書いてあること
- 主な読者:金利の仕組みについて詳しくない経営者
- 課題:円安で困っているが、円安の修正のために金利が上がるともっと困るかもしれない
- 解決策:金利の本質的な意味と、金利を決める要因を知る。金利が上がった場合の影響は、利払い額が増える、不景気になるなどが想定されるので、備えておくのが理想
1 低金利が招いた円安や物価高、では金利が上がればOKなの?
円安の影響で原材料や燃料の価格が上がり、困っている。そんな経営者の方に知っておいていただきたいのが、現在の円安の最大の要因とされている金利についてです。
現在、政策金利を上げている米国に対して、日本銀行(以下「日銀」)は低金利政策を続けています。円安の最大の要因となっている日米の金利差を縮小させるため、市場の一部には日銀の低金利政策の修正を求める声もあります。このため、市場では、2023年4月に日銀総裁に就任した植田和男氏が、「低金利政策をいつ転換させるか」に関心が集まっています。
つまり、経営者の方が今後、注目すべきことは、
金利が上がると、どのような影響が出るか
だといえるでしょう。
そこでこの記事では、金利のメカニズムと、金利が上昇したときに想定される影響について、カンタンに解説します。
2 金利は、資金需要を基準としたお金の貸し借りの費用
1)金利の上昇は、お金を借りるための費用が増えるということ
金利とは、
資金の借り手が貸し手に支払う利息の、元金に対する割合
を指します。資金の貸し借りの方法などによって、利率、利回り、割引率などの呼び方をしますが、どれも金利に含まれます。金利の本質を分かりやすくいうと、金利は、
資金需要を基準としたお金の価値
と置き換えることができます。つまり、金利が上がるということは、
資金需要が増し、お金を借りる(預ける)際に支払う(受け取る)金額が増えること
をいいます。好景気で企業の投資や個人の消費意欲が高く、資金需要が強いと、金利は上がります。しかし、金利がある程度まで上がると、お金を借りるよりも預けるインセンティブが強まるので、経済活動の停滞や、過熱した経済活動が引き締まることにつながります。
逆に、金利が下がると、お金を借りる(預ける)際に支払う(受け取る)金額は減ります。不景気で企業の投資や個人の消費意欲が低く、資金需要が弱いと、金利は下がります。しかし、金利がある程度まで下がると、お金を預けるよりも借りるインセンティブが強まるので、企業の投資や個人の消費を喚起することにつながります。
2)円安の最大の要因となっている日米の金利差
冒頭でも触れましたが、現在の円安の最大の要因は、日米の金利差といわれています。詳細は後述しますが、日本では経済成長やデフレ脱却を目的として始めた金融緩和策の一環として、低金利政策を継続しています。その一方、米国では物価上昇への対策として金融引き締めへとかじを切り、政策金利を引き上げています。このため、日米の金利差が拡大する事態となりました。
金利が高いということは、貸し手からすると、もうけが大きくなることを意味します。ですから、日本円をベースとした資産を保有している個人や企業は、保有する資産を米ドルベースで投融資するなどの運用を行うほうがもうかると考えて、資産のベースを日本円から米ドルに交換する動きが相次ぐようになります。つまり、米ドルの需要が高まり、ドル高円安に振れるわけです。さらに金利差が拡大すると、低い利率で日本円を借りて、米ドルに交換して運用する動き(円キャリー取引)が広がることで、一層の円安が進むことも考えられます。
こうした動きが広がると、通常は市場の作用によって、日本の金利が上がったり、日本円の買い戻しの動きが出たりといった「揺り戻し」が起きるものです。ですが、日米の金利差が金融政策という「意図的」な事象であり、今後も継続すると市場が判断すれば、さらに円安が進んでいく可能性があります。
3 2種類の金利が決まる要因
1)政策金利と市中金利
一口に金利といっても、金融政策との関わりで見ると、次の2種類に分けることができます。
- 政策金利:日銀が金融政策を行う際の指標とし、コントロールする金利
- 市中金利(市場金利):市場で金利が決まる金利全般。民間金融機関による貸出金利や預金金利、銀行間のコールレートなどを含む
2)政策金利は日銀がコントロール
