書いてあること
- 主な読者:労働基準監督署の臨検監督について知りたい経営者、人事労務担当者
- 課題:自社に調査が入る可能性や、送検される可能性がどのぐらいあるのか分からない
- 解決策:厚生労働省「労働基準監督年報」でおおよその傾向を理解する。2022年のデータによると、調査が入る可能性は4.49%、送検される可能性は0.02%
1 ウチの会社にも労働基準監督署がやって来る?
労働基準監督署(以下「労基署」)による臨検監督(以下「臨検」)とは、
労基署の労働基準監督官(以下「監督官」)が会社(事業場)を訪問するなどして、労働基準関係法令に違反していないかをチェックすること
です。厚生労働省「令和4年労働基準監督年報」によると、2022年中に実施された臨検の状況は次の通りです。
適用事業場382万3470件のうち、実際に臨検が実施されたのは4.49%、違反があったのは2.93%、司法処分を受けた(経営者などが検察庁に送検された)のは0.02%です。このパーセンテージだけを見ると、自社に臨検が入ったり、送検されたりする可能性は低そうです。ただし、押さえておきたいのは、
2024年4月に「労働時間」「労働条件の明示」など、労働基準法関連の重要な法改正があった関係で、今後、労基署の動きが活発になる可能性がある
ことです。以降では、図表1の労働基準監督年報のデータをもう少し細かくひもといて、労基署の臨検に関する現在の状況を探っていきます。
2 流れをもう一度! 定期監督や申告監督の件数は?
現在の臨検の状況についてイメージがつかみやすいよう、定期監督等(定期監督+災害時監督)と申告監督のフローと件数を整理したのが図表2です。
前述した通り、司法処分(送検)までいくケースはまれですが、ただ送検されるだけでなく、会社名や違反内容が厚生労働省ウェブサイトで公表されるという、会社にとっては無視できない事態も招きます。
ちなみに、2023年3月1日から2024年2月28日までの公表事案を見ると、
1年間で約400件の会社が、賃金不払いや安全衛生管理の不備などで送検
されています(厚生労働省「労働基準関係法令違反に係る公表事案(2024年3月31日掲載)」)。
■厚生労働省「労働基準関係法令違反に係る公表事案(下記URLのページ中段)」■
https://www.mhlw.go.jp/kinkyu/151106.html
3 どのような業種の会社が臨検の対象になりやすいのか?
臨検の種類ごとに、2022年の実施件数が最も多い業種を見ていくと、
- 定期監督等(14万2611件) → 建設業(4万9284件)
- 申告監督(1万6639件) → 商業(2641件)
- 再監督(1万2278件) → 製造業(4546件)
となっています。重大な労働災害が起きやすい業種や、労働基準関係法令の違反が多い業種は、臨検の対象となりやすいようです。
なお、厚生労働省は各年度の労働に関する施策の方針を示した「地方労働行政運営方針」を公表していますが、2024年度については、
2024年4月より「時間外労働の上限規制」の適用対象となった建設業、自動車運転業務、医師、砂糖製造業(鹿児島県・沖縄県)についても監督指導を行っていく旨
が示されています。ただし、こうした事業・業務については、「取引慣行などの関係で個々の事業場だけでは長時間労働の是正が困難な場合がある」とも言っていて、指導については慎重を期して行っていく方針のようです。
業種以外では、会社のライフサイクルなども関係することがあります。例えば、成長期にあり、従業員数を大幅に増やしている企業などは、労務管理が煩雑になりやすく、申告監督などが入りやすい傾向にあるようです。
4 どんな法令違反が指摘されている?
ここまで、調査・臨検の種類やフローなどを中心に紹介してきましたが、
大切なのは、日ごろからきちんと労務管理を行い、調査・臨検を受けることになっても、法令違反なしで完結すること
です。定期監督等と申告監督で法令違反として指摘される項目の上位5つを確認してみましょう。
定期監督等では幅広い分野で法令違反が指摘されているのに対し、申告監督では賃金不払いが圧倒的に多く指摘されています。定期監督は違反の対象が絞り込まれているわけではないため、全般的に調査され、その中で違反が見つかったりします。一方、申告監督は、
特に退職者から残業手当の不払いなどの申告があるので、賃金不払いに集中しやすい
のです。
以上(2024年6月更新)
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画像:pexels