書いてあること

  • 主な読者:これから原価計算を勉強する中小企業の経営者や従業員
  • 課題:財務会計PLだけでは、自社の体質などは分析できない
  • 解決策:管理会計PLをもとに、CVP分析・損益分岐点分析を行い、自社の売上と利益の関係などを把握する

1 「変動費」と「固定費」を分ける管理会計PLのカタチ

今回は、管理会計の損益計算書(以下「管理会計PL」)を見ていきます。管理会計PLと聞いて身構える必要はありません。なぜなら、管理会計PLの話は前回から始まっています。変動費と固定費を分けた損益計算書のカタチが、管理会計PLです。

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普段見慣れている財務会計の損益計算書(以下「財務会計PL」)からおさらいしていきましょう。まず、売上高、そこから製造活動の費用である売上原価を引いて、売上総利益を出します。この売上総利益は粗利(アラリ)とも呼ばれ、経営者が気にする代表的な利益の一つです。粗利から販売費及び一般管理費(以下「販管費」)を引いて、営業利益を出します。

次に、管理会計PLです。

管理会計PLでは、売上高から引く売上原価と販管費を変動費と固定費に分ける

というのが特徴です。そして最初に、売上高から変動製造原価と変動販管費といった変動費を引いて、限界利益を出します。

この限界利益から固定製造原価、固定販管費といった固定費を引いて、営業利益を出します。売上高と営業利益は財務会計PLと同じ金額になります。実務的なコツとして、

限界利益によって固定費を回収する感覚

を持っていただくと良いでしょう。固定費というのは売上高が増えても減っても変わらないので、決まった額が発生します。それを売上高に連動する限界利益で回収していきます。限界利益で固定費を全額回収すれば、その先の売上で利益が発生していくのです。

この管理会計PLの例で、変動費1500万円を売上高4000万円で割ると、0.375。この会社の売上に対する変動費の割合(変動費率)は37.5%となります。

また、限界利益2500万円を売上高4000万円で割ると、0.625。売上に対する限界利益の割合(限界利益率)は62.5%となります。

管理会計PLは、費用を変動費と固定費とに分けて、売上高から変動費を先に引いて、限界利益を出すというのが肝になってくるのですね。

上記のケースでは、次のことがいえます。

  • 「限界利益率が62.5%ということは、売れて手元に残るのは約6割だけ」
  • 「固定費が1700万円ということは、これを必ず回収しなくてはいけない」

自社の変動費と固定費を計算し、管理会計PLを作るだけではもったいないので、ぜひ、

その先にある数字の「意味合い」にまで落とし込むこと

が、会計の活用につながります。

2 CVP分析で売上高の変動に対する利益の変動が分かる

続いて、変動費と固定費を分けることによってできる「分析」について説明していきます。皆さんは、「CVP分析」や「損益分岐点分析」という言葉を聞いたことがあると思います。どちらもほぼ同じ意味であることが多く、ここでは「CVP分析」と呼ぶことにします。

CVP分析は自分の会社の「体質」を把握することに役立ちます。特に、会社の利益が出るか出ないかが容易に分かる損益分岐点売上高を求めることができます。損益分岐点売上高とは、

売上高と費用が一致して、利益がプラスマイナス0、トントンになる売上高

のことをいいます。さらには、売上が上がったり下がったりした場合に、利益への影響がどのくらいあるかということもCVP分析を通じて分かります。

例えば、A社とB社の売上が、ともに10%下がったにもかかわらず、A社の利益は25%も下がり、B社の利益は15%だけ落ちていました。なぜこのようなことが起こるのかを知るにも、CVP分析は役立つのです。

自分の会社はA社とB社のどちらに近いのかをあらかじめ把握しておくことはとても大事です。つまりは、売上高が減少した場合に、利益がどれだけ減ってしまうかを把握すると言い換えることもできます。

3 どっちが利益を出しやすい体質か?