政策金利は文字通り、日銀の金融政策によってコントロールされます。一般的に、景気が過熱気味のときには政策金利を上げ、資金需要を抑制します。反対に、景気が低迷しているときには政策金利を下げ、資金需要を喚起します。
市中金利は政策金利をベースに決まりますので、政策金利をコントロールすることで、市中金利も含めた金利全体をコントロールする仕組みになっています。
通常、中央銀行(日本の場合は日銀)がコントロールするのは短期金利のみですが、現在の日本では金融緩和政策の拡大に伴い、短期と長期の金利をコントロールする「イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)」を行っています。金利のコントロールに「時間軸」の概念を加え、長期の金利まで低金利に抑えることで、将来的な低金利までコミットする方法です。
現時点での具体的なコントロールの対象は、短期金利については、日銀への当座預金のうち、法定準備預金を超えた「超過準備預金」に対する金利をマイナス0.1%としています。一方、長期金利については、10年物国債を0%程度としています。ただし、2022年12月には10年物国債の金利の変動幅を0%程度プラスマイナス0.25%程度の範囲から、プラスマイナス0.5%程度に拡大しました。
日銀は、政策委員会による「金融政策決定会合」を年に8回開催し、金融政策の方針を決めています。会合の内容だけでなく、会合後の定例記者会見を含め、さまざまな機会に行われる日銀総裁や政策委員の発言は、足元の経済状況を日銀がどう見ているかを示すとともに、今後の金融政策の方向性を見極める上でも、市場の関係者に注目されています。
3)市中金利を決める3つの要因
企業が資金を借り入れる際の金利は、大きく分けて次の3つの要因で決定されます。
- (貸し手側の)資金調達コスト
- 信用リスク
- 金利上昇リスク
資金調達コストは全ての借り手に共通する要因であるのに対し、信用リスクや金利上昇リスクは、個別の借り入れの条件や借り手の信用力によって大きく変わってきます。
1.(貸し手側の)資金調達コスト
貸し手である金融機関が、貸し出しに充てる資金を調達する際のコストです。調達先は日銀、他の金融機関、預金者などですが、いずれも政策金利のコントロールによる影響を強く受けるものなので、基本的に政策金利に連動するといえます。
また、一般的に資金の借入期間が長期になるほど、調達コストが高くなります。今後の経済やインフレ率などの不確定要素が多いため、リスクを織り込む必要があるからです。その他、調達コストには金融機関の人件費や事務経費なども含まれます。
2.信用リスク
貸し手が借り手から資金を回収できなくなるリスクです。信用リスクには大きく分けて、借り手の現時点または近い将来における信用力と、完済に至るまでの信用力の2つがあります。
借り手の現時点または近い将来の信用力を見る数値としては、「既に借り入れている金額」「事業の状況(売上高、利益、業界動向など)」「返済状況」「差し入れる担保」などが挙げられます。いずれも「返済できる能力があるのか」を判断することができる数値といえます。ムーディーズやS&P(スタンダード&プアーズ)といった格付け機関による格付けは、こうした数値を基に、借り手の信用状況をランク付けしたものです。
また、貸し手が取るリスクによっても金利は変わってきます。例えば、消費者金融のように「短時間の審査ですぐに貸し出す」「担保は取らない」といったように、借り手が資金を借り入れる際のハードルが低く、さらに回収不能となるリスクが高い場合などは、金利が10%台後半になることもあります。一方で、住宅ローンのように「審査に時間がかかり、通らない場合も多い」「担保の資産価値が高い」といったように、借り手が資金を借り入れる際のハードルが高く、さらに回収不能となるリスクが低い場合などは、金利が低くなる傾向があり、1%未満で貸し出されるケースもあります。
完済に至るまでの信用力に関しては、借入期間が長期にわたる場合、現時点では返済する能力があっても、将来も引き続き同じように返済できるとは限らないリスクがあります。これは、経済環境の変化に伴う経営状況の悪化、地価下落や天変地異などによる担保価値の下落といった、返済能力を損なうであろう不確定要素があるためです。借入期間が長くなるほど、このようなリスクが高まるため、リスクを織り込んで金利も高くなります。
