書いてあること
- 主な読者:これから飲食業や小売業を始めようとしている経営者
- 課題:お店によって値札の表示の仕方が違うが、結局、どの表示が正しいのか分からない
- 解決策:総額表示義務という表示ルールがあり、税込価格が表示されていなければならない
1 知っていますか。価格の表示ルール
消費税については、商品やサービスの価格の表示ルールが決まっています。これを「総額表示義務」といい、事業者が消費者に価格を表示する場合は、
消費税額を含めた価格(税込価格)で表示しなければならない
ことになっています。
総額表示義務は、消費者が、
- 会計するまで実際に支払う金額が分かりにくい
- 全く同じ商品でも、お店によって税抜表示だったり税込表示だったりした場合、金額の比較をするときに誤解される可能性がある
ことから、設けられたルールです。
総額表示をしないで税抜表示のままにしていても消費税法の罰則はありませんが、景品表示法という別の法律に違反している場合があります(この場合には罰金が科されることがあります)。また、消費者からの信頼を損なう原因にもなりますので、もし税抜表示のままにしている場合には、すぐに総額表示で対応するようにしましょう。
2 値札だけではない総額表示の対象
1)総額表示の対象となる媒体は?
消費者に対して価格の表示をする場合は、どのような形態の媒体でも総額表示の対象になります。
一番代表的なものは、商品に貼られている値札や陳列棚に記載されている価格などですが、その他にも次のようなものが挙げられます。
2)総額表示の対象とならない取引はあるの?
総額表示が義務付けられているのは、
事業者が消費者に対してあらかじめ価格を表示する場合
です。つまり、
不特定多数の人に対して価格を表示するときが対象となるため、事業者と事業者との間の取引(事業者間取引)は対象にならない
のです。また、特定の人を対象に作成される「見積書」「契約書」「請求書」なども対象とはなりません。
ただし、
「見積り例」としてホームページで公開する場合
などは、不特定多数の人に向けたもののため、総額表示の対象となるので注意しましょう。
3)具体的にはどうやって表記すればいいの?
総額表示義務は、商品の税込価格を表示することを「義務付けている」ものです。そのため、記載されている金額は税込価格であることが前提ですので、
価格を記載するときに「税込」などと表示する義務はない
ことになります。しかし、全てのお客様に総額表示義務の知識が浸透しているとは言い切れないため、トラブルを避ける意味では「税込」と表示しておいた方がよいでしょう。また、税込価格が表示されていれば、「税抜価格」「消費税額等」「消費税率」などを併記しても構いません。しかし、
- 税抜価格を強調し、税込価格は小さく表示する
- 税抜価格を強調し、税込価格は薄く表示する
といったことは、総額表示義務を果たしているとはいえません。お客様との無用なトラブルを避けるためにも、誤解を招く表示はやめましょう。それぞれ総額表示OKの例とNGの例を紹介しますので、ご参考ください。
3 ケースで解説。消費税の表示ルール
1)テイクアウトも行っている飲食店ではどのように表示すればいいの?
飲食店などの中には、店内飲食とテイクアウトの両方を提供している店舗もあると思います。
店内飲食の場合は消費税率が10%、テイクアウトの場合は消費税率が8%になるので、税抜価格は同額でも、税込価格では価格に差が出ます。
いずれの場合も税込価格を表記する必要がありますので、このような場合は、
- 店内飲食用のメニューとテイクアウト用のメニューを分けて作成する
- 店内飲食用とテイクアウト用の税込価格を、メニューに分かりやすく併記する
ようにしましょう。
2)「メーカー希望小売価格」はどのように表示すればいいの?
製造業者や輸入総代理店などの小売業以外の業者が、自社の供給する商品について、いわゆる「希望小売価格」を設定し、商品カタログなどに表示している場合があります。
この「希望小売価格」の表示は、
小売店が消費者に対して行う価格表示ではない
ため、「総額表示義務」の対象にはなりません。しかし、小売店が、
「希望小売価格」をそのまま自社の販売価格にしている場合は「総額表示義務」の対象になる
ので注意しましょう。もし、希望小売価格が税抜価格になっている場合には、陳列棚の値札や店内POPなどによって税込価格を分かりやすく表記するようにしましょう。
3)商品本体のパッケージなどに税抜価格が表示されている場合にはどうするの?
総額表示が義務付けられているのは、消費者が商品などを購入する際、
「消費税額を含む価格(支払総額)」が一目で分かるようにするため
のものです。
そのため、個々の商品本体に印刷されている価格が税抜価格のみの表示になっていたとしても、陳列棚の値札や店内POPなどによって、
商品の「税込価格」が一目で分かるようにしておく
ことによって、問題になることはありません。このようなケースの対応例を挙げておきますので、ご参考ください。
4)値引き販売をするときの表示はどうすればいいの?
自社の商品などを値引き販売する際、表示価格の「〇割引」あるいは「〇円引き」と表記することがありますが、この表記自体は「総額表示義務」の対象とはなりません。
しかし、値札などに、
「表示されている値引き前の価格」や、「値引き後の価格を表示する」場合
には、価格を「総額表示」としておく必要があるので注意しましょう。
以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)
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