書いてあること
- 主な読者:インバウンドの動向が気になる宿泊業者や新規参入を検討している経営者
- 課題:訪日希望者が期待する旅行企画を知りたい
- 解決策:自然や歴史・景観など、地元の特徴を活かしたアクティビティを見つけ、インターネットを利用して訪日希望者にアピールする
1 再開するインバウンドの需要を取り込むために
コロナ禍の外国人受け入れ禁止(2020年12月28日から)などで大きな打撃を受けたインバウンドですが、2022年10月11日から全面解禁となりました。
観光庁によると、コロナ前までのインバウンドは右肩上がりの産業で、2019年の訪日外国人旅行消費額は4兆8135億円に上っていました。いったんはコロナでしぼみましたが、外国人の受け入れが本格化すれば、再び大きな経済効果をもたらしてくれるはずです。
この記事では、「ウィズコロナ」の状況下での、
- インバウンドのニーズを知り、需要を取り込む企画作り
- 訪日意欲の強いインバウンドに届けるプロモーション
について解説し、インバウンドの需要を中小企業が取り込むための企画や方法を紹介していきます。
2 インバウンドのニーズを知り、需要を取り込む企画作り
1)体験したいことは、「アウトドア・アクティビティ」や「自然や風景の見物」
外国人が日本旅行で体験したいことは、新型コロナウイルス感染拡大前と比べて変化があります。日本政策投資銀行(DBJ)・日本交通公社(JTBF)の調査によると、最も大きな変化は、「アウトドア・アクティビティ」や「自然や風景の見物」など、自然への興味・関心が高くなっていることです。
また、新型コロナウイルス感染拡大を契機として、都心のホテルより自然環境に触れる旅行地のニーズが高まっている傾向もみられます。
2)持続可能な観光への意識が高まっている
海外旅行を検討する際、サステナブルな取り組みを重視する意向も強まっています。日本政策投資銀行(DBJ)・日本交通公社(JTBF)の調査では、サステナブルな取り組みによる宿泊単価の値上げに対して、全体の7割に許容の意向があります。
値上げが許容できる取り組みの具体例としては、「ゴミの分別・削減」、「食料廃棄の削減」、「公共交通機関の利用」、「プラスチック利用の自粛」などの環境への影響に加えて、「地域ならではの精神性の体験」や「地元の人との対話・交流」といった地域のコミュニティや歴史・風土に関わるものもあります。
また、観光庁が旅先での過ごし方について尋ねた調査では、回答者の約7割が「現地の文化を代表するような本格的な体験」や「旅行中に使ったお金を現地コミュニティに還元」に意欲を示しています。
3)地域の特徴を活かしたアクティビティを企画しよう
ウィズコロナでの旅行は、「アウトドア・アクティビティ」「自然」「サステナブル」がキーワードになりそうです。
これらのキーワードを基にした旅行企画は、大手旅行会社でなくても実現可能です。
例えば、寿司店が自店舗を使って寿司握り体験教室を開く、海外の日本酒ブームに合わせて酒蔵で酒造りを見学する、日本茶の産地で茶葉の手もみ体験をする、日本情緒のある景観が楽しめる場所でのテント泊、山村でのマタギ体験、数百年以上の歴史を持つ神社めぐりなどです。
これらのアクティビティや景観、名所めぐりは、地元では「当たり前すぎて観光資源になることに気付いていない」ものがたくさんあります。他の地域のアクティビティや景観めぐりが紹介されているウェブサイトを参考にするなどして、地元の良さを見つめ直してみるのもいいでしょう。
3 訪日意欲の強いインバウンドに届けるプロモーション
インバウンドを取り込む旅行企画を作ったら、それをPRすることが大切です。どんなに魅力的な旅行企画であっても、プロモーションに失敗すれば「企画倒れ」になりかねません。
海外に向けて発信するのであれば、何より重要なのが、インターネットを活用した、英語などの多言語によるPRです。
1)海外のインフルエンサー(SNSで大きな影響力を持つ人)に協力を呼びかける
海外に影響力を持つ外国人インフルエンサーを活用することで、世界に向けて情報発信することができます。
大田原ツーリズム(栃木県大田原市)は、農村を観光資源として活用し、農家民泊を軸に、地元住民らと交流しながら農作業などを体験する「グリーンツーリズム」を行っています。同社では海外のインスタグラマーやユーチューバーに向けて常に情報提供を行い、イベントに招待して現地向けの情報を発信してもらっているそうです。農作業や伝統的な暮らしの体験、自然を活用したアクティビティなどを、インフルエンサー自らが体験することで、臨場感のある情報発信につながります。
外国人インフルエンサーを活用する際は、インフルエンサーのフォロワーが、PRしたいターゲットと重なっていることを確認しましょう。日本のことを紹介するインフルエンサーのフォロワーの大半が日本人だったりすることもありますので、注意が必要です。事前にターゲットを決めてからインフルエンサーを選定するようにしましょう。
