書いてあること

  • 主な読者:混合介護を提供したい介護事業者
  • 課題:混合介護として提供できるサービスが分からない
  • 解決策:提供できるサービスのルールを知っておく

1 曖昧だったルールが明確に

2018年9月、「混合介護」のルールが明確になりました。混合介護とは、介護保険法の介護保険サービス(法定。利用者がサービス料の1~3割を負担)と介護保険外サービス(法定外。利用者がサービス料の10割を負担)を組み合わせて提供することです。

現行の介護保険制度では、介護保険サービスと介護保険外サービスを明確に区分するなどの条件で、混合介護を認めています。しかし、区分に関する明確なルールがないため自治体によって判断が異なるなど、介護事業者が混乱していました。

そこで、2018年9月に厚生労働省と国土交通省が混合介護のルールを整理し、指針として都道府県に通知しました。指針では、訪問介護の前後や途中でペットの世話や草むしりなど、混合介護として提供できるサービスのルールが明文化されました。

ルールが明確になったことで介護事業者は混合介護を提供しやすくなるため、ビジネスの選択肢が広がっていくと期待されます。指針の内容を分かりやすく整理した上で、実際に混合介護を提供する際のポイントを確認していきましょう。

2 混合介護のイメージ

介護保険サービスは、利用者の身体介護や生活援助などに限定されます。「ヘルパーさんに、ペットの世話もしてもらいたい」といった利用者のニーズには対応できません。そこで、この点を介護保険外サービスで補うのです。イメージは次の通りです。

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混合介護サービスのメニュー内容や料金は、介護事業者が自由に設計できます。介護報酬とは別の形での収益を確保することで、職員の待遇を改善したり、人材を確保しやすくなったりする可能性があります。

3 混合介護のルールを整理する

1)通知の概要

2018年9月に通知された指針は、厚生労働省「介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する場合の取扱いについて」と、国土交通省「通所介護等に係る送迎に関する道路運送法上の取扱いについて」です。

訪問介護と通所介護において、介護事業者と自治体の解釈・判断によって運用されてきたローカルルールを整理し、個別具体的に明文化したものです。

指針に法的拘束力はないものの、厚生労働省は各自治体に対して、原則指針通りにルールを設定するよう要請しています。そのため、介護事業者と自治体がルールについて交渉したり、判断したりする際には、指針が大きな根拠になります。

2)共通のルール

指針では、訪問介護、通所介護にかかわらず混合介護を提供する上で、次のような事項を遵守するよう求めています。

  • 介護保険外サービスの事業の目的、運営方針、利用料等を、指定訪問/通所介護事業所の運営規程とは別に定める
  • 契約の締結に当たり、利用者に対し、上記の概要その他の利用者のサービスの選択に資すると認められる重要事項を記した文書をもって丁寧に説明を行い、介護保険外サービスの内容、提供時間、利用料等について、利用者の同意を得る
  • 介護保険外サービスの提供時間は、介護保険サービスの提供時間には含めない
  • 契約の締結前後に、利用者の担当の介護支援専門員(ケアマネジャー)に対し、サービスの内容や提供時間等を報告すること。その際、当該ケアマネジャーは、必要に応じて事業者から提供されたサービスの内容や提供時間等の介護保険外サービスに関する情報を居宅サービス計画(週間サービス計画表、ケアプラン)に記載する
  • 介護保険外サービスの利用料は、介護保険サービスの利用料とは別に費用請求すること。また、両サービスの会計を区分する

3)訪問介護において明確になったルール

指針では、提供できる介護保険外サービスとして「訪問介護の前後や途中に、草むしり、ペットの世話、利用者の趣味や娯楽のための外出への同行、要介護者以外(要介護者の家族など)のための食事の調理、洗濯、買い物など」等を明文化しています。

また、ケアマネジャーやヘルパーとの連絡調整業務を行うサービス提供責任者について、従来は「専ら指定訪問介護に従事すること」とされていました(「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(以下「指定居宅サービス等基準」)による)。

これが指針では、「業務に支障がない範囲で保険外サービスにも従事することは可能」と明文化されました。指定居宅サービス等基準でも、介護保険外サービスへの従事が禁止されていたわけではありません。しかし、指針で改めて明文化されたことで、介護事業者は抵抗感なくサービス提供責任者を混合介護に従事させることができるでしょう。

他に、訪問介護で混合介護を提供する上でのルールとして、利用者の認知機能が低下している恐れがあることを踏まえ、介護保険外サービスの提供時に、利用者の状況に応じて、別サービスであることが理解しやすくなるような配慮を行うこととしています。

4)通所介護において明確になったルール

通所介護は、利用者に必要な日常生活上の世話並びに機能訓練を行う介護保険サービスです。内容が多岐にわたるため、介護保険外サービスと区分することは基本的には困難とされてきました。

そのため、混合介護として提供できる介護保険外サービスは理美容サービスと、緊急のやむを得ない場合に限り併設医療機関を受診させることに限定されていました。

指針では、これらに加え、次のサービスも「明確に区分することが可能」として、提供が認められています。

  • 通所介護事業所内において、健康診断、予防接種若しくは採血(巡回検診等)を行うこと
  • 利用者個人の希望により通所介護事業所から外出する際に、介護保険外サービスとして個別に同行支援を行うこと
  • 物販・移動販売やレンタルサービス
  • 買い物等代行サービス

