目次
1 現状の課題
近年、女性の労働力人口は増加傾向にあり、企業にとって女性の活躍はますます重要になっています。しかし、多くの企業では、優秀な女性が結婚、妊娠、出産、育児、そして家族の介護といったライフイベントを機に、キャリアを諦め、離職してしまうという現実に直面しています。これは企業にとって大きな損失であり、労務管理上の重要な課題です。
2 制度はあるのに、なぜ利用されないのか?
「育児・介護休業規程はちゃんと整備しているのに、取得しないまま辞めていく」。多くの中小企業の経営者から、このような声が聞かれます。制度が形骸化してしまう背景には、いくつかの運用上の問題点があります。
1)周知不足と諦め
企業の実態調査やアンケートを取ると、社員が社内の両立支援制度を知らないと回答する割合も多いようです。そもそも制度が知られていなければ、利用にはつながりません。また、当初から企業に支援を期待しておらず、昇進などへの不安から、介護に直面していることなどを申告しないケースもあります。
2)「育児」と「介護」の特性の違い
育児は妊娠から出産、休業まである程度計画的に準備できますが、介護は「ある日突然」始まることも多く、終わりが見えにくいという特性があります。特に介護は、職場の基幹人材である40代以上の社員が直面するケースが多く、代替要員の確保が難しいという問題も深刻です。
3)利用しづらい職場の雰囲気
男性が育児休業を取得しない理由として、「職場が育休を取りづらい雰囲気であること」や「業務の都合」が多く挙げられています。これは女性にも当てはまる問題であり、制度の利用を阻む大きな壁となっています。
3 就活生の意識の変化
他方で、マイナビ「2026年卒 大学生のライフスタイル調査」によると、2026年卒の大学生の「育児休業を取って子育てしたい」割合は男子56.3%、女子58.2%となっており、男子学生の共働きや育児休業取得への希望が一定数あることが分かります。「男性育休は当たり前」の社会がすぐそこまで来ています。男性が家庭生活に参画することは、女性のキャリア継続を支える上でも不可欠です。
長時間労働を前提としない業務体制の構築や、テレワーク・フレックスタイム制といった柔軟な働き方の導入は、男女を問わず、全社員のワーク・ライフ・バランスを実現するために重要であり、「就職したい!」と思ってもらえる企業になるための大切な要素であることが分かります。
4 法令遵守と攻めの人事戦略としての両立支援
こうした課題に対し、国も法改正を進めています。改正育児・介護休業法が2025年4月と10月に施行され、次の取り組みなどが義務付けられました。法令を遵守することはもちろん、「攻めの人事戦略」として両立支援を強化することが、企業の持続的成長につながります。
- 男性育休の取得促進:育休取得率の公表義務が社員1000人から300人超の企業に拡大
- 柔軟な働き方の促進:子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充
- 介護離職の防止:介護に直面した社員への個別周知・意向確認や、雇用環境の整備の義務付け
5 中小企業でもできる!実用的な取り組み
では、両立支援に向けて、実用的な取組みにはどのようなものが考えられるでしょうか。ご参考にいくつか例を紹介します。
1.両立支援ハンドブックの作成
自社の制度や相談窓口、公的支援などをまとめたハンドブックを作成・周知しましょう。厚生労働省のガイドラインも活用できます。
■厚生労働省「仕事と育児/仕事と介護の両立支援ガイド(企業向け)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/model.html
2.「育休復帰支援プラン」の策定
厚生労働省が提供するマニュアルを活用し、社員の円滑な育休取得と職場復帰をサポートするプランを策定します。代替要員の確保や、法定を上回る子の看護休暇制度なども有効です。
3.ジョブ・リターン制度の導入
ライフイベントで一度離職した社員が、再び活躍できる道を開く制度の構築も有用です。
4.外部支援の活用
中小企業は、社会保険労務士などの専門家から無料のアドバイスを受けられる事業や、ハローワークによる代替要員確保の支援などを活用できます。近年は、両立支援に取り組む事業主向けの助成金も拡充されているので、ぜひ利用を検討してみてください。
■厚生労働省「両立支援等助成金のご案内」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/ryouritsu01/index.html
6 まとめ―両立支援は「コスト」ではなく「未来への投資」―
仕事と家庭の両立支援は、「コスト」ではありません。企業のイメージアップ、社員のモチベーション向上、生産性の向上、そして何より優秀な人材の確保と定着につながる「未来への投資」です。実際に、女性管理職比率の高い企業が株式市場で高いリターンを生み出すという分析もあり、投資家も企業の女性活躍への取り組みに注目しています。
「くるみん認定」や「えるぼし認定」といった国の認定制度は、企業のイメージ向上や優秀な人材確保に直結し、公共調達で有利になることもあるなどのメリットもあります。学生もこうした情報を企業選びに活用しており、他社との大きな差別化につながります。
男女を問わず、すべての社員がライフステージの変化に対応しながら、安心して能力を発揮できる。そんな「就職したくなる企業・辞めたくない企業」をつくることこそが、これからの時代で発展し続けるための、経営戦略といえるでしょう。
以上(2025年12月作成)
(執筆 法律事務所UNSEEN 弁護士 大門あゆみ)
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画像:法律事務所UNSEEN 弁護士 大門あゆみ