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2026年も、多くの分野で新たな制度や規制の改正が予定されています。経営者にとって、法改正や制度変更は日々のビジネスに直結する重要な情報です。

この記事で、2026年に施行される主な制度改正を15項目取り上げ、それぞれの概要と中小企業に関連する要点を施行日順に紹介します。

1 下請法が改正され「取適法」に名称変更、禁止行為なども追加(2026年1月1日から)

下請代金支払遅延等防止法(下請法)が改正され、法律名が「中小受託取引適正化法(取適法)」に変更されます。大きな改正点は

  • 発注者がやってはいけない新たな「禁止行為」が追加される(「協議に応じない一方的な代金決定」「手形による代金支払い」が新たに禁止に)
  • 適用対象となる「取引の範囲」が拡大される(「特定運送委託」が追加。さらに、資本金が少ない会社でも「従業員数」に応じて取適法の適用を受けるようになる)

です。

「手形による取引を頻繁に行っている会社」などはいち早く決済手段を見直す必要がありますし、「新たに取適法の適用を受けるようになる会社」も、禁止行為などを改めて押さえておく必要があります。

公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)関係」
https://www.jftc.go.jp/partnership_package/toritekihou.html

取適法については、こちらのコンテンツもご確認ください。

2 新たな源泉徴収税額表が適用開始、給与計算に注意(2026年1月1日以後支払い分から)

2026年1月1日以後支払い分の給与から、新たな源泉徴収税額表が適用されます。令和7年度税制改正に伴い、社員の所得税に関して

  • 基礎控除額の引き上げ(一律48万円→合計所得金額に応じ58万~95万円)
  • 給与所得控除の最低保障額の引き上げ(55万円→65万円)
  • 特定親族特別控除の創設(特定親族の合計所得金額に応じ最大63万円を控除)

などが行われています(これらの改正については、2025年12月に行われた年末調整から適用)。

給与計算については新たな源泉徴収税額表に基づき源泉徴収が行われているか(給与計算ソフトなどがアップデートされているか)を確認する必要があります。また、社員から提出を受ける扶養控除等申告書については、源泉控除対象親族の記載が正しく行われているかを確認する必要があります。

国税庁「令和8年分 源泉徴収税額表」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2026/01.htm

3 職場の安全衛生対策が強化、ストレスチェックの対象も拡大(2026年1月1日から順次)

2026年1月1日から、労働安全衛生法等が段階的に施行されます。多様な人材が、安全に、安心して働き続けられるよう職場環境を整えるための改正です。内容は多岐にわたりますが、例えば次のような項目があります(カッコ内は施行日)。

  • フォークリフト等の特定自主検査・技能講習の不正防止対策の強化(2026年1月1日)
  • 混在作業場所において、個人事業者等(一人親方・フリーランス等)に対しても事故防止のために必要な指導や連絡調整等を行うことが義務化(2026年4月1日)
  • SDS(安全データシートの交付)について、化学物質の成分に営業秘密情報が含まれる場合、条件付きで代替化学名等の通知が可能に(2026年4月1日)
  • 高年齢労働者の労災防止を図るための措置が努力義務化(2026年4月1日)
  • 治療と仕事の両立支援に関する措置が努力義務化(2026年4月1日)
  • 常時50人未満の事業場でもストレスチェックが義務化(2025年5月14日から3年以内に政令で定める日から)

建設業や製造業では、適切な検査体制の整備や、外部講習機関の信頼性確保など、安全管理に関する社内チェックを一段と徹底する必要があるでしょう。ホワイトカラーの会社も(社員数50人未満の場合は)ストレスチェックの実務などを事前に確認しておきましょう。

厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/an-eihou/index_00001.html

4 自転車の交通違反にも「青切符」が適用(2026年4月1日から)

2026年4月1日から、自転車の交通違反についても、自動車の場合と同じく「青切符(交通反則通告制度)」が適用されるようになります。

青切符は、比較的軽微な交通違反の場合に交付されるもので、違反行為に応じた反則金を納付した場合、刑事罰が免除されるという制度

です。4月1日以降、「反則行為」という軽微な違反行為については、青切符での対応になります。一方、「非反則行為」という重大な違反行為(酒酔い運転など)については、これまで通り「赤切符(交通切符、刑事罰の対象)」での対応になります。

