1 徳島から日本を変える起業家たち

徳島から、日本を変える。

そんな無謀とも思える挑戦を、本気で掲げている起業家支援団体があります。

その名も徳島イノベーションベース、通称『TIB』。

TIBは、行政・金融・メディア・教育機関など、地域の中核を担う組織が一体となって“本気の起業家”を応援する、全国でも類を見ないプラットフォームです。

設立は2020年。

以来、全国へと広がりを見せる「xIB」の原点として、徳島の地から数多くの挑戦者たちを支えてきました。

※TIBの詳細は、前回の記事をご覧ください。

この連載では、そんなTIBに集う起業家たちにフォーカス。

彼らが描くビジョンや挑戦、TIBで得た学びや仲間、そして未来への想いをインタビュー形式でお届けします。

前回登場したのは、ひとざい104株式会社 代表取締役・ 岡本昌幸 さん。

その岡本さんが次のバトンを託したのは——

株式会社Grace 代表取締役/学生服リユースショップ さくらや徳島北店を運営する川邊めぐみさん。

徳島発・変革者たちのリアルな声に、どうぞご注目ください。

2 事業について

わたしは学生服リユースショップ さくらや徳島北店で、徳島県内の保育園から高校までを対象に、制服・体操服の中古買取/販売を行っています。

制服は新品だと一着で数千円から数万円。わたしも子育て中は、その価格の高さに本当に悩まされました。

だからこそ、リユース品を手ごろな価格で提供することは子育て世帯の家計応援に直結すると考え、この事業を始めました。

また、ただの“古着販売”ではなく、「思い出の品を次世代へつなぐ」ことも大切にしています。

さくらやに並ぶ学生服の一着一着には、かけがえのない思い出が宿っています。単に再利用するだけでなく、そうした思い出の品に新しい息吹を与える——それが学生服のリユースです。

家計の助けになることはもちろん、価値ある“思い出の一着”を必要なご家庭へ確かに届ける。わたしはその役割を大切にしています。

学生服リユースショップさくらや徳島北店

3 経歴や事業を始めるきっかけ

わたしが起業したのは、4人の子育てが終盤にさしかかった頃です。

それまでは約28年間パートをしていたのですが、離婚を機に正社員の仕事を探すことに。でもなかなか見つからず、不安を抱えていました。

そんな折、兄に勧められて観た『がっちりマンデー!!』(TBSテレビ)で、高松発の学生服リユースに挑む女性社長の存在を知り、「これだ!これをやりたい!」と直感で思いました。

その女性社長こそ、さくらや創業者の馬場加奈子さんです。

すぐにその馬場社長に電話をして、わたしもこの事業がやりたいという想いを伝えました。そして見学し、パートナー契約へ。準備を重ね、最初の連絡から11か月後の2016年11月20日、北島町で「学生服リユースショップさくらや徳島北店 」を開店しました。

学生服リユースショップさくらや徳島北店

わたしの暮らす地域は小学校から制服が必要で、制服費の負担にわたし自身とても困っていました。各学校のバザーなどはあっても、民間の学生服リユース専門店は当時徳島にありませんでした。

需要はあるのに、なぜないのか——

その理由は取り扱いの難しさにあります。

学校ごとの校則・指定が複雑で情報収集が不可欠、さらに「古着」の扱いには細心の配慮が必要。全国的にも事業者が少ない領域です。

だからこそ「わたしがここでやる」「徳島で一人者になる」と決め、必要な人に必要な一着を安心して届けられる仕組みを徹底して整えてきました。

4 徳島イノベーションベースに参加・所属したきっかけ

TIBには2022年6月に入会しました。

夢ややりたいことを、橋爪さん(TIB会員/セルフうどん関)に話したところ、「絶対TIB行ったほうがいい!」と背中を押してもらったのがきっかけです。

起業前はずっとパート勤務で、経営の知識はほぼゼロ。

なんとか経営を続けていましたが、きちんと学びたい気持ちがある一方で、本を読んで勉強するのは苦手で、どう学べばよいか分かりませんでした。

そこで、TIBが「経営を学べる環境」だと知り、まずはゲスト参加することに。

文字ベースの学習が得意ではない自分だからこそ、学べる場に身を置くのが一番だと考えました。とはいえ、参加してみると有名企業や大規模事業の経営者が多く、正直「わたしなんかがいていい場所なのかな」と尻込みしたのも事実です。

それでも、何度かゲスト参加を重ねるうちにTIBや会員の方々の魅力に触れ、思い切って飛び込む決心がつきました。あの時、勇気を出して一歩踏み出して本当に良かったと思っています。

5 TIBのプログラムや活動で印象に残っていること

メンタリングでは、日産サティオ徳島の藤村さんに、6か月の間、伴走していただきました。

メンターである藤村泰之氏(株式会社日産サティオ徳島代表取締役)と

実は、ボランタリーに始めた経緯もあって、長いあいだ「この事業で売上を伸ばすのは不自然では?」という違和感があり、“儲ける”ことに抵抗がありました。

ですが、藤村さんのメンタリングを通じて、「売上が伸びるのは、いいサービスであり、それが社会に広がっているということ」だと理解でき、売上を伸ばすこと自体の社会的意義が腹落ちしました。

