書いてあること

  • 主な読者:決算対策の一環などとして、福利厚生費を損金にしたい経営者
  • 課題:社員等のために使っているのだから、全額、福利厚生費にならないの?
  • 解決策:「平等」と「社会通念上(常識的に)妥当」の2つの原則を押さえる

1 福利厚生費とは

福利厚生費とは、

社食の提供やワクチンの予防接種、勤続記念品の購入など、さまざまなシーンで発生する費用

です。

福利厚生費について税務上の明確な定義はありません。一般的には、労働環境の向上のために、役員、社員、パート・アルバイト(以下「社員等」)に対する手当などであり、給料や交際費に該当しないものを指します。こうした事情から、会社としては福利厚生の目的で行ったつもりでも、税務上は、給料や交際費と判断される場合があります。

福利厚生費が損金になるかどうかのポイントは、

  • 全ての社員等に「公平」であるもの
  • 「社会通念上(常識的に)」妥当な金額のもの

です。詳しく見ていきましょう。

2 損金になる福利厚生費の2つのポイント

1)全ての社員等に「公平」であるもの

税務上の福利厚生費は、

社員等全員を対象とするもので、「役員だけ」などのように特定の人物を対象とするものではいけない

ことになっています。

ただし、これは全員参加が必須ということではありません。例えば、社員旅行や会社のイベントの場合、ポイントは、全員が実際に参加することではなく、

全員に参加の機会が与えられていること(全員に参加の有無を確認していることなど)

です。

もし、

  • 特定の社員等が利益を受けている
  • 一般的にみて高額過ぎると判断される

などの場合は、給与所得とみなされ(以下「みなし給与」)ます。源泉所得税が課されますので、会社はその支出に対して源泉徴収を行わなければなりません。

また、特定の利益を受けているのが役員の場合は、みなし給与相当額が、法人税の計算上損金とならない「役員賞与」となり、その分会社の所得が増えてしまい、法人税の納付も追加で発生することになります。

福利厚生費が公平であるかどうかの判断は、社内規定に基づいて一律に社員等に支給するものであるかがポイントになるため、規程の内容を確認してみましょう。

2)「社会通念上(常識的に)」妥当な金額のもの

税務上の福利厚生費は、「社会通念上」妥当な金額の範囲内でなければなりません。ただ、税務上の明確な定義はなく、

一般的に通用している社会常識に照らして違和感がないこと

とされています。より具体的には、社会通念は会社規模や業種、過去の慣行などさまざまな視点から判断されるものであるため、一般的には、基本通達に判定の目安が示されています。ただし、あくまで目安であり、判断に迷うケースがあります。

社会通念上妥当かどうかについては、税務調査でもよく論点となります。実際に判断する際は、事前に税理士などの専門家に相談するようにしましょう。

3 福利厚生費で迷いやすい実務Q&A

1)社員食堂や弁当委託は、福利厚生費で処理していいの?

社員食堂や弁当委託などを福利厚生費の一環として設置・実施している企業があります。これらの費用を、税務上、福利厚生費として処理するためには、次の2つの要件をどちらも満たす必要があります。

  • 社員等が食事の価額の半分以上を負担していること
  • 次の金額が1カ月当たり3500円(税抜き)以下であること

(食事の価額)-(社員等が負担している金額)

この要件を満たしていなければ、食事の価額から社員等の負担している金額を控除した残額が、みなし給与として給与課税されます。例えば、1カ月当たりの食事の価額が6000円で、社員等の負担している金額が1500円の場合、上記の条件を満たしません。従って、食事の価額(6000円)と社員等が負担している金額(1500円)との差額(4500円)が、みなし給与として給与課税の対象となります。

ここでいう食事の価額は、次の金額にて判定します。

  • 社員食堂で会社が作った食事を支給している場合は、食事の材料費や調味料などの食事を作るために直接かかった費用の合計額
  • 弁当委託の場合には、業者に支払う金額

なお、残業や宿日直をした社員等を対象に会社が支給する食事は、無料で支給した場合でも(上記の福利厚生費で処理するための2要件を満たさなくても)、給与課税されません。

2)お祝い金や香典などの慶弔費は、全て福利厚生費と判断していいの?

