書いてあること
- 主な読者:決算対策の一環などとして、消耗品費を損金にしたい経営者
- 課題:取得したもの、取得した金額によって取り扱いが大きく異なる
- 解決策:消耗品費と減価償却費の違い、中小企業の特例を理解して自社に有利な方法を選択
1 消耗品費・減価償却費とは
固定資産の購入費用を損金とするときには、「消耗品費」と「減価償却費」とが主な項目になります。
消耗品費とは、
事業を行う上で日常的に使用する文房具などの「消耗品」を購入するための費用
です。通常、消耗品は事業年度ごとにある程度決まった数量を購入し、その時点で「消耗品費」として損金の処理をします。一方、パソコンや机などの器具備品や建物・建物附属設備などの固定資産は、原則として、購入時に全額損金とすることができず、耐用年数に応じて何年かに分けて費用である「減価償却費」として損金に算入します。
ただし、その固定資産の値段(取得価額)やどの程度の間使用できるか(使用可能期間)によっては、例外的に購入時に全額損金にすることができます。このように、固定資産の購入費用は、税務上の取り扱いに注意が必要となる費用の1つです。
固定資産の購入費用が損金になるかどうかのポイントは、
- 取得価額が10万円未満、または使用可能期間が1年以下であること
- 取得価額が10万円以上20万円未満のものは3年間で均等償却すること
- 取得価額が20万円以上のものは耐用年数に応じて減価償却すること
- 中小企業者等については取得価額が30万円未満であること
です。詳しく見ていきましょう。
2 損金になる消耗品費・減価償却費の4つのポイント
原則として、固定資産を購入時に全額損金にすることはできません。しかし、取得価額の金額によって処理が分かれるので確認しましょう。
1)取得価額が10万円未満、または使用可能期間が1年以下であること
取得価額が10万円未満、または使用可能期間が1年以下の固定資産は、消耗品と同様に「消耗品費」という勘定科目で、購入時に全額損金とすることができます。
2)取得価額が10万円以上20万円未満のものは3年間で均等償却すること
取得価額が10万円以上20万円未満の固定資産は、「一括償却資産」と呼ばれ、取得した事業年度から3年間で損金に算入します。この一括償却資産は各事業年度で取得価額の3分の1ずつ損金に算入(1年決算法人の場合)することができるので、事業年度の中途で購入したものであっても月割り計算をする必要はありません。例えば取得価額が15万円の場合、各事業年度に5万円(=15万円/3年)ずつ均等に損金に算入します。
3)取得価額が20万円以上のものは耐用年数に応じて減価償却すること
取得価額が20万円以上の固定資産は、定額法や定率法といった方法を使用し、税法で決められている耐用年数にわたって損金に算入します。適用する耐用年数の誤りは税務調査でよく指摘されるポイントなので注意しましょう。
- 定額法:「取得価額」に一定割合を掛けて減価償却費を計算する方法で、毎期の減価償却費が一定額となる
- 定率法:「未償却残高(帳簿価額)」に一定割合を掛けて減価償却費を計算する方法で、耐用年数の前半で多額の、後半では少額の減価償却費が計上される
4)中小企業者等については取得価額が30万円未満のものであること
青色申告書を提出している中小企業者等(資本金が1億円以下で、常時使用の従業員の数が1000人以下の法人などで一定の要件を満たすもの)が、取得価額が30万円未満の固定資産(以下「少額減価償却資産」)を購入した場合、購入時に消耗品費として全額損金にできる特例があります。この少額減価償却資産の特例の適用は会社の任意ですが、全額損金にできるのは、1事業年度で300万円まで(1年決算法人の場合)です。
例えば、1事業年度に25万円のパソコンを13台購入した場合、少額減価償却資産として購入時に一括損金とすることができるのは12台分(25万円×12台=300万円)までです。残り1台(25万円)については、一旦器具備品(資産)として計上し、通常の減価償却を行わなければなりません。また、同じ事業年度に他の固定資産を購入した場合も、すでに300万円の枠を使い切っているため、この特例を適用することはできません。
なお、税法の改正により、他社に貸し付ける目的で購入した「貸付用資産」については、金額の多寡に関わらず資産計上し、税法で決められている耐用年数にわたって損金に算入されることになりましたので、注意しましょう。
3 消耗品費・減価償却費で迷いやすい実務Q&A
1)数年分をまとめ買いした消耗品でも、全額損金にできるの?
文房具などの消耗品は、原則として購入したときに全額損金にできます。これは、購入した消耗品はその直後(長くても1年以内)に消費されるのが一般的で、購入時に全額損金としても、各事業年度の損金になる金額はほぼ同額になると考えられるためです。
では、消耗品をまとめ買いしたときはどうでしょうか。例えば、割安で購入できるといった理由から、2年分をまとめ買いすることがあると思います。このケースでは全額を購入時の損金とすることはできません。あくまでも損金とされるのは1年分のみです(残りの1年分は翌事業年度の損金とされます)。1年分の消耗品に該当するかどうかの明確な判断基準はありませんが、例年と比較して明らかに消耗品費が高額になっており、その理由が翌事業年度以降の分のまとめ買いに当たるものは税務調査でもチェックされるので注意しましょう。
2)作業服や制服などは消耗品費として処理することができるの?
業務で使用する目的で従業員に作業服や制服などを支給する会社も多いでしょう。こういった作業服なども、業務にのみ使用することを目的としている場合に限り、その購入費用は消耗品費として損金になります。
一方、「スーツ」についてはプライベートでも使用可能なものと考えられています。ですから、スーツを会社が支給した場合、税務上は給与として取り扱われ、源泉所得税の対象となります。特に役員に対してスーツを支給した場合には、損金にすることができない「役員給与」とみなされるので注意しましょう。
3)固定資産の金額の判断は1個ずつ行うの?
固定資産は、その取得価額がいくらかによって取得時に全額を損金とすることができるか、固定資産に計上して減価償却を行うかに分かれますが、この金額は基本的に「1個当たりの単価」で判断します。
ただし、単体で使用することが想定されていないものなどについては、「1個当たり」ではなく「1組当たり」で判断します。例えば、応接間に置いてあるソファやテーブルなどはセットで使用することを前提にデザインされているものが多く、こうした資産については1組の金額で処理方法を判断する必要があります。例えば、ソファが25万円、テーブルが10万円の応接セットを購入の場合、35万円の器具備品(固定資産)として計上します。
4)車やクルーザーといった固定資産も減価償却費を損金にできるの?
税務上、事業を行う上で必要な固定資産であれば、減価償却費は損金となります。従って、社用車を購入したり、福利厚生目的でクルーザーを購入したりした場合、減価償却費は原則として損金になります。
ただし、こういった資産は高額で、かつ「事業目的」か「私的目的」かが曖昧になるケースも多いため、事業目的で購入・使用していることを証明できるような書類を整えておくことが重要です。例えば、「運用規程(使用手続きなど)」や「使用管理表(いつ、誰が、どのような目的で使用したのかなど)」を準備するとよいでしょう。これを怠り、事業目的で使用していることが証明できなかったり、そもそもプライベートでの使用がほとんどであったりすることが明らかな場合は、減価償却費が損金にできないばかりでなく、購入金額が役員などの個人に対する給与として源泉所得税の対象となるなど、思わぬ税負担が生じる恐れがあります。
以上(2022年5月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)
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画像:Mariko Mitsuda