書いてあること
- 主な読者:感覚だけではなく、定量的な基準や根拠を持ってビジネスの判断をしたい人
- 課題:事業規模が拡大する過程で、部門や支店ごとの業績が見えにくくなる
- 解決策:部門別の貢献利益によって、部門や支店ごとの業績を把握する
1 質問:部門ごとの利益を把握していますか?
店舗販売部門、外商部門、卸売部門の3つの部門を持つA社。会社全体の利益はすぐに出てくるものの、部門ごとの利益は売上総利益(売上-売上原価)までしか把握できていません。
創業当初はシンプルだった組織も、事業規模が拡大していくにつれ、さまざまな部門が設置され、営業所なども増えてきます。ここで問題となるのが、部門や営業所ごとの業績が見えにくくなることです。こうした状況に直面した場合における判断の基準をご紹介します。
2 部門などごとに「貢献利益」を算出する
貢献利益とは、限界利益(売上高から変動費を引いた値)から管理可能固定費を引いた値です。管理可能固定費とは、各部門でコントロールできる固定費をいいます。
貢献利益は次のように計算します。
- 限界利益=売上高-変動費
- 貢献利益=限界利益-管理可能固定費
なお、限界利益については、下記の記事をご参照ください。
管理会計では、費用は売上高の増減に合わせて変動する「変動費」と、売上高の増減に関係なく発生する「固定費」とに分けられます。売上高が伸びると変動費は増えますが、固定費は一定です。
例えば小売業の場合、売上原価などは売上高に合わせて増減する変動費になります。一方、人件費や減価償却費、賃借料などが固定費となり、その中には各部門で管理可能(コントロール可能)なものと管理不能(コントロール不能)なものがあります。
各部門で決裁権のある費用は管理可能固定費となります。例えば、消耗品費、会議費、交際費などについて、各部門や支店での判断が可能ならばコントロール可能な固定費となります。
部門や支店の要請で人員補充が行われる場合、人件費も管理可能固定費とします。一方、支店、営業所、工場などの開設に伴う賃借料や減価償却費、支払利息のように経営者の経営判断によるものは、各部門にとっては管理不能固定費とします。
3 事例を用いた「貢献利益」の計算例
1)事例前提条件
A社には、店販部門、外商部門、卸売部門の3つの販売部門があります。また、自社ビルを保有し、その中にこの3部門が設置されています。
店舗販売部門は、自社ビル内の店舗で小売販売をしています。店販部門の売上高は10億円です。商品の値入率は55%(原価率45%)です。管理可能固定費は、人件費1億4400万円(480万円×30人)とします。
外商部門は、会員顧客(年間に一定金額以上を購入する優良顧客)向けに訪問販売と通信販売を行っています。掛率(小売価格に対する販売価格の割合)は90%です。管理可能固定費は、人件費7200万円(480万円×15人)、車両費・物流費4200万円(営業車7台分の減価償却費・管理費・燃料費700万円+代金引換を含む小口配送費用3500万円)とします(便宜上、配送費用は管理可能固定費に含めています)。
卸売部門は、百貨店等の大規模小売店や専門店に対して商品を卸売りしています。掛率は65%です。管理可能固定費は、人件費7200万円(480万円×15人)と交通費・物流費2700万円(営業交通費200万円+商品配送費用2500万円)とします。商品配送費用は、売上高に応じて変動する性質の費用ですが、ここでは管理可能固定費としています。
2)店販部門の貢献利益
店販部門の売上高は10億円、商品の値入率が55%なので、売上原価と限界利益は次のように算出することができます。
- 売上原価=売上高10億円×売上原価率45%=4億5000万円
- 限界利益=売上高10億円-売上原価4億5000万円=5億5000万円
店販部門の管理可能固定費は、人件費1億4400万円なので、貢献利益は次のように算出することができます。
- 貢献利益=限界利益5億5000万円-管理可能固定費1億4400万円=4億600万円
- 従業員1人当たり貢献利益=貢献利益4億600万円/従業員数30人≒1353万3300円
3)外商部門の貢献利益
外商部門の売上高は6億円、店販部門の販売価格に対して掛率90%で販売しているので、売上原価と限界利益は次のように算出することができます。
- 売上原価=売上高6億円/90%×売上原価率45%≒3億円
- 限界利益=売上高6億円-売上原価3億円=3億円
