書いてあること
- 主な読者:自社ビルや工場、商用ビルなどを所有する中小企業の経営者
- 課題:「修繕引当金」「特別修繕引当金」の会計処理のルールや金額の目安を知りたい
- 解決策:引当金の時点では、損金に算入できない。損金に算入できるのは、「修繕」を行った事業年度のみである点に注意する。金額の目安については、実際の工事の見積もりや不動産会社の公表しているデータなどを参考にする
1 不動産の修繕に必要な「修繕引当金」「特別修繕引当金」
自社ビルや工場、商用ビルなどを所有する会社は、建物の状態を保つために修繕が必要です。特に数年に1度の大規模修繕などは費用が高額になるため、修繕を行った事業年度だけに修繕費用の全額を計上するのではなく、大規模修繕に備えて毎年費用をコツコツ計上しておくことが、正確な利益計算をする上で重要になります。
そこで利用する勘定科目が、「修繕引当金」と「特別修繕引当金」です。これらの勘定科目を利用することで、将来発生する修繕や大規模修繕に備えた利益計算や資産管理ができます。ただし、経営者や担当者の中には、修繕引当金と特別修繕引当金のルールや計上方法が分からない人もいるかもしれません。
この記事では、修繕引当金と特別修繕引当金の会計処理のルールや、いくら計上すればいいかの目安を紹介します。
2 会計処理のルール
1)そもそも「修繕引当金」「特別修繕引当金」とは?
「修繕引当金」「特別修繕引当金」は、名前は似ていますが用途が異なります。それぞれの概要は次の通りです。
- 修繕引当金:毎年行う定期修繕が予算の制約や工事スケジュールの遅れなどの何かしらの理由で、事業年度内に実施できなかった場合に計上するもの
- 特別修繕引当金:数年に1度の大規模修繕に備えて各事業年度に分割して計上するもの
修繕引当金が必要に応じて計上されるのに対し、特別修繕引当金は数年に1度の大規模修繕に備えて基本的には各事業年度に分割して計上します。例えば、1000万円かかる大規模修繕を5年に1度行う場合、1~4年目は毎年200万円の特別修繕引当金を計上するといった具合です。
2)修繕引当金と特別修繕引当金は損金に算入できない
修繕引当金と特別修繕引当金は、
いずれも会計上は「費用」になりますが、税金計算上では損金に算入できません。
つまり、決算書上には記載されますが、確定申告書上では損金としない調整(損金不算入)をします。会計上で計上した引当金の繰入額が損金に算入できるのは、実際に修繕を行った事業年度のみとなります。
3)それぞれの引当金の計上時の会計処理
1.修繕引当金
まずは、修繕引当金の仕訳を確認します。毎年定期的に行っている自社ビルの定期修繕(費用30万円)が、諸事情によって翌事業年度に行われることになった場合の仕訳は次の通りです。修繕引当金に相対する勘定科目は「修繕引当金繰入」となります。修繕引当金を負債勘定、修繕引当金繰入を費用勘定として仕訳します。
実際に翌事業年度に定期修繕を行った場合の仕訳は次の通りです。前期で負債勘定として計上した修繕引当金を相殺する仕訳を行います。貸方科目は、支払方法に応じて適宜変更してください。
2.特別修繕引当金
次は、特別修繕引当金の仕訳です。5年に1度、自社ビルの大規模修繕(費用3000万円)を行う場合の1~4年目の仕訳は次の通りです。3000万円を5年間で分割し、各事業年度に600万円ずつ計上、特別修繕引当金を負債勘定、特別修繕引当金繰入を費用勘定として仕訳します。
また、大規模修繕を実際に行った5年目の仕訳は次の通りです。4年間積み上げた特別修繕引当金を相殺します。5年目分の600万円は修繕費として計上しましょう。
3 設定金額の目安
修繕引当金は、毎年行っている定期修繕が事業年度内に実施されなかった場合に計上するため、計上金額は本来行うはずだった定期修繕にかかる費用です。従って、過去に行った定期修繕費用の平均値などから設定金額を計算します。
特別修繕引当金は、大規模修繕に備えて計上するため、「大規模修繕にかかる費用(見積額)÷大規模修繕の周期(年数)」が、毎年計上するべき金額になります。大規模修繕の費用や頻度は、建物の形状や規模、立地、設備の仕様などによって変わりますから、建物ごとに設定金額を計算します。
以降に大規模修繕の費用と頻度の参考資料等を示しますが、最終的な設定は、公認会計士などの専門家に相談してから決めるようにしてください。
1)不動産会社の調査データより
不動産売買や仲介業などを展開している株式会社ボルテックス(東京都千代田区)によると、自社ビルの一般的な修繕サイクルと費用の目安は次の通りです。
同社によると、ビルの大規模修繕工事にかかる費用は、建物の規模や築年数によって異なるものの、2000万~3000万円程度が相場とのことです。
また、マンションでは、大規模修繕工事の周期を12年として、長期修繕計画が組まれていることが多いですが、オフィス用のビルについても、外壁や防水など建物の性能に関わる点は、ほぼ同じ程度で計算されるとのことです。
2)国土交通省の調査データより
国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、マンションの大規模修繕工事の実施時期は次の通りです。
マンションの大規模修繕工事の工事金額は次の通りです。
また、床面積(1平方メートル)当たり工事金額は次の通りです。
以上(2024年3月作成)
(監修:税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)
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