この記事では、現役社労士が直面した小さな運送業の労災の事例として、「無理な配車計画で労災が発生したのに、『人手不足だから仕方がない』と労災対応をしなかった会社」の話を紹介します(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。
1 2024年問題で配車計画がさらに逼迫、労災リスクが増大……
社員数15人の中小運送会社に勤めるドライバーBさん。Bさんの勤める会社では、2024年問題に対応しようと、社長が「残業時間を減らせ」と号令をかけています。しかし、受注件数や荷主の納期要望は増える一方で、現場では無理な配車計画が組まれがちです。結果として、Bさんは限られた時間内で配送を完了させようと急ぎ運転になり、ある日、急発進でハンドル操作を誤って、駐車場内の支柱に衝突してしまいました。
社長は「配送時間に余裕がないのは仕方ない。君が気を付ければ事故は起こらなかった」と言い、過密スケジュールが原因である点を棚に上げてしまいます。Bさんは事故により右手を骨折しましたが、社長は「君のミスだから」と健康保険で治療するよう指示。Bさんは「社長に意見すると仕事がなくなるかも……」と、指示に従ってしまいました。
2 「人手不足だから仕方がない」は通らない
2024年4月1日以降、時間外労働の上限規制や改善基準告示の適用が開始されたことで、運送の現場で、「短時間で多くの荷物を運ばなければならない」という圧力が、ドライバーにのしかかっている場合があります。その結果、無理な運転や焦りから交通事故が発生しやすくなる他、車両点検の省略や休憩カットなどにより、労災リスクも高まります。
このケースにおける事故の直接の原因は、Bさんがハンドル操作を誤ったことですが、会社の業務で車両を運転していて事故に遭ったのなら、
- 業務遂行性:その事故は、「会社の支配・管理下にある」ときに発生したのか
- 業務起因性:その事故は、「業務と因果関係がある」といえるか
の両方が認められるでしょう。
また、事故の背景に、会社側の無理な配車計画があると判断されれば、会社が安全配慮義務違反として責任を問われるケースも出てきます。「人手不足だから仕方がない」は通りません。
3 DX化や配置転換で業務効率化を!
会社は単に「残業を減らせ」と言うのでは、具体的な配車計画の見直しや荷主との交渉を行い、社員が焦らずに安全運転できる環境を整備しなければなりません。
労働時間を増やすことなく、余裕のある配車を行いたいのであれば、業務効率化は必須です。
- ドライバーの点呼を行うロボットや、運行日報の記入を自動化できるデジタルタコグラフ(デジタコ)を導入した会社
- ドライブレコーダー機能とデジタコ機能が一体になったセーフティーレコーダーで、荷待ち時間を可視化し、削減に取り組んだ会社
- 業界未経験者であっても、会社が費用を出して免許を取ってもらう形を整えるなどして、新卒採用に取り組んだ会社
などがあります。
以上(2025年7月作成)
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画像:ChatGPT