書いてあること

  • 主な読者:新規出店を検討する小売業の経営者
  • 課題:出店するのに望ましい立地の条件が分からない
  • 解決策:通行量や近隣の競合店など、出店候補地を調査する

1 小売業における立地の重要性

小売業が新規出店をする場合、「立地や業態などを考慮した上で、経営が成り立つ程度の売り上げが獲得できるか」をしっかりと検証しなければなりません。

小売業は立地産業ともいわれており、立地は売り上げに大きく影響します。

例えば、次のような場合には、新規出店によって十分な売り上げを獲得することは難しいでしょう。

  • 新規出店を考えている地域にターゲット顧客としている人口が少ない
  • 新規出店を考えている立地の近隣に同じ業態の繁盛店がある

反対に、望ましい立地条件としては、次のようなものが挙げられます。

  • 人口が増加している地域であり、将来発展が見込める場所である
  • 交通事情が良く、分かりやすい場所である
  • 競合店が集中していない地域である
  • 近隣に集客施設がある
  • 店舗開設に法的および物理的な制約がない
  • 従業員(パート社員)を獲得するために、近隣に居住地がある

2 立地条件を検討する際の留意点

1)店舗のコンセプトと照らし合わせる

店舗のコンセプトとは、「どういった店舗にしたいのか」ということであり、具体的には「ターゲット顧客」「商品の品ぞろえや価格」「店舗の内外装」「従業員」などを指します。

従って、次のような点を検討する必要があります。

  • ターゲット顧客である層の人口が増加しているか
  • 従業員として店舗のコンセプトに合った層の住民が周辺に居住しているか

例えば、20代の若年層をターゲット顧客とするコンセプトの場合、60代を超える高齢層の人口が増えていても売り上げを獲得することは難しくなってしまいます。

また、店舗のコンセプトで考えている商品の価格帯が高いか低いかによって商圏なども異なります。

2)立地条件の変化に注意すること

立地条件というものは常に変化しているため、出店前は望ましいと思っていた立地条件が次のような事情で変わってしまい、想定していたほどの売り上げを獲得できない場合があります。

  • 近隣に競合店が新規出店する
  • 近隣の集客施設が他地域に移転する

一方、売り上げの獲得が難しいとして出店を見合わせた立地が、次のような事情によって、後に望ましい立地条件になることもあります。

  • 近隣に集客施設が移転してくる
  • 新規住宅施設が建設される
  • 道路や鉄道などの交通網が整備される

このように立地条件の変化は小売業の売り上げに大きな影響を与えるため、将来の変化にも注意して立地条件を検討することが重要だといえます。

以降では、立地条件を検討するための手法である立地調査について紹介します。

3 立地調査の概要

1)商圏とは

立地調査では、「その立地では自店にはどれくらいの潜在顧客がいるのか」といった市場規模(マーケットサイズ)の検討から始めます。そのためにはまず、自店の商圏を把握しなければなりません。

商圏とは顧客が自店に来店する範囲のことで、商圏内の住民を潜在顧客として市場規模を検討することができます。

商圏は、次のように3つに分類することができます。

  • 1次商圏:自店の売上高のうち、70%程度を占める顧客が居住する地域
  • 2次商圏:自店の売上高のうち、20%程度を占める顧客が居住する地域
  • 3次商圏:自店の売上高のうち、10%程度を占める顧客が居住する地域

上記のうち、1次商圏が最も自店に隣接しており、売り上げを獲得するために重要な地域となります。

また、商圏は自店が取り扱う商品の特性、競合店の出店状況、交通網の整備状況などによっても異なっており、立地を検討している場所について入念な商圏の分析・設定を行う必要があります。

2)商圏の分析・設定手法

次に、商圏の分析・設定手法を見てみましょう。

ショッピングセンター内や商店街に新規出店する場合は、関係者に聞けばおおよその商圏が分かります。しかし、それ以外の地域に出店する場合は、自分で商圏を分析・設定する必要があります。