外商部門の管理可能固定費は、人件費7200万円と車両費・物流費4200万円なので、貢献利益は次のように算出することができます。
- 貢献利益=限界利益3億円-管理可能固定費1億1400万円=1億8600万円
- 従業員1人当たり貢献利益=貢献利益1億8600万円/従業員数15人≒1240万円
4)卸売部門の貢献利益
卸売部門の売上高は10億円、店販部門の販売価格に対して掛率65%で販売しているので、売上原価と限界利益は次のように算出することができます。
- 売上原価=売上高10億円/65%×売上原価率45%≒6億9200万円
- 限界利益=売上高10億円-売上原価6億9200万円=3億800万円
卸売部門の管理可能固定費は、人件費7200万円と交通費・物流費2700万円なので、貢献利益は次のように算出することができます。
- 貢献利益=限界利益3億800万円-管理可能固定費9900万円=2億900万円
- 従業員1人当たり貢献利益=貢献利益2億900万円/従業員数15人≒1393万3300円
5)各部門の比較
A社の部門別貢献利益を一覧で示すと次の通りです。
3部門で貢献利益が最も大きいのが店販部門で、他2部門を大きく上回っています。次いで卸売部門、外商部門となっています。
店販部門は、売上高が大きく限界利益率が高いことが特徴で。卸売部門は、限界利益率は低いものの、それを売上高でカバーしている状況です。
従業員1人当たり貢献利益では、卸売部門が最も大きく、次いで店販部門、外商部門という結果になっています。
実際には、部門別に時系列で比較し、各事業部門の貢献利益の増減を比較評価するのが効果的です。
4 貢献利益を運用する際の注意点
1)目に見えないもう1つの貢献利益
部門別の貢献利益によって、部門や支店ごとの業績が把握できます。活用方法はさまざまで、例えば賞与の査定に差をつけることもできます。
ただし、慎重に運用しなければなりません。なぜなら、各部門は独立した組織であるようでいて他部門から少なからず影響を受けているものであり、各部門からのアシストについても考慮する必要があります。
各部門の貢献利益を比較する場合、他部門からの好影響(創業からの貢献度合いやブランド価値など)も考えなければなりません。これを考えずに、部門別貢献利益を他部門との比較のために用いると、部門間にあつれきが生じる危険があります。
2)適正な売上管理や労務管理が大前提
管理可能固定費というのは、各部門でコントロールが可能な費用です。部門別業績評価をする場合、各部門の売上管理や労務管理等が適正に行われていることが不可欠です。
例えば、各部門に未払いの残業代があるなどの場合が問題です。もし、部門内でサービス残業が常習化しているような場合、それを管理可能固定費に加味すると貢献利益は異なってきます。また、評価基準を利益に重きを置きすぎたときに生じる売上の粉飾もあります。不正へのきっかけとならないためにも、社員教育の徹底や管理体制の整備も同時に行っていきましょう。
5 練習問題
(問題1)
A事業部の売上高は5000万円(変動費率55%)、管理可能固定費は1500万円です。A事業部の貢献利益はいくらですか?
(問題1の回答)
A事業部の限界利益は、売上高の5000万円から変動費の2750万円を引いた2250万円となります。貢献利益は限界利益から、管理可能固定費を引いた利益なので750万円(2250万円-1500万円)となります。
問題1の答え:750万円
(問題2)
A事業部に係る費用項目は次の通りです。A事業部の管理可能固定費はいくらですか?
接待交際費180万円、福利厚生費30万円、器具備品の減価償却費80万円、
オフィス賃借料850万円、光熱費100万円、広告宣伝費130万円、旅費交通費200万円、
A事業部の役員給与1000万円、A事業部の従業員給与8640万円
(問題2の回答)
管理可能固定費とは、A事業部がコントロールできる費用です。上記の中では、接待交際費、福利厚生費、光熱費、広告宣伝費、旅費交通費、A事業部の従業員給与となります。なお、役員給与は株主総会(役員個人の給与額については取締役会または代表取締役)の決議事項であるため、管理不能固定費に該当します。
問題2の答え:9280万円
以上(2024年7月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)
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画像:photo-ac