あわせて、売上を伸ばすためのデータ管理の必要性も徹底的に教わりました。グラフの作り方、数字の可視化、指標設計まで具体的に学び、データをきちんと管理できるようになったことで、売上の予測や意思決定が自信をもって行えるように。これは、わたしにとって本当に大きい変化でした。

あとは、2025年5月の拡大月例会も、とても印象に残っています。

この回は「グローバルから見た地方教育のこれから」がテーマで、行政・ビジネス・教育の第一人者によるパネルディスカッションや、留学経験者のプレゼンテーションが行われました。

そして最後に発表されたのが、「徳島県版 トビタテ!留学JAPAN」の構想と、後藤田徳島県知事への実施要請。

——もう、本当にしびれました。藤田さん(株式会社メディアドゥ代表取締役CEO/一般社団法人徳島イノベーションベース代表理事)の巻き込み力とスピード、そして設計力は圧巻でした。

わたしは、TIB運営委員会(会員の有志メンバーが運営にも携わっています。わたしはメンバーシップ・アライアンス委員としてTIBの新規入会者を増やすことにコミットしています)にも参加しており、この月例会の準備にも携わりました。

企画を設計し、600名もの参加者を集めるための施策を打ち、当日を大盛況で締めくくるまでをどう描くか——。

その一連のプロセスを最前線で体験できたことは大きな学びであり、運営に関われていることへの感謝を改めて実感する機会になりました。

5月の月例会に限らず、運営委員会の日々の活動からも、組織設計やマネジメントなど学ぶことは本当に多く、自社の運営にも数多く活かせていると感じています。

TIB第6期運営委員会

6 所属してから得られた学びやスキル、考え方の変化

一言でいえば、視座が上がったことです。

その結果としての具体的な変化はいくつもありますが、なかでも「従業員に任せる体制をつくる」という判断は、この成長があったからこそできました。

以前はTIBの月例会に参加するため、閉店時間を18時→16時に前倒ししていましたが、いまは「任せて閉店時間は変えない」という考え方にシフトしています。これはTIBでの学びの大きな成果です。

TIBには、月例会・メンタリング・ラーニング・フォーラムなど多彩なコンテンツがあり、どれも学びが深いのですが、わたしにとってフォーラムの存在はとくに大きいと感じています。

フォーラムは毎月1回、メンバーである経営者が集まり、この1か月で起きた「仕事・家庭・個人で最も感情が揺れ動いたこと」を発表します。

メンバーのアウトプットを受けて経験談をシェアし、さらに自分の感情の裏側を深掘りする——このプロセスが、強力な言語化の訓練になっています。

行き当たりばったりだったわたしも、1か月を振り返り、“逆の感情”まで考える習慣が身につき、新たな気づきを得られるようになりました。後回しにしがちな内省を強制的に回せること——これがフォーラムの大きな価値だと思います。

堅苦しく聞こえるかもしれませんが、フォーラムは毎回とても楽しい場ですし、メンバーのみんなも大好きです。

守秘義務が徹底され、ここで話したことが外に漏れない設計になっているからこそ、他では絶対に話せないことも安心して共有できる。

「安心・安全な場所」があること、そしてそういう仲間がいることは、わたしにとって大きな支えであり、確かな成長にもつながっています。

フォーラムメンバーと

7 TIBで苦労したこと・課題

前述の通り「わたしなんかがいていいのかな」と思うような苦手な世界に飛び込んだので、入会当初は専門用語がわからず、カタカナが飛び交う内容についていけない時期がありました。

それでも「いつか耳に入るようになる」と信じ、検索しながら月例会を追い、少しずつ身体になじませてきました。英語が話せないまま海外へ行き、徐々に理解できるようになる感覚に近いですね。

8 入会後の事業成長

売上はTIB入会後に142%へ伸長。そして2025年7月、念願の法人化を果たし、株式会社Graceを立ち上げました。

また、2018年頃からスタッフ雇用を始め、現在はパート3名体制です。従業員が増えたことで売上は大きく伸び、いまは店頭に立つ時間を減らし、体制づくりに注力しています。

9 抱えている課題と今後の展望

店頭に立たない前提のマネジメントを、さらに強化したいと考えています。

スタッフに任せて生まれた時間をどう活かすか——タスク管理と優先順位付けが現在の課題です。脱・プレイングマネージャーを進めつつ、任せても伸びる仕組みを磨いていきます。

また、地域交通の新規事業に挑戦するため、情報収集を進めています。

91歳の父が現役ドライバーであることから、日々の運転に不安を覚える場面もあります。

一方で、徳島で車なしで暮らす不便さも痛感しており、解決には地域交通の整備が不可欠だと感じました。「安心して免許を返納できる世の中」の実現を目指しますが、目の前に立ちはだかるのは収益化という大きな壁です。