青切符の対象となる反則行為は

  • 信号無視(反則金:6000円、点滅信号を無視した場合は5000円)
  • 一時不停止(反則金:5000円)
  • 右側通行(反則金:6000円)
  • 携帯電話使用等(保持)(反則金:1万2000円)
  • 遮断踏切立入り(反則金:7000円)
  • 制動装置(ブレーキ)不良(反則金:5000円)

など113種類に及ぶため、特に社員が業務や通勤で自転車を使用する会社は、新制度に基づく交通ルールの徹底指導が必要です。

警察庁「自転車は車のなかま~自転車はルールを守って安全運転~」
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/bicycle/info.html

自転車の交通ルールについては、こちらのコンテンツもご確認ください。

5 物流業界にメス、「白トラ」規制の強化(2026年4月1日から)

2026年4月1日から、物流業界で問題となっていた違法な「白トラ(白ナンバーのトラックでの有償運送)」の規制が大幅に強化されます。具体的には、次のような改正が行われます。

  • 荷主が無許可の白トラ業者に運送を依頼した場合、処罰の対象に(100万円以下の罰金)
  • 貨物自動車運送事業者・貨物利用運送事業者に対して、再委託回数を原則2回(2次下請け)までとすることが努力義務化
  • 貨物自動車運送事業者だけでなく、貨物利用運送事業者についても運送契約締結時の書面交付等が義務化

荷主となる会社は、自社の貨物輸送について、違法業者に運送を依頼していないか十分注意する必要があります。物流コスト優先で無許可業者に頼ることがないよう、調達先の見直しや契約管理の強化が求められます。

国土交通省「違法な『白トラ』への規制が令和8年4月1日から強化されます」
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha04_hh_000346.html

6 民法改正、離婚後の「共同親権」導入(2026年4月1日から)

2026年4月1日から、民法改正により、離婚後の子の養育に関する制度が大幅に見直されます。最大の変更点は、離婚後の親権について「共同親権」の選択肢が導入されることです。

従来は父母のどちらか一方が親権者となる単独親権のみでしたが、改正後は父母の話し合いによって共同親権とすることも可能

になります(ただし、DVや虐待の恐れなど、子の利益を害すると家庭裁判所が判断した場合は単独親権が選択されます)。また、経済面では

「法定養育費制度」が導入され、離婚時に養育費の取り決めがなくても、離婚後に子を扶養しない親に対し、暫定的に子一人につき月額2万円の養育費支払い義務が発生する

ようになる見通しです。

会社としても、社員が離婚したり、ひとり親になったりした際の社内制度(休業や扶養手当等)の見直しなどが必要になるかもしれません。

法務省「民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について〔令和8年4月1日施行〕」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00357.html

7 子ども・子育て支援金制度がスタート、社会保険料と併せて給与天引きを(2026年4月1日施行)

2026年4月1日から、「子ども・子育て支援金制度」がスタートします。この制度は

社会全体で子どもと子育て世帯を支えるため、全ての医療保険加入者(企業の従業員等)と会社が毎月一定額の拠出を行い、その財源を子育て支援施策に充てる

というものです。会社が全額負担する「子ども・子育て拠出金」とはまた別の制度で、子ども・子育て支援金の場合、会社と社員(健康保険の被保険者)が折半で負担することになります。こども家庭庁の試算によると、保険者が協会けんぽの場合、被保険者1人当たり支援金額は、

  • 2026年度見込み額:月額450円
  • 2027年度見込み額:月額550円
  • 2028年度見込み額:月額700円

と段階的に引き上げられる予定です(会社も同額を拠出)。

会社としては、社会保険料と併せて支援金の徴収が始まるため、給与計算システムの対応や、社員への説明(給与明細への項目追加など)が必要になるでしょう。

こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度について」
https://www.cfa.go.jp/policies/kodomokosodateshienkinseido

8 在職老齢年金の見直し、60歳以上の働き方に影響(2026年4月1日から)

2026年4月1日から、在職老齢年金の支給停止調整額が「51万円→62万円」に引き上げられる見通しです。在職老齢年金とは、

働きながら老齢年金をもらうと、年金額がカットされることがあるという制度

です。厚生年金保険に加入しながら老齢年金をもらう60歳以上の社員が対象で、賃金と年金の合計額が支給停止調整額を超えると、老齢年金の一部または全額が支給停止となります。

