この記事では、現役社労士が直面した小さな建設業の労災の事例として、「社員が突風で足場から転落したのに、『自然現象だから労災ではない』と判断してしまった会社」の話を紹介します(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。
1 突風で足場から転落したのに、会社は「自然現象だから」の一点張り……
社員数5人のとび・土工・コンクリート工事会社に勤務するBさん。ある日、Bさんは地上3メートルの高さの場所に看板を設置する作業を行っていました。その日は晴天でしたが風が強く、Bさんは作業中、突風にあおられて足場から転落してしまいました。幸い骨折はなく、軽い打撲で済みましたが、医師から「少なくとも1週間程度は作業を休むように」と診断されました。
電話で報告を受けた社長は「突風は自然現象だからなぁ、けがも軽いみたいだし、健康保険で治療してよ」と言いました。Bさんは戸惑いながらも「社長がそう言うなら……」と、健康保険を使って治療することにしました。
2 「自然現象によって事故が発生しやすい事情」があれば、労災になり得る
まず、業務が原因で負傷したり病気になったりした場合、必ず労災保険で対応しなければなりません。
労災なのに健康保険を使うことは違法であり、後に発覚すれば「労災かくし」とみなされ、会社や社長が罰せられる恐れ(50万円以下の罰金)
があります。「軽傷かどうか」は労災認定には関係ないので、会社の裁量で勝手に判断してはいけません。次に、自然現象が労災になるかどうかですが、これについては、
- 地震、台風など天災地変によって被災した場合は、原則として労災にならない
- ただし、事業場の立地条件や作業条件・作業環境などにより、天災地変に際して災害を被りやすい業務の事情がある場合は、労災と認められる
というルールがあります。Bさんのように、日ごろから高所での作業に従事している社員は、常に「突風によって足場などから転落するリスク」を抱えているため、突風による転落事故は労災になる可能性が高いです。
3 「悪天候なら作業はさせない」が基本
労働安全衛生規則やクレーン等安全規則では、「悪天候時に作業中止等をしなければならない作業」が具体的に示されています。
Bさんのケースは、「高さが2メートル以上の箇所で行う作業」に該当するため、強風で危険が予想される場合、会社が作業の中止を命じなければなりません。
「悪天候の日は、社員を作業に従事させない」という姿勢が大切
です。また、転落防止のための措置が徹底されているかも併せてチェックしましょう。厚生労働省が足場などからの転落防止のポイントやチェックリストをまとめています。
■厚生労働省「墜落・転落災害等防止対策推進事業(建設業)【厚生労働省委託事業】」(下記URLの「令和元年度用テキスト」を参照)■
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05646.html
以上(2025年6月作成)
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画像:ChatGPT