【ポイント】

  • 川端康成氏の「雪国」は、出来事や登場人物の心情をぼかして書いている
  • 代わりに、情景や人物の所作の描写がとても丁寧で、“温度”が感じられる
  • 小さな兆しを“観る”ことのできる人は、事故やクレームを未然に防ぐことができる

皆さん、おはようございます。11月に入り、冬の兆しが見えてきましたね。今日は、川端康成氏の小説「雪国」をテーマに話をします。雪に閉ざされた温泉町を舞台に、都会から来た男性・島村と、雪国の芸者・駒子の関わりを、澄んだ空気と静けさの中に描いた物語です。

島村は冬の温泉町で駒子と出会い、季節をまたいで通いながら、互いに近づいたり離れたりを繰り返します。町にはもう1人、葉子という女性もいて、それぞれの思いが交錯する中、最後は冬の闇を裂くような火事の場面へ。雪の白さ、夜の暗さ、炎の赤さが対照的に描かれ、島村はただ見上げることしかできない。結末の多くは語りませんが、ざっくりお伝えするとこんなストーリーです。

「雪国」は、例えば「2人はこうなった」「こう思っていた」など、出来事や登場人物の心情をあまり直接的に書きません。その代わり、何が起きたのかを読者に想像させる仕掛けが至る所にちりばめられています。例えば、「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」で有名な冒頭のシーン。列車の窓の反射、雪明かり、ガラス越しの視線など、情景の描写がとても丁寧です。登場人物の所作も、衣(きぬ)擦れの音、楽器の稽古、身の回りの整え方に至るまで、細かく描写されています。

出来事や登場人物の心情をぼかした文章は、人によっては「分かりにくい」と敬遠したくなるかもしれませんが、そう思う人こそ、ぜひ一度、「雪国」を読んでみてください。内容は決して派手ではありませんが、雪の光、息づかい、指先の所作までを丁寧に“観(み)る”ことで、人の心の揺れや距離が浮かび上がってきます。月並みな言い方ですが、“温度”が感じられるのです。

ビジネスでは「分かりやすく」「簡潔に」という点ばかりが重視されがちですが、「分かりにくい」ものに目を向けることもとても大切です。例えば、お客さまの表情、同僚の疲れのサイン、機械のかすかな違和感――小さな兆しを“観る”ことのできる人は、事故やクレームを未然に防ぐことができます。

冬は雑音が少ないぶん、本質がよく見える季節です。「雪国」に学び、私たちも観る力と丁寧さで、年末の仕事の質を一段上げていきましょう。

以上(2025年11月作成)

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画像:Mariko Mitsuda