支給停止調整額が引き上げられると、高齢社員は年金額を減らされにくくなり、より多く働けるようになります。ただ、60歳以降も働く社員が増えることによる人件費の上昇なども想定されるので、会社への影響は事前に検討しておく必要があります。

なお、在職老齢年金の見直しは「年金制度改正法」の改正項目の1つで、この他にも

  • 私的年金の見直し(2026年12月1日から)
  • 標準報酬月額の上限引き上げ(2027年9月1日から段階的に)
  • 社会保険の適用拡大(2027年10月1日から段階的に)
  • 遺族年金制度の見直し(2028年4月1日から)

などの予定が控えています。

厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00017.html

年金制度改正法については、こちらのコンテンツもご確認ください。

9 防衛特別法人税がスタート、法人税の申告時に注意(2026年4月1日以後開始の事業年度から)

2026年4月1日以後開始の事業年度から、防衛特別法人税の課税が始まります。防衛特別法人税とは、

文字通り「日本の防衛力強化等のために必要な財源を確保するための税金」で、基準法人税額から500万円を差し引いた金額に対し、4%の税率で課税

されます。

基礎控除として常に年500万円が控除されるため、所得金額が約2400万円以下であれば防衛特別法人税は発生しませんが、税額が0円であっても申告は必要です。

国税庁「防衛特別法人税が創設されました」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0025004-109_1.pdf

10 民事裁判手続がデジタル化、訴状提出も裁判記録の閲覧もオンラインで可能に(2026年5月21日から)

2026年5月21日から、日本の民事裁判が本格的なIT化(デジタル化)を迎えます。これまでの民事裁判は、紙の書類を裁判所に持参(または郵送)したり、訴訟記録を閲覧するために裁判所に出向いたりする必要がありましたが、

  • 訴状、準備書面、証拠等をオンラインで提出する
  • 判決書等を裁判所からオンラインで受け取る
  • 裁判記録をオンラインで閲覧する(当事者の場合)

といったことができるようになります。

この改正により、仮に会社が民事裁判の当事者になった場合、手続きの負担が大幅に軽減されることになります。一方、デジタル化に対応するために、システムへの事前登録や電子ファイル形式での文書管理などの準備、社内の情報システム部門との連携(機密文書の電子提出時のセキュリティ確保など)、顧問弁護士との手続のすり合わせなどが必要になってくるでしょう。

最高裁判所「民事裁判手続のデジタル化」
https://www.courts.go.jp/saiban/minjidejitaruka/index.html

11 事業全体が担保に? 企業価値担保権が創設(2026年5月25日から)

2026年5月25日に「事業性融資の推進等に関する法律」(事業性融資推進法)が施行され、「企業価値担保権」が創設されます。企業価値担保権とは、

会社が金融機関から融資を受けるに当たって、有形資産(土地・工場等)だけでなく、ノウハウや顧客基盤等の無形資産を含む「事業全体」を担保にできる制度

です。会社は「借り手」として自社の総資産を担保目的財産とし、新設される「企業価値担保権信託会社」が「担保権者」となり、債務の弁済が滞った際は、裁判所への申立てにより、担保権の実行手続を開始します(事業は解体せず、事業譲渡などで対応)。金融機関は「貸し手」となり、債務が弁済されない場合、事業譲渡の対価から融資を回収します(金融機関が「担保権者兼貸し手」になることもある)。

この制度が創設されることで、有形資産に乏しい中小企業やスタートアップも、事業実態や将来性に着目した融資が受けやすくなります。一方、制度を利用するに当たっては、経営者が金融機関に対し、自社のビジネスの継続性や収益性、事業計画などをこれまで以上に丁寧に説明できるようになる必要があります(事業性評価への対応)。

金融庁「企業価値担保権(旧:事業成長担保権)について」
https://www.fsa.go.jp/policy/kigyoukachi-tanpo/index.html

12 防災気象情報のルールが改善、BCPなどの見直しを忘れずに(2026年5月下旬から(予定))

2026年5月下旬(予定)より、河川氾濫・大雨・土砂災害・高潮の防災気象情報について、

  • 警報・注意報の情報名に「レベル」(1~5の5段階。「5」が最も警戒レベルが高い)が追加される(例:レベル3大雨警報、レベル2高潮注意報など)
  • 河川の氾濫の危険度の伝え方が変わる(特別警報の新設など)
  • 「警戒レベル4相当」の情報は「危険情報」として発表される

