経営が軌道に乗り、利益が出るようになってくると、経営者の悩みの1つに「税金」が加わります。
企業にかかる税金のうち、最もポピュラーなのは、1年間の企業の業績(利益)に対してかかる法人税でしょう。
経営者は「利益」を上げるために頑張るといっても過言ではありませんが、実際に、利益が出始めると、今度は法人税等の負担が大きくなってきます。そうなると、利益をいかに抑えるかという「決算対策」も経営者の課題として避けては通れないものとなるのです。
決算対策とは、「利益を抑えること、つまり損金を増やすこと」とも言い換えられます。ただし、損金は、税務上の費用のことであり、会計上の費用とは完全に一致しません。そのため、決算対策を検討する際には、正確な税務の知識が必要になります。
ここでは、スタートアップ企業など起業後あまり時間がたっていない企業でも活用できる基本的な決算対策の概要を紹介します。
1 基本的な決算対策
1)中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)の利用
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)とは、取引先の予期せぬ倒産による連鎖倒産から中小企業を守るために作られた共済制度です。急に取引先が倒産して売掛金が回収できなくなったような場合に、お金を貸してもらえます。この共済に支払う掛け金が利益を抑える損金(税務上の費用)となるので、有効な決算対策となります。
掛け金は月額5000円から20万円までで、1年分の一括支払いも可能です。さらに12カ月以上掛け金を納付していれば、解約した場合に掛け金の納付月数に応じて掛け金総額の75~100%が戻ってきます。
2)賞与の支給
賞与も有効な決算対策の1つとなります。賞与は一般的に役職等に関係なく企業の役員・従業員に支払うイメージですが、税務上は役員に支払うか、従業員に支払うかで取り扱いが異なってきます。
役員へ支払う賞与は、事前に税務署へ届出書を提出することが義務付けられています。決算が近くなり、利益が多額に出ている場合などに、役員賞与で不当に利益を減らすことができないようにするためです。届出書に記載している内容と実際の支給内容が一致して初めて、損金として利益を減少させることができます。そのため、届出書に記載している内容と少しでも差異が生じた場合には、その支給額全額が損金とならないので十分な注意が必要です。
一方で、従業員に対する賞与は、事前に税務署への届出は不要です。
実際にその事業年度中に従業員に賞与を支払っている場合はもちろん、決算時点で未払いであっても、次の3要件を満たすことで損金とすることができます。
- 同時期に賞与を支給する全員に支給額を通知すること
- 決算を終えた翌日から1カ月以内にその通知した金額を支給すること
- 未払賞与を決算書に計上すること
従業員に対して賞与を支払えばモチベーションアップも期待でき、経営上の好影響も見込めます。役員賞与と比べて事務手続きは煩雑ではないので、利益が出た場合(見込みとなった場合)には、従業員に対する賞与(決算賞与)を検討してみましょう。
3)少額固定資産の購入
会社が軌道に乗ってきたら、事務所の設備にも投資をしたいと考える経営者は多いのではないでしょうか。設備が充実していれば働く人のモチベーションも上がりますし、作業の効率も良くなることが考えられます。
では、事業に供する備品などを購入した場合には、利益や税金にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
建物、建物附属設備、機械装置、車、器具備品などを総称して「固定資産」といいます。一般的に固定資産は、数年かけて損金処理(減価償却)していきます。つまり、固定資産購入時にキャッシュは一度に出ていきますが、損金にはその一部しか計上できないため、支払金額の割には利益が減少しないという計算上の事象が生じます。
しかし、青色申告法人である中小企業者等は少額固定資産の特例というものがあります。購入価額(付随費用を含む)が一式当たり30万円未満の固定資産については、その購入価額の全額をその事業年度の損金とすることができるのです。
1事業年度中に総額300万円まで適用可能なので、利益が出た場合(見込みとなった場合)には、ノートパソコンやデスクなどの備品を購入し、オフィス環境などを充実させてみてはいかがでしょうか。
4)役員社宅
皆さんは役員社宅という言葉を耳にしたことはありますか。役員社宅とは、法人が居住用物件を賃借して、その法人の役員に貸すことです。法人は役員から一定額の賃料を徴収することが義務付けられています。
この役員社宅ですが、法人と役員それぞれにメリットがあります。
法人では支払賃料の一部が損金に計上できるので、法人税を減少させることができます。役員のほうでは通常の金額より安く家を借りることができるので、自分で契約するよりも手元に残るお金は増えます。また、給与として支給されるわけではないので、多額な所得税を納める必要もありません。
現状、役員個人で契約している場合でも、契約更新のタイミングなどで、法人契約に切り替えてみてはいかがでしょうか。
5)生命保険の活用
契約者が法人となり経営者を被保険者とするなどして、生命保険に加入するという決算対策があります。生命保険の主目的である有事の際の備えという意味合いはもちろん、保険の種類によっては保険料の全額を損金にでき、決算対策が期待できます。
ただし、2019年6月に保険料に関する税務上の取り扱いについて改正が行われました。今回の改正では、従来の個別通達が廃止され、「定期保険等の保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合の取扱い等」が新設されました。ポイントは、保険商品の種類ごとではなく、解約返戻率を基準として支払保険料のうち、資産計上すべき割合と損金計上すべき割合が示されたことです。なお、2019年7月8日以後の契約に係る定期保険について適用され、それ以前に契約したものは適用されません。
また、返戻金を受け取った場合には、多額の収益が生じる(利益が増える)ことがあるため、新たな対策を講じる必要があります。
このように生命保険は効果的な対策である一方、活用の仕方が難しい決算対策でもあります。保険会社や税理士等に確認して、有利なものを選択するようにしましょう。
2 専門家と相談し自社に最適な決算対策を
今回は、法人の決算対策の代表的なものについて解説しました。税金は毎年発生するので、今回の対策のうち可能な部分については検討すべきでしょう。ただ、とっさに対応できる決算対策は多くありません。決算直前に対策を思い立っても要件を満たさなかったり、効果が十分に得られなかったりすることもあります。あらかじめ、タックスプランを作成し、それぞれの対策に応じた正確な事前準備が必要です。また、自社に最適な決算対策を講じるには、資金繰りや資産の保有状況などの視点や専門的な知識を要するので、税理士等の専門家に相談されることをお勧めします。
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