書いてあること
- 主な読者:予算管理を自社に取り入れたい、あるいはしっかり取り組みたい経営者や財務担当者
- 課題:予算が数字の寄せ集めだけで終わってしまう会社は少なくない
- 解決策:予算作成の前の段階でKPIの種類を特定し、具体的な数値を設定する
1 KPIでメンバーの行動を導こう
これまで7回にわたって続いてきた【中小企業の予算】シリーズも、今回で最後となります。今回の重要なキーワードが「KPI(Key Performance Indicator)」という言葉ですが、皆さん、聞いたことはありますか。
KPIとは、業績に大きな影響を与える数字
のことです。KPIの代表例といえるのが、
- 営業部門であれば、販売単価や販売数量
- 製造部門であれば、歩留まり率や機械稼動率
です。
例えば、販売単価をKPIとして設定し、通常の販売単価が100円の会社が、「来年度は10%アップの110円にすることを目指そう」と目標を立てたとします。メンバーは、販売単価を110円にすることを目指して活動します。従来よりも単価が高い商品を積極的に売る人もいれば、これまでよりも値引き幅を抑えようと、得意先と交渉する人もいるでしょう。
このように、KPIには、何を、どれくらい頑張ったらいいのかをブレなくメンバーに理解してもらうことで、メンバーが取るべき行動が正確に共有できるという効果があります。そのため、
予算を作成する前の段階でKPIの種類を特定し、具体的な数値を設定すること
がとても大切になります。
例えば、売上高という漠然とした水準ではなく、売上を「単価」と「数量」に分けることによって、単価を上げるのか、数量を上げるのかを明確にし、それぞれに紐づいた行動に結び付けていきます。こうした具体的な数値の設定は、年度途中の早い段階で予算に対する進捗度合いを確認することが可能になります。
2 社内で重要視している指標がKPI
シリーズ第2回(【中小企業の予算(2)】予算「損益計算書」の数字の作り方)で、掛け算型と足し算型の話をしました。この掛け算型の構成要素が、KPIになることが多くあります。一番イメージしやすいものが、上記の例で挙げた売上を「単価」と「数量」に分けることです。
ただ、ここでは計算の構成要素として「単価」と「数量」を管理するだけではなく、一歩進んで個別に目標設定をした上で直接担当者と共有したり、年度途中でも進捗度合いを確認したりして、KPIとしての管理を考えます。
売上以外にも人件費をはじめとする会社にとって重要な科目について、その関連する構成要素(最終的な利益や作業の効率化に貢献するものなど)をKPIとして抽出して予算に組み込み、日々管理していくのです。ここで、業種別の主なKPI例を紹介します。
では、KPIは、どのように選べばよいのでしょうか。取り組みの手順としては、
まず会社で従来大切にされてきた指標が何かを特定する
ことがおすすめです。社内で実際に使われている指標のほとんどは、長年の経験から業績向上につながると判断できるものです。もちろん、新たに業績向上につながる指標があれば追加してもかまいません。その際、「そのKPIは頑張れば達成できる性質のものなのか」「複数の類似する指標がある場合には、どれが最適な指標なのか」といった点に注意が必要です。
3 KPIのトレード・オフには気を付ける
重要な業績指標として管理していくKPIは、1つとは限りません。KPIを複数設定する場合は、およそ5つまでにしたほうが把握・管理がしやすいと思います。その場合には、優先順位を付けるようにしましょう。
さらに、KPI同士の関係にも注意が必要です。一般的に販売単価を下げれば、販売数量が伸びる傾向があるため、販売単価と販売数量はトレード・オフの関係(どちらかが良くなれば、どちらかが悪くなる関係)にあるといえます。
ここで「販売単価も上げてください」「販売数量も増やしてください」というメッセージとして、営業担当者に伝わってしまうと、どちらを優先していいかが分からず、業務目標の方向性がバラバラになってしまいます。KPIは、メンバーの行動を方向付けるためのツールです。このような矛盾が発生しないように注意しましょう。
ただ、トレード・オフの関係にあるKPI両方の達成はムリなのかというと、そうとも限りません。ある外食チェーンでは、まず客数の増加を目指し、低価格の商品を多く販売しました。そして、一定の客数を確保したところで、高価格の商品を開発して、販売単価を上げる目標にシフトしたことで、販売数量と販売単価の両方を高く達成することができました。つまり、タイミングをずらすことが攻略法になります。
4 KGIにつなげるための非財務KPI
最近耳にする言葉に、KGI(Key Goal Indicator)があります。これは、
業績に重要な達成すべき目標
で、ほぼ予算と同義となります。営業部署でいえば、KGIが売上予算となり、主なKPIとして単価や数量があります。予算の作成前にKPIを設定する際、KGIに引っ張られて、
決算数値には直接関係するKPI(以下「財務KPI」)
に分類される項目である単価や数量を頭に思い浮かべがちです。特に、予算作成の担当者が決算数値を扱う財務系の部署であれば、なおさらです。ただ、営業部門のメンバーにとって財務KPIは、日々の目標としては管理しづらく、イメージしづらいことも多くあります。そこで、訪問件数、提案書の提出件数などの、
決算数値には直接関係しないKPI(以下「非財務KPI」)
を用いることを考えます。営業フェーズ別の主なKPI例を見てみましょう。
上の図表のように、売上につながる業務を細分化することで、KPIになり得る指標が見えてくることも押さえておきましょう。
非財務KPIは、メンバーには身近な数字であるため、理解しやすくなります。特に、経験が浅いメンバーであれば、販売数量を増やすように努力するよりも、訪問件数を増やすほうが分かりやすいので、頑張れるということになるのです。
以上(2025年2月作成)
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