こうした社会課題は需要が高いにもかかわらず、解決までには数多くの障壁があります。

それはさくらやの事業でも同じでした。

困っている人は多いのに、学生服の取り扱いの難しさから参入障壁が高く、いまでも全国的に事業者は多くありません。

それでも、壁を越えながら経営し、売上も伸ばすことができました。

地域交通でも、持続可能なモデルをあきらめずに探り、必ず実現したいと思っています。安心して免許返納ができ、返納後も移動に不自由しない——そんな仕組みづくりに貢献したいです。

自分の困りごとは、社会の困りごと。

わたしのミッションは、「社会の困りごとに目を向け、役割を果たす」ことです。

学生服リユースも地域交通も、わたし自身の困りごとから始まり、同じ困りごとを抱える人たちに届けたいという思いで取り組んできました。

日常の大小さまざまな不便に対して、“あったらいいな”をプロダクト化し、自分の困りごと=社会の困りごとを解決していきたい。

そして、そうした取り組みを誰もが知っているレベルまで広げていくことが、わたしの使命です。

10 参加を迷っている方へのアドバイス

以前のわたしと同じように、「わたしなんかがいていい場所じゃない」と感じてTIBへの参加を迷っている方は多いと思います。

そんな方に「大丈夫だよ」と伝えるのが、メンバーシップ委員としてのわたしの役割だと考えています。

TIBの価値は、安心・安全な場であり、ピアトゥピア(対等な関係)で学べること。事業規模に関係なく対等でいられます。わたしも入会当初は個人事業で、経営について無知でしたが、それでも受け入れてもらい、仲間と一緒に成長してこられました。

これから入会を検討している方々には、自分の経験を率直に伝えることで不安のハードルを下げ、共に成長していける仲間を増やしていきたいです。

メンバーシップ委員の活動(月例会の様子)

11 徳島イノベーションベースへの想いと、今後の期待

この学びは、藤田さんをはじめ理事各社のおかげです。感謝の気持ちを忘れず、これからも関わっていきたいと思っています。

「徳島から日本を変えてやろう、世界を驚かそう」というテーマは、以前はスケールが大きすぎて、どこか他人事に感じていました。

ですが、TIBが実際に徳島から日本を変えていく姿を目の当たりにし、そしてTIB会員・運営委員として携わる中で、わたし自身も当事者だという意識が芽生えました。

このテーマを自分事として捉え、挑戦し続ける経営者でありたい——そう強く思っています。

12 メッセージ

成長したいと渇望する人には、ぜひTIBに。それに尽きます。

わたしは、3年前の自分からは想像できないほど前に進めました。

月例会やフォーラムが毎月やる気スイッチを押してくれるから、落ち込んでも必ず浮上できる。なかったら困る場所——それがTIBです。

とはいえ、TIBに興味はあっても、以前のわたしのように「わたしなんかが…」「ちょっと怖い」と尻込みしている方もいると思います。

まずは月例会に来てみてください。(非会員の方は2回まで無料でお試し参加ができます。)毎回、月例会の前には説明会も実施しており、TIBについて詳しくご案内しています。さらに懇親会では、登壇ゲストやTIB会員と直接交流することができます。

また、子育て中の方にも安心してご参加いただけるような取り組みもしていて、無料託児や、お子様と一緒に月例会に参加できる『親子で学ぶTIB』はたくさんの方にご利用いただいています。

TIBは、ピアトゥピア(対等な関係)であることをを大切にしています。来てみたら、あなたの中の“ネック”が、意外と簡単に解消されるかもしれません。

わたしたちと一緒に成長し、徳島から日本を変えていきましょう。

13 次回のインタビューは…

次にバトンを渡したいのは、同じくメンバーシップ委員として運営に携わっている、 株式会社abeille 代表取締役の吉谷よしみさん です。

株式会社Abeille 代表取締役 吉谷よしみさん

PROFILE

川邊 めぐみ(株式会社Grace 代表取締役/学生服リユースショップ さくらや徳島北店 代表) 徳島県在住。4児の母。2016年11月、北島町に学生服リユース専門店を開業。制服・体操服の中古買取/販売を通じて家計応援と循環を推進し、「社会の困りごとに目を向け、その解決に手を伸ばす」をミッションに活動。現在は“任せても伸びる”体制づくりを進めつつ、 安心して免許返納できる地域交通の仕組みを目指した新規事業に挑戦中。

『徳島から日本を変える起業家たち〜TIBリレーインタビュー〜vol.4』株式会社abeille・代表取締役の吉谷よしみ氏へのインタビューの更新もお楽しみに!

TIBのWEBサイト、SNSより更新のお知らせをご覧いただけます。

WEBサイト:https://tibase.jp/
Facebook:https://www.facebook.com/TokushimaInnovationBase
Instagram:https://www.instagram.com/tib_tokushima/

以上(2025年10月作成)

画像:TIB