ようになります。これにより、自治体が発令する避難指示等(警戒レベル4相当)や住民がとるべき行動(レベル5は既に災害発生)と、気象庁の出す警報・注意報が対応づけられ、非常に分かりやすくなります。

防災気象情報の名称・レベルが変わるため、BCP(事業継続計画)や社員向けの防災マニュアルの見直しが必要です。例えば、「警戒レベル4危険警報発表で在宅勤務推奨」など、新しい名称に合わせて社内ルールを更新しましょう。防災訓練などでも新情報を盛り込み、周知を図ることが望まれます。

気象庁「新たな防災気象情報について(令和8年~)」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/keiho-update2026/

13 カスハラ・就活セクハラの防止措置が義務化(2026年10月1日から)

2026年10月1日から、カスハラ(カスタマーハラスメント)と就活セクハラについて、防止措置を講じることが義務付けられるようになります。

  • カスハラ:顧客等(顧客や取引先、見込み客なども含む)が社員に対し、悪質な嫌がらせ(暴行やひどい暴言、不当な要求など)をすること
  • 就活セクハラ:採用面接やインターンシップで、役員や社員が就活生に対し、性的な嫌がらせ(食事やデートへの執拗な誘い、不必要な身体への接触など)をすること

防止措置の詳細は今後厚生労働省の指針で定められる予定ですが、社内のハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラなど)を防止するのと同じように

  • ハラスメントに対する会社の方針の明確化、周知・啓発
  • ハラスメントに関する相談体制の整備・周知
  • ハラスメント事案が発生した場合の迅速・適切な対応

などが求められます。また、カスハラについては、顧客等からクレームがあった場合の対応フローなどを確認しておくこと、就活セクハラについては、社内規程に「社外の人間に対するハラスメントは許されない」旨を明記して社員に徹底させることなどが大切です。

厚生労働省「令和7年の労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)等の一部改正について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00003.html

カスハラや就活セクハラへの対応については、こちらのコンテンツもご確認ください。

14 酒税改正でビール業界の市場構造が変わる?(2026年10月1日から)

2026年10月1日、段階的に行われてきた酒税の見直しが、ついに最終段階を迎えます。今回の改正では、

ビール系飲料の税率が、1キロリットル当たり「15万5000円」(350ミリリットル換算で「54.25円」)に一本化

されます。現在、ビールの税率は350ミリリットル換算で63.35円、発泡酒や「第3のビール」(新ジャンル)はそれより低税率ですが、種類による税額格差が解消される形になります。また、

その他の発泡性酒類(チューハイ等)、低アルコール分の蒸留酒類及びリキュールに係る特例税率の税率も、1キロリットル当たり「10万円」(350ミリリットル換算で「35円」)に引き上げ

られます。現在の税率は、350ミリリットル換算で28円です。

飲食業や酒販業では、ビール系飲料については、発泡酒や第3のビールが相対的に値上がりし、低価格帯の優位性が消えるため、クラフトビールや地域発ブランドが再注目される可能性があります。チューハイ等については、税率引き上げによって「安く・気軽に」楽しめたカテゴリーの在り方が変わり、“客から選ばれる理由”を改めて模索する必要が出てくると考えられます。

財務省「酒税に関する資料」
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/d08.htm

15 インバウンド向け、免税店での販売はリファンド方式に変更(2026年11月1日から)

2026年11月1日から、訪日外国人(インバウンド)向けの消費税免税販売制度が「リファンド方式」へと変更されます。現行の制度では、免税店で商品を購入する際にパスポートを提示すればその場で消費税が免除(不課税販売)されますが、リファンド方式の場合、

インバウンドは購入時にいったん消費税を支払い、出国時(購入日から90日以内)に税関で確認を受けることで、税額分が出国後に返金される

ようになります。

基本的に国内販売と同様に税込価格で販売できるようになるので、販売時の手続きは簡素化されますが、一方、

出国したインバウンドへの返金は、免税店を経営する事業者が自ら行うか、承認送受信事業者などに委託するかのいずれかが必要になる

などの実務が別途発生します。そのため、新制度での手続きを事前に確認・対応しておく必要があります。

国税庁「輸出物品販売場制度のリファンド方式への見直し」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/menzei/201805/format/002.htm

以上(2025年12月作成)

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画像:Mariko Mitsuda