書いてあること
- 主な読者:新入社員の教育に悩む上司
- 課題:最近の新入社員は上司に対し、自分の話を聞いてもらうことや、一人ひとりに対して丁寧に指導することを期待する傾向にある。しかし、新入社員がどのような考えを持っていようと、理屈抜きで覚えてもらわなければならない内容もある
- 解決策:上司が強いリーダーシップで引っ張る「父親型」と新入社員の考えに耳を傾ける「友達型」の2つの指導法を状況に応じて使い分ける
1 「父親型」の上司と「友達型」の上司
新入社員は、右も左も分からない社会人の“赤ちゃん”のような存在です。上司にとっては当たり前の「社会人としての常識」が通じないことも多いため、「どこから教えればよいのか?」と迷ってしまうことがあります。また、今どきはパワハラが問題になることも多く、「どうやって伝えればよいのか?」という心配もあるかもしれません。
上司や新入社員の性格、仕事の内容、局面によって好ましい指導スタイルは変わってきますが、少々極端に分けた場合の1つのイメージは次の通りです。
- 父親型:
「私の言うことを聞け!」と強いリーダーシップで新入社員を引っ張って業務を遂行させるスタイル - 友達型:
「君はどうしたい?」と新入社員の意見や考えていることに耳を傾け、二人三脚で業務を遂行するスタイル
最近の新入社員は上司に対し、自分の話を聞いてもらうことや、一人ひとりに対して丁寧に指導すること、つまり友達型の指導を期待する傾向にあるようです。
とはいえ、上司が指導しなければならない内容は多岐にわたり、時には新入社員に「理屈抜きで覚えてもらわなければならない」こともあります。
父親型と友達型のどちらの指導法が適しているかはケース・バイ・ケースです。大切なのは新入社員の性格はもちろん、仕事の内容や局面を考慮しながら、父親型と友達型の指導方法を上手に使い分けていくことです。
2 ジェネレーションギャップを乗り越えろ!
ジェネレーションギャップは年代に限らず存在するため、比較的年配の上司が新入社員とうまくコミュニケーションを取るのは簡単ではありません。「何を考えているかよく分からない」と、上司同士で愚痴をこぼし合うこともあるでしょう。
しかし、それだけでは根本的な解決になりません。新入社員の教育に悩む上司は、まず今どきの新入社員の育った環境からその特徴を整理してみるとよいでしょう。
最近の新入社員には、次のような特徴がよく見られるようです。
- 上昇志向が低く、そこそこの成績や賃金で満足する
- 普段付き合いのない人間との会話に慣れておらず、挨拶や敬語、報告・連絡・相談ができない
- 「目立つと集団内で孤立する」と考える傾向があり、自分から発言をしない
- 叱られることに慣れておらず、上司が少し注意しただけで落ち込む
- 考えて行動するのが苦手で、「指示待ち人間」になりやすい
このようなことを理解した上で、それを上司自身が育った環境と比較してみると、「自分にとってはしっくりきた指導方法は、今の新入社員に向いているのだろうか……」と気付くことができるかもしれません。
3 父親型の指導のポイント
1)マナーや社会常識は父親型で指導する
父親型の指導は、マナーや社会常識など、社会人として不可欠な技術や知識を短い時間で確実に覚えさせるためのものです。これは理屈抜きで必要なことですが、上から目線で伝えるだけでは、新入社員は腹落ちしません。
大切なのは、「なぜ、そのような立ち振る舞いをするのか?」という理由や目的を伝えることです。新入社員が間違えたときも、ただ叱るのではなく、その間違いが仕事にどのような影響をもたらすのかを伝えるようにすると、新入社員も失敗の重さに気付くことができるでしょう。
また、注意をした後は、「次からは○○と言ったほうがいい」と具体的な改善方法を教えることも欠かせません。そうしたほうが新入社員も納得しやすく、「否定された」ではなく、「上司が自分を指導してくれた」という印象が心に残りやすくなります。
指導が一段落したら別の明るい話題に切り替えたり、全員の前で叱るのではなく、別室に呼んで指導したりするなどの配慮も大切です。指導されたことを引きずり過ぎないようにすると、新入社員は次の課題に向き合いやすくなります。
2)父親型から友達型へのシフト
入社したばかりの新入社員に、「自分で考えて仕事をしてくれ」と指示をしてもうまくいきません。新入社員が初めて携わる業務などは、まずは父親型で指導して経験を積ませる必要があります。その上で、新入社員の知識・経験などを考慮しながら、徐々に友達型に移行し、新入社員の自主性を育てる指導に切り替えていきましょう。
