書いてあること

  • 主な読者:予算管理を自社に取り入れたい、あるいはしっかり取り組みたい経営者や財務担当者
  • 課題:実績が目標に達成する見込みがあるかは確認するが、ただそれだけで終わってしまう
  • 解決策:確認作業をもとに次の経営判断につなげるための「分析」が必要。中小企業は、まず比較分析を行って経営判断につなげる

1 予算の分析は比較

予算を作成し、月次の実績を出せるようになったら、そのデータを活用して分析をします。予算を作る目的は、達成したい目標を数字として明確にすることにあります。そのため、実績が出た段階で、目標が達成できたか、または達成が見込めるかを確認することが大切です。こうした確認作業をもとに、次の経営判断につなげるための「分析」は重要なステップです。

分析と聞くと、ROE(株主資本利益率)、営業利益率や回転期間といった「経営指標分析」を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、経営指標分析はその性質上、月次の数値では変動することは多くありません。また、中小企業の場合は、ビジネスモデルがシンプルな一方で、それぞれの会社の個性が強いことから、他社や業種別の経営指標と比較しても意味をなさないというケースもしばしば見られます。

他社や業種別の経営指標と比較するよりも、

自社の予算や前期実績との比較により実態を把握していくことのほうが、経営者の狙い通りに進んでいるかどうかを判断する上で意味がある

のです。そのため、この記事では、皆さんにより身近な予算や前期実績との「比較分析」を見ていきます。経営指標分析が「割り算」の手法としたら、比較分析は「引き算」の手法です。

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比較分析は、「2つの数値の差額を出してその理由を探る」という、とてもシンプルな手法です。もしかしたら、そのシンプルさと身近さゆえに物足りなく感じるかもしれませんが、実は、

比較を制するものは分析を制する

のです。

比較は、予算管理のみならず、数値管理全般の鉄板技といえます。データサイエンティストの方から、「分析とは比較である」という言葉を聞いたことがありますが、全く同感です。

例えば、当期の実績数値だけでは、それが多いか少ないか、長年の動向を知っているベテラン社員でもない限り、すぐに把握することは難しいでしょう。実数だけ、今、目の前にある数字だけだと、情報としては不十分なケースも多いのです。

しかし、予算や前期実績のような参考となる数字と比較、つまり、その「差異」に注目すれば、当期の実績数値が多いか少ないかがすぐに分かります。そうすると、会社の事業や経理に詳しくない人でも、その増減を通じて実態に迫ることができるようになるのです。

予算でいえば、前期実績、前期予算と比較することで、当期の予算が高い目標(難しい目標)なのかどうかも分かります。

2 「自社流」の利益

次に、予算管理において経営者が注目する指標ですが、やはり利益は外せません。ただ、利益は利益でも、オーナー会社の場合、

税引後利益に役員報酬や減価償却費を足した調整後の利益

が経営者に重宝されることがあります。予算管理の分野では、一般的に使われる利益(損益計算書上の利益)ではなく、自社の目的に応じてアレンジした利益を使うのもアリなのです。

では、なぜ役員報酬を足した利益が重宝されるのでしょうか。オーナー会社では、役員報酬を業績に応じて毎年改定するところが多いものです。例えば、利益が上がりそうであれば、役員報酬を増やすという具合です。すると、会社の事業の純粋なもうけを見る場合、役員報酬を足し合わせたほうがブレは少ないということになります。

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前期が25,000千円の税引後利益であるのに対し、当期は15,000千円で減益のように見えます。しかし、役員報酬を足し戻すと、前期も当期も同じ35,000千円の調整後利益となります。

では、減価償却費を足した利益は何の役に立つのでしょうか。答えは「資金繰りを簡易的に示す材料として使える」です。減価償却費は、会計上は費用ですが、実際にお金がそのときに出ていくものではありません。そこで、減価償却費の金額の分だけ利益に足し戻すことで、手元に残る資金がおおむね把握できるのです。

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利益が5,000千円で、減価償却費が3,000千円であれば、合計8,000千円を借入金の返済原資として使えるということになります。

どのような視点で判断したいのかを踏まえた上で、適切な指標を使うことが大切です。すでに使っている指標、または一般的に使われている指標ももちろん候補にはなりますが、自分の会社の実態に合うかを必ず判断するようにしてください。その上で目的に応じて、先ほどのようにアレンジするとよいでしょう。

3 (担当者向け)経営者への報告で大切な3つの「使わせない」

最後に財務担当者向けに、経営者への報告で大切なポイントを3つ紹介します。経営者に、経営判断に集中してもらうためのポイントと考えてください。

1)経営者に「時間を使わせない」

経営者は、スピードを重視します。一方、経理・予算管理の作業をする財務担当者には丁寧な人が多く、検討した順番に細かい内容も正確に伝えようとする傾向が強いように感じます。その結果、経営者がイライラしてしまうこともあるようです。

限られた時間を有効に使うために、経営者が気になることをテンポ良く伝えていけるようにしましょう。そして、やはり時間を使わせないために、なるべく経営者が知りたいことを優先して話すように心掛けましょう。

2)経営者に「頭を使わせない」

数字だけを淡々と述べてしまうと、その意味合いを経営者自身が頭で考え始めてしまいます。口頭では、「良いか悪いか」の結論を重視して説明しましょう。数字が必要であれば、そのときに資料に目をやればよいのです。資料の冒頭に「良いか悪いか」の結論を書いたサマリーを付けるというのも、頭を使わせないための対処法の1つです。

また、口頭で報告する場合には、専門用語に注意しましょう。例えば、「法定福利費」という勘定科目名は、難しい印象を与え、すぐに理解できないことも多いものです。このため、経営者になじみのある「社会保険料」と表現して伝えることも大切です。要は、通訳、翻訳をするということです。私も、経理では当たり前の売掛金や買掛金という用語を、社長と話す際には「未収」や「未払」と言い換えています。経営者の会計・税務知識も一様ではないので、相手に合わせてムダに経営者に「頭」を使わせないようにしましょう。

3)経営者に「気を使わせない」

これは「頭を使わせない」に近いのですが、経営者の気を散らさないように配慮することを意味します。例えば、数字を間違えない、資料の流れは左上から右下へ、字は大きめにする、資料の配色はモノトーン(黒や白やグレー)を使用するなど、資料の形式面に関する注意を徹底して守るだけでも、かなり効果があると感じます。

以上(2025年1月作成)

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