書いてあること
- 主な読者:仕入税額控除の事務負担を軽減したい、課税売上高が5000万円以下の経営者
- 課題:簡易課税を適用できるかもしれないが、詳細が分からない
- 解決策:簡易課税を検討する。設備投資の予定があるときなどは損をすることもあるので要注意
1 簡易課税制度で面倒な事務負担を軽減!
消費税は、「預かった消費税(仮受消費税)」から「支払った消費税(仮払消費税)」を差し引いて計算され、これを「仕入税額控除」と呼びます。原則通りにやると、仕入税額控除の計算はとても複雑ですが、
小規模事業者だけは、仕入税額控除を簡単に計算する「簡易課税制度(以下「簡易課税」)」
が認められています。ここでいう小規模事業者とは、以下のいずれの要件を満たす会社です。
- 基準期間の課税売上高が5000万円以下
- 期日までに簡易課税を適用する旨の届出書を提出している
簡易課税では、
預かった消費税(仮受消費税)だけを把握すればよい
ので楽です。原則通りの計算を「原則課税」と呼びますが、これと比較すると簡易課税のシンプルさが分かります。原則課税の詳細は、以下のコンテンツでご確認ください。
簡易課税の注意点は期間です。簡易課税を適用したら最低2年間は原則課税に変更できず、仮に変更する場合は、変更のために所定の届出を期限(簡易課税をやめようとする事業年度の前事業年度末日)までに提出する必要があります。また、例外的なケースではありますが、簡易課税で納税額が増えることもあります。
この記事では、簡易課税の計算方法や簡易課税を適用したほうがよい会社を紹介しますので、参考にしてください。
2 5ステップで終わる簡易課税の計算
1)計算方法の概略
簡易課税は、実際に支払った仮払消費税の額に関係なく、
仮受消費税に一定割合を掛けたもの
を仮払消費税とみなして、仕入税額控除を計算します。
一定割合を「みなし仕入率」と呼びます。みなし仕入率は事業区分ごとに決まっています。
2)具体的な計算方法
具体的な計算方法を確認していきましょう。
3)ステップ1:事業区分別の課税売上高の整理
みなし仕入率は、事業区分ごとに決まっています。そのため、複数事業を行っている場合は、事業区分ごとに課税売上高(税込金額)を集計します。
4)ステップ2:課税標準額および消費税額(仮受消費税額)の計算
ステップ1で集計した課税売上高(税込金額)を税抜金額にします。具体的には、
「課税売上高」の税込金額×100/110
と計算します。税抜きにした後の金額を「課税標準額」と呼びます。課税標準額の1000円未満は切り捨てた上で、
課税標準額(端数切り捨て後)に消費税率を掛ける
ことで、課税標準額に対する消費税額(仮受消費税額)が計算できます。
なお、原則として消費税率は10%ですが、軽減税率(飲食料品などに適用される税率)が適用される取引は8%です(説明の便宜上、税率は国税と地方消費税の合計としています)。
5)ステップ3:みなし仕入率の確定
ステップ2で計算した「課税標準額に対する消費税額」に掛けるみなし仕入率の割合を確定します。
1.単一事業の場合
単一事業の場合は、その事業の区分に応じたみなし仕入率をそのまま使用します。
2.複数事業の場合
複数事業の場合は、みなし仕入率を少し調整します。具体的には、
事業区分ごとに計算した仮受消費税額に、各事業区分ごとに決まっているみなし仕入率を掛けたものを加重平均
して、みなし仕入率を計算します。これを算式で表すと次の通りになります。
ところで、複数事業を行っている会社がこのような調整を行うのは煩雑です。そこで、
1つの事業で売上の75%以上を占める場合などは、その大きな事業のみなし仕入率を他の事業にも適用できる
といった特例が設けられています。
なお、複数事業を行っているのに課税売上高を事業ごとに区分していない場合、
行っている事業に対応するみなし仕入率のうち、一番低いもの
が適用されてしまうので注意しましょう。
6)ステップ4:仕入税額控除額(仮払消費税とみなす金額)の計算
ステップ2で「課税標準額に対する消費税額」を計算し、ステップ3で「みなし仕入率」が確定すれば、
課税標準額に対する消費税額×みなし仕入率
によって、仕入税額控除額(仮払消費税とみなす金額)が計算できます。
7)ステップ5:納付する消費税額の計算
ステップ2で計算した「課税標準額に対する消費税額」から、ステップ4で計算した「仕入税額控除額(仮払消費税とみなす金額)」を差し引くことによって、納付する消費税額が計算されます。なお、計算した消費税額は100円未満を切り捨てます。
3 簡易課税を適用したほうがよい会社とは?
簡易課税で事務負担は軽減されるのですが、それによって税金が増えては本末転倒です。簡易課税は仮受消費税にみなし仕入率を掛けて仕入税額控除額を計算するので、「多額の経費の支払いが発生し、仮払消費税が多額になるようなケース」だと損をすることがあります。例えば、次のようなケースは要注意です。各会社の事業の種類や特性に応じ、シミュレーションをして判断しましょう。
1)仕入原価率の高い会社・課税取引となる経費の多い会社
仕入原価率(売上に対する仕入費用の割合)が高かったり、課税取引となる経費が多かったりして、仮払消費税が多額でも簡易課税では関係なく、
あくまでも仮受消費税を基準に計算
されます。原則課税では「預かった消費税(仮受消費税)」から「支払った消費税(仮払消費税)」を引くので、仮払消費税が大きいと納税額が減りますが、簡易課税では仮受消費税しか注目しないので損をすることがあるのです。
2)設備投資の予定がある
多額の設備投資をした事業年度については、簡易課税だと損をすることがあります。なぜなら、原則課税なら還付(仮払消費税が仮受消費税を上回る場合に生じる)を受けられるケースでも、簡易課税では還付を受けられないからです。
前述した通り、簡易課税を適用したら最低2年間は原則課税に変更できないので、
2年後までの設備投資計画を見据えて判断する
ことが重要です。
以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)
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