例えば商品のチラシの作成であれば、記載する事項はもちろん、色使いや文字のサイズ、フォント、時にはソフトの使い方まで上司が細かく指示を出さなければなりません。
そうして、ある程度知識や経験を積んだら、次は「以前チラシを作ってもらった商品○○のリニューアル版が出た。基本的なデザインは以前のチラシを踏襲しようと考えているが、新しい機能をアピールできるような説明を自分で考えて追加してみてくれ」と指示してみましょう。
新入社員の成長度合いや依頼する業務内容を勘案しつつ、父親型と友達型の指導のバランスを調整していくことで、新入社員の考える力が効果的に身に付いていくでしょう。
4 友達型の指導のポイント
1)考える力が要求される業務は友達型で指導する
友達型の指導は、「社員として必要な考える力を、ゆっくりと時間をかけて身に付けさせる」ためのものです。
友達型の指導が必要なのは、主体的に動こうとしない「指示待ち人間タイプ」や、報告・連絡・相談(以下「報連相」)ができない新入社員です。なかには「主体的に動きたい」「上司に相談したい」と思っていても、仕事・職場生活に対する疑問や不安が原因で実行に移せない新入社員もいます。
こういった新入社員の不安を解決して成長を促すための指導のポイントを、新商品のプレゼン資料を作ることを例にして紹介します。
2)仕事の目的を明らかにする
非合理的なことを嫌う最近の新入社員は、依頼された仕事について「この仕事に本当に意味があるのだろうか」という疑問を抱きがちです。仕事をする目的を伝え、新入社員の仕事に対するモチベーションを維持しましょう。
新商品のプレゼン資料を作る場合、「購入を検討している顧客に新商品のデザインや機能をPRするため」「自社の営業会議で、新商品をどのようなターゲットに向けて展開していくか協議するため」といったように、目的を具体的に伝えましょう。
3)上司と新入社員のギャップを見える化する
新入社員に仕事を任せても、上司の要求水準に達しなかったり、方向の誤った努力をしてしまったりすることはよくあります。上司がこと細かに指示を与えれば認識のギャップは生まれませんが、それでは新入社員の考える力が身に付きません。こういった場合は、上司と新入社員のギャップを見える化してみましょう。
新商品のプレゼン資料の作成では、取り掛かる前に資料全体の構成や盛り込む情報を、サマリーなどの形式で新入社員に報告させるとよいでしょう。サマリーを基に上司が確認することで、新入社員と上司の認識が合っているかどうかが分かります。
また、途中報告の期限についても「20%できた段階」などの曖昧な表現ではなく、「第○章までを○日の○時まで」と具体的に提示することで、計画的に仕事が進められます。
4)上司から新入社員に声を掛けて業務の進捗を確認する
上司が忙しそうで、報連相を行うタイミングが分からないという新入社員に対しては、上司のほうから積極的に声を掛けてみましょう。そうすれば、新入社員にとっても「この上司は話を聞いてくれる」という安心感が生まれ、報連相を行いやすくなります。
新入社員に声を掛ける際は、曖昧な質問をしないようにしましょう。例えば「業務の進捗はどう?」と聞かれても順調なのかどうか判断できない、「何か分からないことはない?」と聞かれても何を質問すればよいのか分からない、という新入社員もいます。
そのため、「第○章までを、今日の14時までに完成させてほしいのだけど、できそう?」「どこにデータがあるか分からずに困っているものはない?」などと質問することで、新入社員は疑問点が整理しやすくなります。
5 コミュニケーションの目的は?
上司が新入社員とコミュニケーションを取る目的は、新入社員に正しい行動を起こしてもらうこと、そして理想的には成果を上げてもらうことです。結果は同じでも、そこに導くためのプロセスは幾つもあり、父親型と友達型の指導はどのようなプロセスをたどるのかについての選択肢の1つにすぎません。
上司の重要な仕事は部下を導くことであり、特に企業の貴重な財産である新入社員の教育は、企業の成長のために欠かせない取り組みです。少しずつ仕事に慣れてきた新入社員は、徐々に“自分らしさ”を出してくるようになります。これは良いことですが、今どきの新入社員に対して先入観を持っていると、せっかく新入社員が表し始めた個性を、「生意気だ!」と感じ、抑え込んでしまうこともあり得ます。
新入社員の自主性を潰さないよう、まずは先入観を取り払ってフラットな視点で見てみましょう。新入社員は何に困り、どのようなサポートを求めているのか、おのずと見えてくるのではないでしょうか。
以上(2019年4月)
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画像:unsplash