書いてあること

  • 主な読者:社員のモチベーションを高めたい経営者
  • 課題:打っても“響かない”感じで、コミュニケーションの取り方に迷っている
  • 解決策:組織全体のモチベーションの総和を意識して、個人にとらわれすぎない

1 モチベーションの正体

1)モチベーションは組織の総和で考える

社員のモチベーションを高めることは大切ですが、全社員のモチベーションが同時に上がることはほぼありません。社員にはさまざまな考えがあり、自分の意見が通ればモチベーションはアップし、そうでなければダウンします。社員のモチベーションの状況を「見える化」したイメージは次の通りです。

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図表の左右を比較すると、社員Aのようにモチベーションが下がっている者がいるものの、総和は右側のほうが大きくなっています。組織全体のモチベーションの総和がアップしていれば、経営者はひとまずその状態を維持するのが基本です。ただし、大きな影響力を持っている管理職のモチベーションが下がると、釣られて周囲の社員のモチベーションも下がりがちなのでフォローが必要なケースもあります。

2)ネガティブな要素でもモチベーションになる

一般的に、社員のモチベーションはより良い労働条件や良好な人間関係などでアップすると考えられていますが、実際はそればかりではありません。ネガティブな要素もモチベーションになり得ます。ある求人広告の例を参考に紹介します。

【伝説の求人広告】

求む男子。至難の旅。僅かな報酬。極寒。暗黒の長い日々。絶えざる危険。

生還の保証なし。

成功の暁には、名誉と称賛。

(出所:「史上最強のリーダー シャクルトン」(マーゴ・モレル、ステファニー・キャパレル(著)、高遠裕子(訳)、PHP研究所、2001年8月))

この求人広告は、アーネスト・シャクルトン(冒険家)が、南極探検隊の隊員を募集するために、1900年ごろに出したといわれます。生還の保証すらない過酷な条件であるにもかかわらず、5000人もの応募があったそうです。

どこにそれほどの魅力があったのでしょうか?

心の琴線に触れるものは人それぞれです。応募者は逆境へのチャレンジや名誉と称賛がモチベーションとなって、生還の保証のない過酷な冒険への参加を決心したのではないでしょうか。モチベーションが上がる要素は多様です。ネガティブな要素でも、それを乗り切る「チャレンジ精神」がモチベーションにつながります。厳しくすると社員のモチベーションが下がると考えられがちですが、必ずしもそうとは限りません。

3)仕事に振り向けるエネルギーは変わらない

私たちは、仕事以外にも趣味や家族などプライベートな活動にエネルギーを注いでいます。各分野に注いでいるエネルギーの割合を「見える化」できると仮定して、仕事に対する経営者のやる気が80%、同じく社員Aのやる気が20%だとします。経営者は、社員Aのモチベーションが上がれば、自分と同じように仕事に対するやる気も80%になると考えがちです。しかし、仕事に対する社員Aのやる気は最大20%で、これを継続的に超えることはほぼありません。

また、社員Aが常に仕事に対して20%のやる気を維持しているわけではなく、仕事の成功・失敗などの影響を受けて0~20%で変動しています。社員のモチベーションを上げるというのは、やる気を最大に近いレベル(社員Aは20%)に高めることなのです。まれに社員Aの仕事に対するやる気の最大値が20%から50%に上がることがありますが、これは生活環境の変化などにより、社員が内発的に動機付けられたときです。

2 基本的なモチベーション

社員のやる気の度合いを高めるには、各社員のモチベーションが上がる要素を理解して刺激することです。しかし、私生活に密接に関連する問題もあるため、経営者が働き掛けられる範囲は限られます。それに、ある社員固有のモチベーションを刺激しても、組織全体への波及効果は期待できません。

そこで、経営者が社員のモチベーションアップを図る際は、まず、多くの社員に当てはまる基本的なモチベーションを押さえましょう。基本的なモチベーションと具体例は次の通りです。

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3 社員のタイプ別の接し方

1)支配的なタイプ

自ら先頭に立って場を仕切ろうとするタイプです。野心があり、周囲への影響力の強さを誇りとする傾向があります。物事の成功・達成に喜びを感じますが、自己中心的に行動してトラブルを招くこともあります。

支配的なタイプの場合、「業務遂行のために必要な権限の委譲」「チーム内の地位と役割に対する満足と安心」が強いモチベーションになります。そのため次のように接するとよいでしょう。

「このプロジェクトには弱腰な関係者を力強く導いていく存在が不可欠で、仕切り役としてはパワフルで頼りがいのある君が最適だ。プロジェクトに必要な権限は十二分に与えているし、これをうまく活用して成功すれば、君のキャリアアップにつながるだろう。期待しているよ」

2)論理的なタイプ

ある意味で計算高く、成功のための根拠を求めるタイプです。物事の真偽に関心があり、特定の分野を究めることを誇りとする傾向があります。知識の向上に喜びを感じるあまり自分の世界に入り込みがちで、他人を寄せ付けない面を持っています。

論理的なタイプの場合、「経営者の成長戦略に対する納得と理解」「自分のやりたいことと現実のギャップの解消」が強いモチベーションになります。そのため次のように接するとよいでしょう。

「このプロジェクトには調査能力に優れた存在が不可欠で、仕切り役としては物事を冷静に分析できる君が最適だ。必要と思われる権限は与えている。この他に、君のほうで必要なものがあれば相談してくれ。知識が豊富な君なら無事にプロジェクトを終了できると信じている。期待しているよ」

3)協調的なタイプ

争いを好まず、他人を立てるタイプです。調和に関心があり、周囲に配慮する姿勢を誇りとする傾向があります。他人からの称賛や感謝に喜びを感じますが、周囲の視線に過敏な面があり、単なる噂を気にしてモチベーションがダウンすることもあります。

協調的なタイプの場合、「なじみやすい企業風土とチームの雰囲気」「経営者や他の社員からの称賛、感謝」が強いモチベーションになります。そのため次のように接するとよいでしょう。

「このプロジェクトには関係者間の協力体制を構築できる存在が不可欠で、仕切り役としては気配りのできる君が最適だ。周囲への根回しは終わっているし、私もサポートを惜しまないので、集中してやってもらっていい。君なら笑顔でプロジェクトを終えられるだろう。期待しているよ」

4 経営者の行動の3原則

社員のモチベーションは、経営者とのコミュニケーションによって刺激されます。経営者は社員への心配りを忘れずに接することが重要で、そのために心掛けるとよいのが次の3原則です。

1)成長戦略の立案

経営者は、常に組織の成長戦略を描き、それを唱え続けましょう。組織の存在意義が固まっていきます。

2)力強い活動

経営者は、力強くエネルギッシュに活動しましょう。組織全体に活気と笑顔が宿ります。

3)日ごろの気配り

経営者は、誰よりも謙虚な姿勢で社員に気配りをしましょう。組織全体に相手を思いやる雰囲気が生まれます。

企業経営において社員のモチベーションは無視できません。経営者は社員に対し、組織に所属することの喜びを伝えましょう。社員が組織の一員としての自覚を持ち、そこで自己実現ができると感じたとき、モチベーションは上がるでしょう。

以上(2024年7月更新)

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画像:pixabay

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