1 今こそ観光DXに踏み出すとき
コロナ禍で停滞していた観光関連の需要は、数年間で急速に回復しています。街を歩いていて、「コロナ前よりも観光客が多いのでは・・・・・・?」と感じている人も多いはずです。実際、
2025年の年間訪日外国人旅行者数は、史上初の4000万人を突破し、過去最多の4270万人を記録しました。
しかし、観光庁「観光立国推進基本計画」では、2030年までに、
- 訪日外国人旅行者数 6000万人
- 訪日外国人旅行消費額 15兆円
という目標が掲げられています。いずれ、観光業を含む分野の企業には、この目標に合わせた対応が求められることも考えられます。
ただ、多くの中小観光事業者にとっては、大きな課題が残っています。それは、
DX(デジタルトランスフォーメーション)の遅れ
です。

観光業を含む分野(宿泊・飲食業)で、DXに既に取り組んでいる企業の割合は、
2024年でも14.0%にとどまっており、他業界と比べても低い水準
です。「取り組みを検討している」「必要だと思うが取り組めていない」の合計が、2023年(48.0%)から2024年(54.0%)にかけて6ポイント増加していることから、
DXの必要性を理解していながらも、踏み切れない状況にある
ことがうかがえます。ちなみに、業種全体で見た場合、「取り組みを検討している」「必要だと思うが取り組めていない」のどちらの企業においても、次のことが大きな課題になっているようです。
- DX推進に関わる人材が足りない
- ITに関わる人材が足りない
- 予算の確保が難しい
- 具体的な効果や成果が見えない
観光業に関わる企業は、予約管理や接客などの分野で、いまだにアナログ対応に頼っているケースも少なくありません。結果として、現場の負担が増え、人手不足がより深刻化するという悪循環に陥りがち。とはいえ、人手不足や規制の煩雑さなど、自分たちだけでは解決しようがない問題があるのも現状です。
こうした状況を踏まえ、国土交通省観光庁は2022年から、
「観光DX推進事業」(正式名称は「観光振興事業費補助金」)を実施し、観光地や観光産業におけるデジタルツール導入などを支援
しています。予約・決済システム、顧客管理、データ活用など、現場の課題に直結する取り組みが対象となる点が特徴です。
2026年度分の詳細情報はまだ公表されていませんが、例年の流れを踏まえると、4月ごろに公募が始まる可能性が高いと考えられます。
まずは「初めの一歩」として、補助金制度を利用してみるのも一手です。次章で制度の概要を紹介しますので、業務の見直しやデジタル化に取り組む際に活用をご検討ください。
2 2025年度の観光DX推進事業の概要
観光DX推進事業の公募内容は年度ごとに異なるため、次回の公募が同様の内容であるとは限リませんが、ここでは検討の参考として、2025年度の概要をご紹介します。
1)観光DX推進事業の概要
観光DX推進事業は、例年4月中旬に募集開始、6月初旬に公募を締め切っています。前回(2025年度)は申し込みの時期によって申請方法が異なっていたので、公募に興味がある場合は、小まめに公式サイトを確認するのがいいでしょう。
■観光DX推進事業 公式ウェブサイト■
https://kanko-dx-hojo.go.jp/
また、補助金を利用する用途によって、
- 観光地の販路拡大・マーケティング強化
- 観光産業の収益・生産性向上
- 専門人材による伴走支援
の、3つの事業区分が設けられています。事業区分ごとの概要(対象、内容、補助率・補助上限額、要件)は次の通りです。



(1)観光地の販路拡大・マーケティング強化、(2) 観光産業の収益・生産性向上■
https://kanko-dx-hojo.go.jp/wp-content/uploads/2025/05/20250515_koboyoryo_1-2.pdf
(3)専門人材による伴走支援■
https://kanko-dx-hojo.go.jp/wp-content/uploads/2025/05/20250515_koboyoryo_3.pdf
2)申請の流れ
観光DX推進事業の、申請から精算までの流れは次の通りです。
1.計画申請(事業内容の提出)
公募要領で申請の手順や補助対象となる条件などを確認し、電子申請システムから計画申請(事業計画の提出)をします。申請後に観光庁及び事務局の審査が行われます。
2.交付申請の手続き
