書いてあること
- 主な読者:社員が入社したときに必要な手続きを、抜け漏れなく行いたい人事労務担当者
- 課題:手続きの種類が多く、網羅的に把握しにくい。漏れがあるとトラブルにもなる
- 解決策:手続きを「入社前または入社当日」「入社後」に分けてリスト化する
1 入社時の手続きの見落としに備えよう
社員の入社時は、労働条件通知書の交付や社会保険の手続きなど、やるべきことがたくさんあり、実務の抜け漏れが生じがちです。そこで、この記事では正社員を中途採用したことを想定し、必要な手続きをリストにまとめつつ、重要なポイントを紹介します。
手続きリストは、
- 入社前または入社当日
- 入社後
の2段階に分かれています。また、
各手続きをオンライン化できるかについても記載
していますので、書類のペーパーレス化を検討したい場合などにもご活用いただけます。ただし、手続きで必要となる添付書類については省略していますので、その点は各書類の提出先などにご確認ください。
なお、退職時の手続きについて知りたい場合、こちらのコンテンツをご確認ください。
2 入社前または入社当日の手続き
一般的な入社前または入社当日の手続きは次の通りです。
1)法定書類の交付:労働条件通知書
労働条件通知書は、社員に労働条件を明示するための書類です。労働条件には、必ず明示すべき事項(契約期間、就業場所、昇給に関する事項など)と、就業規則などに定めがある場合に明示すべき事項(退職金、賞与など)があります。
労働条件通知書は、労働契約を締結する際に書面で交付しなければなりませんが、社員が希望した場合はメールなどでも交付できます。また、退職金、賞与などの労働条件は口頭での明示でもよいとされています。
なお、2024年4月1日からは、労働条件通知書を交付する際、次の3つを新たに明示することが義務付けられるので、注意が必要です。
- (全社員)「就業場所」「業務内容」を記載する際、契約締結時の内容だけでなく、配置転換等の際の「変更範囲」も明示する
- (有期契約のパート等)「契約更新に関する事項」を記載する際、「更新上限」についても明示する
- (有期契約のパート等)通算契約期間が5年超の場合、「無期転換に関する事項(新設)」の記載欄を設け、無期転換の「申込機会」「転換後の労働条件」について明示する
2)手続き書類の取得:マイナンバーカードのコピー
マイナンバーカードのコピーには、社会保険や税務の手続きで使用するマイナンバー(個人番号)が記載されています。マイナンバーは極めて機微な個人情報なので、マイナンバー法に従い、取り扱いには細心の注意を払います。例えば、マイナンバー取得の際に「利用目的を社員本人に通知する」「本人確認(番号確認・身元確認)をする」などの手続きが必要です。
メールなどでマイナンバーカードのコピーを受け取ることもできますが、その場合、添付ファイルにパスワードをかける、個人番号事務取扱担当者だけが閲覧できるメールアドレスに送信をしてもらうなどの配慮が必要です。
3)その他の書類の取得:誓約書・身元保証書
誓約書・身元保証書は、社員の故意や重過失による会社への損害リスクを減らすために取得します。損害賠償額や違約金の具体的な金額をあらかじめ定めることはできません。ただし、身元保証書については、極度額(連帯保証人の責任すべき限度額)を定める必要があります。
なお、誓約書・身元保証書などの書類は法的には本来必要のないものなので、社員からの提出方法は、会社が自由に決められます(PDFなどで提出してもらうことも可)。
3 入社後の手続き
一般的な入社後の手続きは次の通りです。
1)法定書類の提出:社会労働保険関連
健康保険・厚生年金保険については、法定書類の提出後、健康保険被保険者証と資格取得に関する通知が会社に送付されます。到着を確認したら、
- 健康保険被保険者証は社員に交付
- 資格取得に関する通知は社内で保管(退職日から2年間保管)
- 資格取得をした旨や標準報酬月額など、所定の事項については通知書(書式は任意)を作成して社員に交付
します。なお、健康保険被保険者証は、マイナンバーカードと一体化される関係で、2024年12月2日に廃止が予定されています。
雇用保険については、次の書面が発行されます(1.から3.までは一体の書面です)。3.は社員に交付し、1.と2.は社内で保管します(退職日から4年間保管)。
- 雇用保険被保険者資格喪失届・氏名変更届
- 雇用保険被保険者資格取得等確認通知書(事業主通知用)
- 雇用保険被保険者資格取得等確認通知書(被保険者通知用)・雇用保険被保険者証
なお、法定書類の提出手続きは、社会労働保険関連は「電子政府の総合窓口(e-Gov)」から、税務関連は「地方税ポータルシステム(eLTAX)」から、電子申請で行えます(どちらも事前に電子証明書の取得が必要)。
■電子政府の総合窓口(e-Gov)■
■地方税ポータルシステム(eLTAX)■
2)法定帳簿の作成:労働者名簿、賃金台帳、出勤簿
法定帳簿には社員の氏名、生年月日、入社日などを記入します。社内にて保管されていれば特に提出の必要はなく、また、速やかに印刷などができる状態であれば、PDFなどで保管して差し支えありません。
3)雇入時健康診断
社員が入社3カ月前までに受診した健康診断書があれば、その診断項目については雇入時健康診断の受診が免除されます。なお、採血などを行う関係上、受診自体はオンライン化できませんが、診断結果についてはPDFなどでの保管も認められています。
以上(2024年4月更新)
(監修 社会保険労務士法人AKJパートナーズ)
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