ただし、上記サービスを提供するに当たっては、次の点に留意することが求められます。

  • 利用者に対して特定の事業者によるサービスを利用させることの対償として、当該事業者から「紹介料」のような形で、金品その他の財産上の収益を収受してはならない
  • 物販・移動販売やレンタルサービスを行う際に、高額な商品を販売しようとする場合には、あらかじめその旨を利用者の家族やケアマネジャーに対して連絡する。また、認知機能が低下している利用者に対しては、高額な商品等の販売を行わない
  • 介護保険外サービスとして個別に同行支援を行う際に、事業所の保有する車両を利用して行う送迎については、道路運送法に基づく許可・登録を行う

5)通所介護施設を利用した混合介護

指針では、事業所の人員や設備を活用して、次のような混合介護が提供可能であることを明確にしています。

  • 通所介護を提供していない夜間および深夜に介護保険外サービスとして宿泊サービス(お泊りデイ)を提供する
  • 通所介護事業所の設備を、通所介護を提供していない時間帯に、地域交流会や住民向け説明会等に活用する
  • 通所介護事業所において、通所介護の利用者とそれ以外の地域住民が混在している状況下で、体操教室などの介護保険サービスを、地域住民向けに介護保険外サービスとして同時に提供する
  • 通所介護事業所において、通所介護を提供する部屋とは別室で、通所介護に従事する職員とは別の人員が、体操教室などを地域住民向けに提供する

お泊りデイを提供する際には、指定居宅サービス等基準などに定める届け出、公表、人員、宿泊室床面積、設備などの基準を守るよう定めています。

また、通所介護の利用者と地域住民に対して同時一体的にサービスを提供する場合、利用者と地域住民の合計数に対し、通所介護事業所の人員基準を満たすように職員が配置され、利用者と地域住民の合計数が通所介護事業所の利用定員を超えないようにする必要があります。

4 「同時一体的な提供」「指名料」は認められず

指針では、次の混合介護については提供不可としており、引き続き課題の整理等を行うとしています。

  • 「利用者の食事と、同居家族の食事を同時に調理する」「利用者を含めた家族全員の衣服を同時に洗濯する」といった、訪問介護と介護保険外サービスの同時一体的な提供
  • 特定の介護職員による介護サービスを受けるための指名料や、繁忙期・繁忙時間帯に介護サービスを受けるための時間指定料の徴収

提供不可の理由としては、利用者本人のニーズにかかわらず家族の意向によってサービス提供が左右されたり、指名料・時間指定料を支払える利用者へのサービス提供が優先され、社会保険制度の公平性を確保できなくなったりする恐れがあることなどが挙げられます。

5 ヒアリングから得られた混合介護の現状

1)先行事例を参考にする

東京都豊島区では、2018年8月から国家戦略特区を活用して、訪問介護と介護保険外サービスの柔軟な組み合わせを可能にする「選択的介護モデル事業」を実施しています。2019年12月からは、通所介護・居宅介護支援についても、同事業を実施しています。

同事業は、国の指針とおおむね同じルールで混合介護を提供しており、今後、介護事業者が混合介護を提供していく上での先行事例として注目されています。

■東京都豊島区「選択的介護モデル事業について」■
https://www.city.toshima.lg.jp/428/kaigo/1807100923.html

2)ルール明確化によるメリット

モデル事業に参加した介護事業者へのヒアリングによると、ルール明確化によって次のようなメリットが得られているようです。

  • サービス提供責任者が混合介護に従事できるようになり、実質的に混合介護に割ける人員を増やすことにつながった
  • 混合介護を提供する際にケアマネジャーが関わるようになったことで、これまで介護事業者が担っていた混合介護に関するクレームの対応や利用者への説明を、ケアマネジャーと連携して対応できるようになり負担が減った

3)短時間で対応可能な困り事ニーズを捉える

モデル事業に参加した介護事業者や豊島区へのヒアリングによると、混合介護には、次のような利用ニーズがあるようです。

  • 独居の高齢者を中心に、センサーやWEBカメラを定期的にチェックする見守りサービスの需要が高い。夜間の転倒などが心配という利用者家族に対し、ケアマネジャーよりサービスを提案するケースがある
  • 介護保険サービスを提供中に、「窓を拭いてほしい」「エアコンのフィルターを掃除してほしい」といった、清掃に関する依頼を突発的に受けることが多い
  • ペットの餌を買いに行けない、ペットの散歩ができないという利用者が多く、ペットの世話に関するサービスの需要も高い

利用者の傾向として、ヘルパーが1時間滞在しただけでも疲れてしまう人が多いため、ヘルパーの短い滞在時間の中で対応できる介護保険外サービスの需要が高いようです。一方、訪問介護で疲れてしまった利用者が、その前後または途中に外出することは少ないため、外出への同行サービスの需要は低いようです。

6 今後の可能性

介護保険外サービスの提供は、介護報酬の改定などの影響を受けないという点で、経営の安定化につながります。利用者のニーズに合ったサービスや、既存の人員や施設を活用したサービスを展開することにより、他事業所との差異化を図ることもできるでしょう。

また、今回の指針では、訪問介護における同時一体的な提供や指名料などの徴収は認められませんでしたが、厚生労働省は引き続き検討していくとしており、今後の動向が注目されます。

以上(2020年2月)

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画像:GagliardiPhotography-shutterstock

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