3.金利上昇リスク
固定金利で貸し出しを行った場合、借入期間が長期になればなるほど、将来金利が上がった際に、貸し手がその金利上昇分の利益を獲得できないというリスクが高まります。貸し手はこのようなリスクに備えるため、固定金利で長期に貸し出す際は、変動金利や短期の貸し出しに比べて金利を上乗せするのが一般的です。
4 金利が上がった場合の影響
ここでは、一般的にいわれている、金利が上がった場合の影響について紹介します。ただし、現在の金利は金融政策によって影響を見ながらコントロールされており、金融政策以外の経済政策を併用することで影響を軽減させることも想定されます。また、例えば「想定していたよりも金利が上がるペースが遅い」など、市場の思惑によっては反対方向に影響する可能性もありますので、紹介することが必ず起きるとは限りません。
1)“金回り”が悪くなり不景気になる
金利と景気は密接に関わっています。好景気で金利がある程度まで上がれば、過熱した景気を抑制する効果が働きます。逆に景気が悪く金利がある程度まで下がれば、企業の投資意欲や個人の消費意欲を喚起する効果が働きます。
従って、金利が上がった(中央銀行が政策金利を引き上げた)場合は、借り入れよりも預金のインセンティブが働きますので、いわゆる“金回り”が悪くなり、景気が停滞に向かう可能性があります。
2)金融機関からの借入金の利払い額が増える
金利が上がるということは、変動金利で融資を受けている場合、利率が上がりますので、利払い額が増えることになります。多額の借り入れを行っており、利払いが負担になるのであれば、一部を早期に返済することを検討してもよいでしょう。逆に余剰資金を預金や国債などで運用している場合は、利子所得が増えることになります。
固定金利で借り入れをしている場合、金利が上がると「得をする」ことになります。極端な例で説明すると、金利が上がったことで、預金をする際の利率が、低金利のときに借り入れた利率を上回るようになったと考えてみましょう。この場合、借り入れの返済は極力遅らせて、返済する分を預金することで、「利ざや」を得ることができます。
一方、これから借り入れを予定している場合は、金利が上がると、従来よりも多い利払いを求められることになります。たとえ固定金利であっても、今後金利が上がるとの懸念があれば、貸し手側は今後の金利上昇リスクを織り込んだ利率を求めます。
3)物価が下落する
前述のように、金利が上がると、景気が減速すると同時に市中に出回るお金が減り、人々が「今はお金を使うよりも、預金しておいたほうが使えるお金が増えるので得だ」と考えるようになるため、物価が下落することになります。
金利と物価に関しては、逆に物価が金利に影響することもあります。例えば、インフレ(物価上昇)懸念が出てきた場合、金利は上がります。貸し手側は、「今後もインフレが進む見通しなので、返済までに通貨の価値が下がる分も利子で埋め合わせなければならない」と判断するからです。また、固定金利で借り入れをした後にインフレが進行した場合、借り手側は実質的な返済額の(価値の)減少になります。
金利をコントロールすることで、物価を操作する金融政策も行われています。米国が利上げを進めている理由は、物価の上昇を抑えることにあります。金利を上げることで景気は減速に向かいますが、インフレを抑制する効果を得ることができます。
一方、日銀の植田総裁は、物価上昇の見通しが大きく変われば、金融政策の変更につながってくるとの発言をしています。
4)株価が下落する
金利が上がることで景気が減速し、企業の業績にマイナスに影響するとともに、投資家など資金保有者が投資先を株式から預金などへとシフトさせる動きが進みます。このため、金利が上がると、一般的に株価は下落する方向に向かいます。
5)円高になる
これまで触れてきたように、現在の円安は、日本の金利が米国など海外に比べて低いことに起因しています。日本国内の金利が上がると、円安から円高に転じる可能性があります。輸入型産業や原材料および燃料などを輸入に多く依存している企業にとってはプラスですが、輸出型産業などにとってはマイナスになります。
以上(2023年9月更新)
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画像:Doubletree Studio-shutterstock