の業種が時間外労働の削減などに取り組むと、最大1520万円が支給

されるのをご存じですか。これは働き方改革推進支援助成金(業種別課題対応コース)というものですが、他にも「健康経営」に関する助成金がいくつかあります。以降で、制度概要の紹介と併せて専門家がポイントを説明するので参考にしてください。

なお、助成金の内容は2025年4月28日時点のもので、将来変更される可能性があります。

2 働き方改革推進支援助成金(業種別課題対応コース)(最大1520万円)

1)働き方改革推進支援助成金(業種別課題対応コース)とは?

建設業、運送業、病院等、砂糖製造業、情報通信業、宿泊業の中小企業が生産性を向上させ、時間外労働の削減などに取り組んだ場合に助成を受けられるというものです。なお、砂糖製造業は、「鹿児島県・沖縄県の事業者のみ」が対象です。

■厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(業種別課題対応コース)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120692_00001.html

2)助成金を受け取るには?

中小企業で、申請時点において一定の要件(年5日の年休(年次有給休暇)の取得に向けた就業規則等を整備している、法的要件を満たした36協定を締結し、届け出ている等)を満たしている会社が、次のいずれかの「成果目標」を設定し、成果の達成に向けて「支給対象となる一定の取り組み」を実施する必要があります。

具体的な「成果目標」となるのは次の7つで、1つ以上を選択する必要があります。なかには一部の業種にのみ適用されるものもあります。

  • 36協定の設定時間数の縮減
  • 年休の計画的付与制度の導入
  • 時間単位年休+1つ以上の特別休暇(注1)の導入
  • 勤務間インターバル制度の導入
  • 所定休日の増加(建設業のみ)
  • 「医師の働き方改革の推進(注2)」の実施(病院等のみ)
  • 3直3交代制等の勤務割表の整備(砂糖製造業のみ)

(注1)病気休暇、教育訓練休暇、ボランティア休暇、不妊治療のための休暇、時間単位の特別休暇等が対象です。

(注2)労務管理体制の構築(労務管理責任者の設置等、副業・兼業を行う医師の労務管理体制の整備、労働時間管理に関する研修の実施)、医師の労働時間の実態把握を指します。

次に、「支給対象となる取り組み」は次の9種類です。なお、7.から9.については、原則としてパソコン、タブレット、スマートフォンは対象となりません(ただし、所定の要件を満たした場合は緩和されます)。

  • 労務管理担当者に対する研修(勤務間インターバル制度に関するもの、業務研修を含む)
  • 社員に対する研修、周知・啓発
  • 外部専門家によるコンサルティング
  • 就業規則・労使協定等の作成・変更
  • 人材確保に向けた取り組み
  • 労務管理用ソフトウェアの導入・更新
  • 労務管理用機器の導入・更新
  • デジタル式運行記録計の導入・更新
  • 労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新

ここまでの内容を踏まえた上で、所定の「交付申請書」を事業実施計画書などとともに、所轄都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に提出します。その後、事業実施計画に沿った取り組みを実施した後、申請期限までに支給申請をすることで助成金を受け取れます。

3)受け取れる金額はいくら?

取り組みの実施に要した経費の一部を成果目標の達成状況に応じて(具体的には図表1の額)受け取れます。なお、指定する従業員について、一定の賃上げを実施することを成果目標に加え、実施を達成した場合、加算が受けられます。

画像1

要件を満たした場合、最大で次の額を受け取れる計算になります。

  • 建設業:1270万円
  • 運送業等:1190万円
  • 病院等:1240万円
  • 砂糖製造業:1520万円
  • 情報通信業、宿泊業:1170万円

4)専門家のワンポイントアドバイス

働き方改革推進支援助成金は全部で4つのコースがありますが、いずれも

2025年度の「交付申請書」の申請期限は、2025年11月28日まで(予算の制約により11月28日以前に締め切られる場合があるので注意)

となっているので、早めに準備を進める必要があります。加えて、時間外労働の削減などの各種取り組みについても、

交付決定後、2026年1月30日までに提出した計画に沿って取り組みを実施した上で、支給申請期限までに都道府県労働局に支給申請をしなければならない

ので、交付申請書の提出時期によっては非常にタイトなスケジュールになるため、余裕を持って計画的にプロジェクトの立案等を進めるようにしてください。

3 働き方改革推進支援助成金(団体推進コース)(最大1000万円)

1)働き方改革推進支援助成金(団体推進コース)とは?

事業主団体等(中小企業の団体やその連合団体等で1年以上の活動実績があるもの)が、傘下の構成事業主(社員を雇用する会社)の社員について、労働条件を改善するため、時間外労働の削減や賃上げに向けた取り組みを実施した場合に助成を受けられるというものです。

■厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(団体推進コース)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000200273.html

2)助成金を受け取るには?

