1 改正議論が本格化。暗号資産に係る税制の改正

資産形成の選択肢の1つ、暗号資産(ビットコインなどの仮想通貨)。ただ、興味はあるものの、「税金の取り扱いが難しそう」「他の金融商品に比べて税率が高い」といった理由で、なかなか投資に踏み出せない方も多いのではないでしょうか。

確かに、現状の暗号資産は、税金の取り扱いが株や債券といった通常の金融商品と異なり、課税のタイミングなどについて誤解が生じやすかったり、税率が高かったりします。しかし、近年は暗号資産を金融商品として位置付けるための税制の改正や、税務上の取り扱いについて見直しの議論が進んでいます。

  • 金融庁が暗号資産に関連する制度の在り方等の検証資料を2025年4月と6月に公開
  • 令和7年度税制改正大綱において、見直しの検討が明記される

この記事では、現状の暗号資産に関する所得税のルールから、今後、改正がされた場合に想定される取り扱いまでを解説します。

2 暗号資産に関する所得税の現状ルール

1)暗号資産は利益が大きくなるほど税率が高くなる(最大55%)

現状、暗号資産の利益は原則として、

「雑所得」に分類

され、給与所得や事業所得など他の所得と合算される、

「総合課税」の対象

となります。これにより、利益が大きくなるほど税率も高くなる累進課税が適用され、

最大で55%(所得税45%+住民税10%)

の税金がかかる可能性があります。株式投資の利益が通常20.315%の申告分離課税(他の所得と合算しないで税額計算する課税方式)であることを考えると、これは非常に高い税率であり、特に高所得者にとっては大きな負担となります。

累進課税の税率

2)5パターンもある課税されるタイミング

暗号資産に係る課税のタイミングは、日本円に換金したときだけでなく、様々な取引で発生します。なお、下記2.~5.の課税については、現金が手元に入らないにもかかわらず税金が発生するため、特に注意が必要です。

1.暗号資産を売却(日本円に換金)したとき

保有する暗号資産を日本円に換金し、売却益が出た場合、課税対象となります。

2.暗号資産で商品やサービスを購入したとみなされたとき

暗号資産を支払い手段として利用した場合、その暗号資産を一度売却し、商品やサービスを購入したとみなされ、利益が出ていれば課税対象となります。

3.暗号資産同士を交換したとき

例えば、ビットコインでイーサリアムを購入するなど、異なる暗号資産同士を交換した場合も、売却した暗号資産に利益が出ていれば課税対象となります。日本円に換金していなくても税金がかかる点に注意が必要です。

4.マイニング、ステーキング、レンディングなどで暗号資産を取得したとき

これらの活動によって新たに暗号資産を取得した場合、その取得時点での時価が所得として課税対象となります。

5.暗号資産を寄附したとき

寄附時点の時価と取得価額との差額が利益とみなされ、課税対象となります。

3 今後はどうなる? 税制改正議論の動向

現時点(2025年7月)では、暗号資産について、具体的な税制改正の内容が明示されているわけではありません。ただし、暗号資産の法律上の位置付けの改正については、具体的な議論が進んでいます。

【現状】は支払い手段として資金決済法の下に位置付けられていますが、【改正案】では投資対象として金融商品取引法の下

に位置付けられ、決済手段の1つとしての取り扱いから、金融商品としての取り扱いに変わると見込まれています。この改正が実現した場合、税務上最も大きな影響があるのは、課税方式と税率です。

暗号資産に係る税金の取り扱い

現状の総合課税かつ累進課税(所得が大きくなるにつれ税率が高くなる)の下では、合算する他の所得のバランスを取りながら、暗号資産の売却を考えなければならないなど、税金が投資の足かせ要因の1つともいわれています。そのため、今後の改正により、他の所得とは区別して課税される申告分離課税、かつ一律20.315%となれば、

売却時の懸案事項が減り投資の促進にもつながる

とみられています。

以上(2025年8月作成)
(監修 税理士 石田和也)

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