自分で商圏を分析・設定するための代表的なモデルとして、コンバースの法則があります。コンバースの法則とは、次の通りです。

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また、コンバースの法則以外の手法で商圏を分析・設定するには、次のような方法があります。

  • 既存店がある場合、既存店の顧客属性データから顧客の居住地域を調査する
  • 出店予定地域で路上アンケート調査を行い、通行人の居住地域を調査する
  • 想定される来店ルートを使用して来店し、所要時間より顧客が来店し得る地域を推定する

3)ターゲット顧客数の調査

商圏を設定したら、その商圏内のターゲット顧客数を調査します。

この際、出店を検討している地域の地方自治体を訪問したり、ウェブサイトで検索したりすると、その地域の年齢・性別など層別の居住データを入手できます。

しかし、そのような公的統計は数が多く、なかなか目当ての統計が見つからないことがあります。また、統計間の連携がなく、個別にデータを集めて集計しなければならないケースもあります。

こうした複雑な公的統計を視覚的に分かりやすく、利用しやすくしたシステムとして、総務省統計局と統計センターが提供する地図情報システム「jSTAT MAP」があります。

■地図情報システム「jSTAT MAP」■
https://jstatmap.e-stat.go.jp/

4)「jSTAT MAP」でできること

「jSTAT MAP」を利用すれば、地図上のある地点を選択するだけで、半径500メートル圏内や半径1キロメートル圏内などの人口や世帯数、事業所数、従業者数などを簡単に把握できます。また、自分で地図上に線を引いて設定した圏内のデータも入手することができます。

地図には人口、世帯数、年齢別人口、性別人口、事業所数などさまざまなデータが収録されているため、地点と商圏を設定して入力するだけで、そのエリアの性別・年齢別人口などのさまざまなデータを出力することができます。

5)売り上げの予測

ここでは、売り上げを予測をするための手法について見てみましょう。その手法には、修正ハフのモデル式があります。修正ハフのモデル式は、来店数を見込むための手法です。地方自治体のデータや「国勢調査」などから算出した商圏内の人口・世帯数を基に、次の式で来店数を推計できます。

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4 新規出店前の現地調査

修正ハフのモデル式などで売り上げを予測しても、商圏はさまざまな要因によって左右されるため、実際に出店した際に予測していたほどの売り上げを獲得できないことは少なくありません。そうした事態を避けるために、事前に現地へ行って実情を確認することが重要です。

ここでは、その現地調査の一例として通行人調査を紹介します。

  • 通行量調査

ある時間帯のA立地(左枠)の人数は15人、B立地(右枠)の人数が10人とします。

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通行量ではA立地のほうが多いのですが、店のターゲット顧客である20代前半の女性(網掛けの部分)の数を数えると、A立地(左枠内)は4人、B立地(右枠内)が6人であった場合、出店立地としてはA立地よりもB立地のほうが適していることになります。

来店客の性別・年齢が重要な場合、通行量調査は、単に通行人の数をカウントしただけでは有用な情報とはなりません。ターゲット顧客となる性別・年齢に合致した通行人の数をカウントする必要があります。また、自動車の通行量を調査する場合、ファミリーをターゲット顧客にするならば、トラック・商用車・スポーツカーの数ではなく、ミニバンやセダンの数をカウントする必要があります。

このように通行人調査を行うことで、公的データで予測した通り、ターゲット顧客としている人口がいるのかどうかを確認することができます。

通行人調査に加えて、現地の実情を確認するためには、次のような調査が必要でしょう。

  • 路上アンケート調査により、顧客ニーズを調査する
  • 近隣の競合店を調査する
  • 今後の交通網の整備や法規制の変更などについて地方自治体に問い合わせる
  • 企業や集客施設の移転についてヒアリング調査する

こうして事前の調査を念入りに行うことで立地条件を検討し、望ましい立地を見つけることが新規出店を成功させるために重要な準備の1つといえます。

以上(2019年8月)

pj80069
画像:pixabay

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