CVP分析は、ざっくりいえば、

費用、売上高、利益の3つの関係を把握して、将来の予測をしましょう

ということです。費用、売上高(営業量)、利益を英語でいうとCost(コスト)、Volume(ボリューム)、Profit(プロフィット)となります。この頭文字を取って「CVP分析」と呼びます。まずは、前提知識のおさらいです。

  • 利益=売上高-費用 
  • 費用=変動費(※)+固定費 ※変動費は、変動費率×売上高

利益は、売上高から費用を引くことで求められます。この費用を売上高に連動する変動費と、売上高に連動しないで決まった額が発生する固定費とに分けます。そして、変動費は「変動費率×売上高」として表し、これに固定費を足すと費用になります。ここでいう変動費率とは、売上高に対する変動費の割合のことをいいます。

それでは、イメージ図を見てみましょう。

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横軸を売上高、縦軸を金額とします。ここに、売上高と費用の線を引いています。これがCVP分析のイメージ図になります。

まず、斜め45度の線が、売上高線となります。横軸の売上高1に対して、縦軸の売上高の金額も1になるので、角度が45度の直線で表されます。

次に費用を見ていきます。売上高が0のところでも発生している部分が固定費になります。固定費は売上高0円でも1000万円でも、同じだけ発生します。これに対して、変動費は売上高が増えれば連動して増加します。このため、固定費の上に「売上高×変動費率」で計算される変動費が乗っかるように引かれた斜めの線が、費用線となります。

売上高が1増えるのに対して増加する変動費の割合が変動費率になり、費用線の傾きになります。例えば、売上高100に対して仕入などの変動費が35のときは、変動費率が35.0%となり、費用線の傾きは35度となります。

この売上高線と費用線が交わるところが損益分岐点売上高です。売上高と費用が同じ額になり、損益がトントンになる売上高を表します。

ここでポイントとなるのは、変動費は売上高との比率(%)で見るのですが、固定費は額でみるところです。変動費と固定費のバランスがどのように利益に影響するのか、次の2つの特徴を理解しておきましょう。

  • 変動費の割合が高い場合、固定費が少ない分、少ない売上でも利益が出ます。しかし、損益分岐点売上高を超えても、変動費が多くかかるので、売上が増加する割に、利益はあまり増えなくなります。
  • 固定費の割合が高い場合、固定費が多い分、多くの売上を上げないと利益が出ません。しかし、損益分岐点売上高を超えると、変動費が少ないので、利益が大きく増えていきます。

具体的に考えてみましょう。グラフのA社とB社は、現在、同じ売上高と同じ利益を出しています。

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しかし、グラフの(1)を見ると、固定費の金額を表す切片(左側の縦軸と直線が交わる点)がA社の方が上にあることから、固定費はA社の方がB社よりも高いことが分かります。一方、2本の直線の傾き(グラフの(2))を見ると、A社の傾きの方が緩やかなので、傾きが示す変動費率は低いことが分かります。

このことが示す意味合いはとても大事ですので、ぜひ理解してください。

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まず、固定費が高額で変動費率が低いA社は、売上が少ないうちは利益がなかなか出ません。グラフからも、売上を示す直線が下方向に遠く離れていることで、損失が多いことが分かります。一方、売上が増え、損益分岐点売上高を超えてからは逆です。今度はA社の直線よりも売上の直線は上方向に遠く離れますので、利益が多く上がるようになるのです。

つまり、A社は固定費が多い分、初めは利益を出しづらいのですが、売上が増えてくると一転して、利益が出やすい体質となります。

B社は逆です。固定費が少ないため、初めから利益が出やすいのはうれしいものの、売上が増えてくると、利益がA社に比べて伸びないのです。

4 固定費と変動費では同じ経費削減でも効果が違う?

ここで費用を削減した場合の、CVP分析のイメージ図を見てみましょう。

1)固定費を削減した場合

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固定費を削減した場合は、費用線がその分だけ下に動きます。このため、損益分岐点売上高も下がり、縦軸で表される利益も、固定費の削減額だけ増えます。例えば、現状では、工場の敷地に余分なスペースがある場合に、適切な広さのところに引っ越すというようなことが考えられます。

2)変動費を削減した場合

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変動費を削減した場合は、売上高に対する変動費の割合、変動費率が下がります。このため、費用線の傾きが緩やかになります。これにより、やはり損益分岐点売上高が下がります。そして、売上を増やすほどにその効果は上がっていきます。例えば、比較的安価な海外メーカーの材料に切り替えるなどが当てはまります。

このように、CVP分析のグラフを見ると、変動費の削減と固定費の削減はそれぞれ違った意味合いを持つことが分かります。

以上(2024年2月更新)

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画像:Shutter z-shutterstock

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