課題対応の「成果目標」として

事業主団体等が事業実施計画に基づき、時間外労働の削減・賃上げに向けた改善事業の取り組みを行い、構成事業主の2分の1以上にその取り組みまたは取り組み結果を活用

する必要があります。

支給対象となる取り組みは、次の10種類です。いずれも成果目標の達成に向けて実施する必要があります。

  • 市場調査の事業
  • 新ビジネスモデルの開発、実験の事業
  • 材料費、水光熱費、在庫等の費用の低減実験(労働費用を除く)の事業
  • 下請取引適正化への理解促進等、労働時間等の設定改善に向けた取引先との調整の事業
  • 販路の拡大等の実現を図るための展示会開催・出展の事業
  • 好事例の収集、普及啓発の事業
  • セミナーの開催等の事業
  • 巡回指導、相談窓口の設置等の事業
  • 構成事業主が共同で利用する労働能率の増進に資する設備・機器の導入・更新の事業
  • 人材確保に向けた取り組みの事業

ここまでの内容を踏まえた上で、所定の「交付申請書」を事業実施計画書などとともに、所轄都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に提出します。その後、事業実施計画に沿った取り組みを実施した後、申請期限までに支給申請をすることで、助成金を受け取れます。

3)受け取れる金額はいくら?

取り組みの実施に要した経費の一部(具体的には図表2の額)を受け取れます。

画像2

要件を満たした場合、最大1000万円を受け取れる計算になります。

4)専門家のワンポイントアドバイス

基本的な注意点は、働き方改革推進支援助成金(業種別課題対応コース)と同じです。ただし、交付決定後の取り組み実施期間は、2026年2月13日までとなります。なお、働き方改革推進支援助成金には、ここで紹介した「業種別課題対応コース」「団体推進コース」の他に、「労働時間短縮・年休促進支援コース」「勤務間インターバル導入コース」があります。

  • (労働時間短縮・年休促進支援コース)年休の計画的付与を導入した場合などにおいて、最大920万円を受け取れる
  • (勤務間インターバル導入コース)事業場の半数超を対象とする勤務間インターバル制度を新たに導入した場合などにおいて、最大840万円を受け取れる

両者については、次のコンテンツで紹介しています。

4 その他の健康経営関連の助成金

1)業務改善助成金(最大600万円)

会社(実際は支店等の事業場単位)が事業場内最低賃金(最も賃金が低い社員の時給)を30円以上引き上げ、生産性を向上させるための設備投資等を行った場合、その費用の一部について助成金を受け取れるというものです。こちらは中小企業・小規模所業者だけが対象です。

■厚生労働省「業務改善助成金」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03.html

助成金の対象になる設備投資等の例として、

  • 設備投資(例:POSレジシステム導入による在庫管理の短縮、リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮)
  • コンサルティング(例:専門家による業務フロー見直しによる顧客回転率の向上)
  • その他(例:店舗改装による配膳時間の短縮)

が挙げられており、これらを導入することで時間外労働の削減などが図れるかもしれません。次のコンテンツで申請のポイントなどを紹介しています。

2)人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)(最大287.5万円)

社員の離職率を低下させるために、

  • 雇用管理制度(賃金規定制度、諸手当等制度、人事評価制度、職場活性化制度、健康づくり制度)
  • 雇用環境整備(社員の直接的な作業負担を軽減する機器・設備等の導入・運用)

の措置のいずれかを実施し、離職率が低下した場合に助成金を受け取れるというものです。

■厚生労働省「人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000199292_00005.html

雇用管理制度の「健康づくり制度」とは、希望者に対する「人間ドック」の実施のことです。 次のコンテンツで申請のポイントなどを紹介しています。

3)両立支援等助成金(不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース)(最大90万円)

女性社員が不妊治療と仕事を両立したり、健康課題(月経や更年期)に対応したりするため、休暇制度などを導入し、実際に対象者に利用させた中小企業が助成金を受け取れるというものです。

■厚生労働省「両立支援等助成金のご案内」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/ryouritsu01/index.html

具体的には

  • 休暇制度(不妊治療や女性の健康課題に対応するための特別休暇。多様な目的で利用できるものも可)
  • 短時間勤務制度(1日の所定労働時間を1時間以上短縮する制度。ただし、利用しても1時間当たりの基本給等の水準の引き下げや雇用形態の変更がされないことが条件)
  • 所定外労働制限(残業免除)、時差出勤制度、フレックスタイム制度、在宅勤務等

などが対象になります。次のコンテンツで申請のポイントなどを紹介しています。

以上(2025年6月作成)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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