外国人インフルエンサーを紹介してくれる業者の一例は次の通りです。なお、PR会社に相談する場合は、さまざまなノウハウも提供してくれますが、相談料やインフルエンサーへの報酬も必要になります。
1.Tokyo Creative
30人以上の在日外国人インフルエンサーが所属しています。在日外国人ユーチューバーがツアーのスポット選定から、ローカルガイドの魅力発信まで依頼主と共に行うことで集客率の向上を行ったりしています。また、同社は訪日インバウンドのコンサルティングも行っています。
■Tokyo Creative■
https://www.tokyocreative.jp/ja/
2.インバウンドONE
複数のインフルエンサーマネジメント会社とのネットワークを持つ訪日外国人の旅行手配を行っています。海外から来日し取材・体験した上での情報配信や、紹介してほしい商品をインフルエンサーへ送りレビューを投稿してもらうなど、依頼主ごとに対応しています。
■インバウンドONE■
https://www.jointone.biz/
3.共同ピーアール
日本の観光事業を紹介した実績を持つ外国人インフルエンサーとネットワークを持ち、ターゲットの国や言語、タイミングにあわせて最適なインフルエンサーを紹介します。また、専用ECサイトも持ち、投稿記事と連動した商品を案内し、購入してもらうまでの効果も測れます。
■共同ピーアール■
https://www.kyodo-pr.co.jp/
2)アクティビティサイトを利用する
アクティビティサイトを利用してPRする方法です。アクティビティサイトへの初期の掲載費用やページ制作費などがかからない代わりに、サイトを経由して予約があった場合に成果報酬費用をサイト運営者に支払うケースが多いようです。
このため、宿泊施設・小売店などの事業者は、まずは低額のプロモーション費用で反応を試してみることが可能です。また、アクティビティサイトの運営側としても、初期の掲載費用を無料にしてハードルを低くすることで、多様なアクティビティ情報の集積ができます。
アクティビティサイトの一例は次の通りです。
1.アクティビティジャパン
H.I.S.の子会社であるアクティビティジャパンが運営しています。登録事業者数は約6000で、掲載プラン数は1万6000を超えています(2022年8月現在)。H.I.S.の店舗や販売網を使ってアクティビティの紹介・仲介、電話予約も行っています。
掲載に当たっては、初期掲載費用・初期ページ制作費・広告宣伝費用は無料で、同サービスを経由した予約に対して送客手数料・オンライン決済手数料がかかります。
■アクティビティジャパン■
https://activityjapan.com
2.asoview!(アソビュー)
アソビューが運営しています。累計体験人数は1000万人、掲載プラン数は2万を超えています(2018年9月現在)。掲載に当たっては、原稿の登録・作成・修正費用・予約管理システム利用料は無料で、ウェブサイトを経由した予約に対して10%の成果報酬費用が差し引かれます。
■asoview!(アソビュー)■
https://www.asoview.com/
3.Viator(ビアター)
500以上の提携サイトを持つアクティビティ特化のプラットフォームで、サイト訪問者は累計すると4.5億人以上を数えます。また、世界有数の旅行口コミサイトであるトリップアドバイザーの傘下にあり、同サイトに無料で掲載でき口コミを管理できます。
■Viator■
https://www.viator.com/
4 インバウンドが復活する要因
1)高い訪日意欲に加え、円安効果も後押し
観光庁によると、医療崩壊を防ぎ、感染対策と社会活動の両立を図る「ウィズコロナ」のなかで、新型コロナウイルス感染症が落ち着いた後に訪日意欲を持つ人は73.2%に上ります。
前出のDBJ・JTBF「アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(第3回 新型コロナ影響度 特別調査)」(2022年)」でも、「次に海外旅行したい国・地域」の第1位は日本でした。
また、円安効果もあります。2019年の米ドル円の為替は、1米ドル=110円程度でした。現在1米ドル=140円台で推移していて、2019年より2割ほどの円安となっています。すでに自国で買うよりも日本で買ったほうが安い状況も生まれているため、外国人の消費意欲が高まっています。
2)国もインバウンド誘致に積極的
インバウンドの掘り起こしには国も力を入れています。観光庁は観光インバウンドの回復を見据えて、「インバウンド回復に向けた戦略的取組」の2023年度の予算要求額を98億7900万円としました。その大半を占めるのが「戦略的な訪日プロモーションの実施」の93億円(2022年度の決定予算は65億4200万円)です。
以上(2022年10月)
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画像:unsplash