計画が採択された後、交付申請の手続きをします。申請後に事務局の審査が行われます。(交付決定後、事業開始が可能になります)
3.交付決定後に実施
交付決定された事業者には、事務局から正式に交付決定通知が送られます。申請した計画に沿って事業を実施し、事業完了の手続きを行います。
4.精算
完了実績報告を事務局で審査した後に送られてくる「額の確定通知」を基に、精算の手続きを行います。補助金請求書に基づき、事務局から銀行振込にて補助金が交付されます。
3)審査項目
審査項目は、事業区分によって違います。また、公募内容は年度ごとに異なるため、次回に同様の事業区分が公募されるとは限りませんが、ここでは検討の参考として、令和7年度の公募要領における審査項目をご紹介します。
1.観光地の販路拡大・マーケティング強化
- 公募要領の事業目的・内容に沿ったデジタルツールの導入であること。それが地域一体での取組であること
- 資金調達の見込みが立っていること。事業期間内に完了することが確実であること
- 導入したデジタルツールを通じた、データ活用に向けた具体的な計画・将来ビジョンが検討されていること。それが地域一体での計画・将来ビジョンであること
- 取組内容に応じた経費が見積書に適切に計上されていること
2.観光産業の収益・生産性向上
- 公募要領の事業目的・内容に沿ったデジタルツールの導入であること
- 資金調達の見込みが立っていること。事業期間内に完了することが確実であること
- 導入したデジタルツールを通じた、データ活用に向けた具体的な計画・将来ビジョンが検討されていること
- 取組内容に応じた経費が見積書に適切に計上されていること
3.専門人材による伴走支援
- 公募要領の事業目的・内容に沿った申請内容であること。また、組織の課題解決に向けて、適切なノウハウやスキルを有する人材が派遣されること
- 事業実施期間が十分に確保されていること。また、申請主体以外の支援先がある場合に、円滑な事業実施が可能な支援実施体制が検討されていること
- 取組の効果が成果指標を通じて測定できること。また、補助対象事業者や申請主体以外の支援先が、補助事業を通じてノウハウやスキルを習得し、事業終了後に自ら観光DXに取り組む内容となっていること
- 取組内容に応じた経費が算定根拠資料に適切に計上されていること
3 観光DX推進の事例
最後に参考情報として、各自治体で過去に実施された観光DX推進の事例をご紹介します。
1)長野県山ノ内町 (志賀高原)
長野県山ノ内町(志賀高原)は、地域全体の持続的な収益確保を目指して、
旅行者がオンライン上で情報収集や予約等をシームレスに実施できる「観光プラットフォーム(地域サイト)」を構築
しました。かつて旅行代理店に依存していた予約窓口を地域自前のプラットフォームに移行させ、会員向けの柔軟なクーポン発行機能などを実装しました。これにより、
観光プラットフォームへの誘引、さらに宿泊予約へとつなげることができるようになり、売上向上などの成果が出た
そうです。また、公式SNSのフォロワー数が増加し、個々の顧客に合わせた最適なプランを提案できる、精度の高いマーケティングが可能になりました。
2)兵庫県豊岡市(城崎温泉)
兵庫県豊岡市(城崎温泉)は、「まち全体が一つの温泉旅館」というコンセプトの下、
町内の宿泊施設間で宿泊管理システム(PMS)を連携・一元化
し、宿泊客の周遊データや消費行動を地域全体で可視化することに成功しました。これにより、
データが可視化されて滞在価値を高める施策(外湯巡りの利便性向上など)を打てるようになり、宿泊客単価が2万3580円から3万2438円へと大幅に上昇
しました。さらに、リピーター率も目標を超える41.4%に達するなどの成果を上げました。
3)神奈川県足柄下郡箱根町
神奈川県足柄下郡箱根町では、車で箱根を訪れる旅行者のオーバーツーリズム対策のため、
「箱根観光デジタルマップ」を構築し、リアルタイムの渋滞予測や駐車場・店舗の混雑状況を可視化
しました。これにより、箱根を訪れる旅行者の間で、マップ情報を参考に目的地や訪問時間を変更する行動変容が起こり、月1万回以上の閲覧を記録。デジタルマップの構築により、人流の分散化に成功しました。なお、このプロジェクトは今後、箱根特有の課題である火山災害の防止などにも役立てられる予定です。
以上(2026年1月作成)
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画像:日本情報マート