社員等やその親族の結婚・出産・入院などに際して、社内規程に基づいて支払われた慶弔費(結婚祝い、出産祝い、香典、病気見舞金など)で、かつ金額も社会通念上妥当なものについては、福利厚生費として損金になります。また、みなし給与として給与課税もされません。

一方、社内規程がなかったり、特定の社員等に対して高額な祝い金を支給したりした場合は、みなし給与として給与課税される恐れがあります。その特定の社員等が役員である場合は給与課税のみならず、みなし給与相当額が損金にならない「役員賞与」とされます。

なお、新型コロナウイルス感染症に関連して社員等へ支給する見舞金については、次の要件をすべて満たしていれば、福利厚生費として損金になります。また、みなし給与として給与課税もされません。

  • その見舞金が心身又は資産に加えられた損害につき支払を受けるものであること
  • その見舞金の支給額が社会通念上相当であること
  • その見舞金が役務の対価たる性質を有していないこと

3)インフルエンザ予防接種や、新型コロナウイルス感染症のPCR検査費用は、福利厚生費で処理していいの?

インフルエンザ予防接種費用や、新型コロナウイルス感染症のPCR検査費用を会社が負担した場合は、福利厚生費として損金になります。ただし、一部の人だけが対象であったり、検査費用などとして一般的な金額以上であったりする場合は、みなし給与として上記同様の取り扱いとなります。

4)社員旅行の費用は、福利厚生費で処理していいの?

新型コロナウィルス感染症拡大の影響もあり、社員旅行に慎重な会社は多いと思いますが。もし、社員旅行を行った場合、その費用が社会通念上妥当な金額内で、なおかつ次のいずれの要件も満たしていれば、原則、福利厚生費として損金になります。また、給与課税もされません。

  • 旅行の期間が4泊5日以内であること。なお、海外旅行の場合には、外国での滞在日数が4泊5日以内であること
  • 旅行に参加した人数が全体の人数の50%以上であること

ただし、会社が慰安旅行に参加しなかった社員等に対し、その参加に代えて現金を渡した場合、みなし給与として給与課税される恐れがあるため注意が必要です。また、役員だけを対象とした社員旅行の費用は、みなし給与として給与課税されるのみならず、みなし給与相当額が損金にならない「役員賞与」とされます。

5)社員等の家賃を負担している場合は、福利厚生費か給与か?

会社が社員等の住宅家賃を負担している場合、会社と社員等の負担の割合によって取り扱いが異なります。

1.会社が家賃の全額を負担している場合(無償で社宅等を貸与している場合)

賃貸料相当額がみなし給与として給与課税されます。なお、賃貸料相当額の計算は、固定資産税の課税標準(課税の基礎となる金額)に一定の率を乗じた金額や、床面積などを基に計算した金額の合計額となります。また、役員の場合には、賃貸料相当額の計算式が異なるなど取り扱いが複雑です。算定する際は、税理士などの専門家に相談するようにしましょう。

2.社員等から受け取っている家賃が、賃貸料相当額の50%未満である場合

受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額が、みなし給与として給与課税されます。

3.社員等から受け取っている家賃が、賃貸料相当額の50%以上である場合

受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額は、福利厚生費として給与課税されません。

4.契約は法人名義としましょう

住宅の契約は必ず法人名義とするようにしましょう。個人名義の住宅家賃を会社が負担した場合は上記1.から3.の取り扱いに関係なく、会社が負担した金額の全部がみなし給与とされて源泉徴収をする必要が出てきます。

6)創業○○周年に社員等に配る記念品の代金は、福利厚生費で処理できる?

会社が創業○○周年などを記念し社員等に記念品を配った場合、記念品の代金が次のいずれの要件も満たしている場合には、原則、福利厚生費として損金になります。また、給与課税もされません。

  • 記念品が社会通念上記念品としてふさわしい物品であり、かつ、価額(処分見込価額により評価した価額)が10000円(税抜き)以下のものであること
  • 創業記念のように一定期間ごとに到来する記念に際し支給する記念品については、創業後相当な期間(おおむね5年以上の期間)ごとに配るものであること

ただし、記念品に代えて現金や商品券などを配る場合には、みなし給与として給与課税されるため注意が必要です。

以上(2022年4月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:Mariko Mitsuda

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