書いてあること

  • 主な読者:オーナー一族で経営を行っている資本金等1億円超の会社経営者など
  • 課題:一定のオーナー企業には内部留保に対して法人税が課される
  • 解決策:資本金等が1億円以下ならば適用外であることや、設備投資を行うなどして過度な内部留保を減らすといった対策がある

1 社内に残ったお金に課税する「留保金課税制度」とは

留保金課税は、オーナ一やその親族などが支配している一定の会社(以下「特定同族会社」。詳細は後述)のみに追加で課税される法人税の仕組みで、利益そのものにではなく、社内に留保されたお金(以下「内部留保」)に対して課税されます。

一般の会社では、利益が出た場合に株主に対して配当を行いますが、特定同族会社では、利益の配当を受け取る株主はオーナーやその親族自身です。配当所得には所得税が課税されますが、配当の時期を遅らせたり、全く配当を行わずに内部留保したりすることで所得税を納めずに、自身が経営する会社でお金を使うことができるようになります。このように、一般の会社と特定同族会社とで、課税の公平がとれないという観点から設けられた特例です。

この特例は、通常の税金対策とは違った視点が必要です。オーナー企業の経営者はまず、この特例が自身の会社に適用されるかどうか確認するようにしましょう。

2 内部留保が課税される特定同族会社とは

特定同族会社とは、次の要件の全てに当てはまる会社です。

  • 資本金の額等が1億円を超えていること。ただし、資本金の額等が1億円以下であっても、資本金の額等が5億円以上の会社に100%支配されている(完全支配関係にある)など、大会社と一定の支配関係にある会社を含む
  • 被支配会社であること
  • 上記2.の判定の基礎となる株主グループの中に被支配会社に該当しない会社が含まれているときは、その会社を除いて判定しても被支配会社に該当すること

被支配会社とは、会社の株主の1人と同族関係者(株主の親族である個人だけでなく、その株主が50%超の持株割合などを有する他の会社も含まれます)が、その会社の発行済株式総数の50%超を保有している会社をいいます。

少々分かりにくいのですが、簡単に言うと、オーナーとその親族や、オーナーの支配力の強い会社だけで過半数超の持株割合を占めている場合には、おおよそ特定同族会社に該当することになります。なお、持株割合の判断には複雑なケースも含まれることから、税理士などの専門家に確認するようにしましょう。

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3 そもそも内部留保とは

内部留保とは、利益から税金・配当金などを支払った後に会社に蓄積されたものです。実際の計算で使う内部留保と完全に一致はしませんが、貸借対照表「純資産の部」の「利益剰余金」をイメージするとよいでしょう。

内部留保という言葉から、会社に現金預金をため込んでいるような印象を受けるかもしれませんが、現金預金とは全く別物です。例えば、製造機械などの固定資産を購入した際(全額現金払いとします)には、現金預金は購入金額の全額が差し引かれますが、利益の計算では購入金額の全額は差し引かれず、減価償却費として毎年購入金額の一部が差し引かれます。そのため、購入金額と未償却部分の差額が、現金預金と利益では一致しません。

4 留保金課税制度への税務対策

資本金の額等が5億円以上である会社による完全支配関係がある場合などを除けば、留保金課税制度に対する最も有効な対策は、資本金の額等を1億円以下にすることです。これにより、中小企業者等の法人税率の特例(年800万円以下の所得について、軽減税率が適用されます)などの優遇措置を受けられるといった副次的な効果も見込まれます(これらの中小企業向け各租税特別措置の適用を受けることができるかどうかについては、別途検討が必要です)。ただし、資本金は税務面だけでなく、経営上さまざまなシーン(資金調達や取引前の与信調査など)で重要になる項目です。資本金の減額については、税務以外の専門家も交えて慎重に検討するようにしましょう。

また、設備投資を行うことにより内部留保金を減少させることも対策の1つです。ただし、設備投資は耐用年数にわたって減価償却費として費用化されるものなので、支出金額の全額が支出年度の内部留保金額からマイナスされるわけではない点に注意しましょう。

5 参考:留保金課税の計算

留保金課税の計算は非常に複雑であるため、ここでは参考として紹介します。

留保金課税に対する法人税は次の算式により計算されます。

留保金課税に対する法人税=(当期留保金額-留保控除額)×特別税率

1)当期留保金額

留保金課税の課税標準のベースとなるのは、当期の所得等の金額のうち留保された金額です。この留保金額は次の算式により計算されます。

留保金額=(所得等の金額のうち留保した金額)-{(当期の所得に係る法人税額)+(地方法人税額)+(その法人税額に係る道府県民税・市町村民税の額)}

1.所得等の金額のうち留保した金額

法人税申告書別表四の48「所得金額又は欠損金額」欄の、「留保」欄の金額です。

具体的には、まず、その事業年度の所得の金額に、受取配当等の益金不算入額、繰越欠損金の損金算入額等を加算して「所得等の金額」を求めます。

この「所得等の金額」から、その事業年度中に行った利益の配当により支出した金額、及び役員給与の損金不算入額、寄附金の損金不算入額、交際費等の損金不算入額、法人税額から控除される所得税額等の社外流出項目を減算して、「所得等の金額のうち留保した金額」を算出します。

2.当期の所得に係る法人税額

その事業年度の所得の金額に、税率(本則23.2%)を乗じて算出した法人税額(法人税申告書別表一(一)の2欄「法人税額」)から、所得税額の控除額・外国税額の控除額(法人税申告書別表一(一)の13欄「控除税額」)等を減算して、「当期の所得に係る法人税額」を算出します。

3.地方法人税額

上記2.で求めた法人税額に税率(10.3%)を乗じて、「地方法人税額」を算出します。

4.その法人税額に係る道府県民税・市町村民税の額

上記2.で求めた法人税額に税率(10.4%)を乗じて、「その法人税額に係る道府県民税・市町村民税の額」を算出します。

2)留保控除額

留保金額から差し引く留保控除額は、次の金額のうち最も多い金額となります。

  • 積立金基準額=期末資本金額×25%-期首利益積立金額
  • 所得基準額=所得等の金額×40%
  • 定額基準額=20,000,000円×当期の月数/12

3)課税留保金額

課税留保金額=当期留保金額-留保控除額

4)留保金課税に係る税額

留保金課税に係る税額=課税留保金額×10%

以上(2021年5月)
(執筆 南青山税理士法人 税理士 山嵜浩平)

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画像:Nishihama-Adobe Stock

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