書いてあること
- 主な読者:生命保険を使って役員退職金の準備をしたい経営者
- 課題:具体的な商品の特徴や税務上のルールを知りたい
- 解決策:生存退職金と死亡退職金に対応し、退職時期もイメージしながら決定する
1 事前に準備をしないと経営を圧迫する
役員退職金は多額なので、事前に支払い準備をしておかなければなりません。それは、
退職時に準備をせずに払ったり、借入金で賄ったりすると、自社の経営を圧迫するケースがある
からです。それに、根拠なく勝手に決めると、税務上で否認される(損金に算入できない)恐れがありますし、そうした前例をつくることはガバナンス的にも好ましくありません。
役員退職慰労金には、生存しているうちに本人が受け取る「生存退職金」と、在任中に亡くなった場合に遺された家族が受け取る「死亡退職金」とがあり、この点も考慮しておく必要があります。
この記事では、中小企業で一般的な生命保険を活用した準備方法についてご紹介します。生命保険を活用すると、契約内容にもよりますが、保険料の一定割合が損金算入できるなどのメリットがあります。
2 生命保険を活用した準備
1)定期保険
定期保険は、
一定期間内に被保険者が死亡した場合に死亡保険金が支払われるもの
です。保障期間の満期時の満期保険金はありません。
契約形態が、
- 契約者:法人
- 被保険者:役員
- 死亡保険金の受取人:法人
の場合、支払保険料の税務上の取り扱いは、解約返戻率がピークに達するときの割合(最高解約返戻率)によって次のように異なります。
2)第三分野保険
第三分野保険は、
医療保険、がん保険、介護保険などが該当し、被保険者が病気やけがをした場合に保険金・給付金が支払われるもの
です。定期保険と同様に保障期間の満期時の満期保険金はありません。
支払保険料に対する税務上の取り扱いは、保険の種類によって次のように異なります。
- 定期:定期保険と同じ取り扱い
- 終身(全期払い。保険料を一生涯払い続けるもの):定期保険と同じ取り扱い
- 終身(短期払い。保険期間よりも短い期間で保険料の支払いが終了するもの):年間保険料によって異なる
定期保険と取り扱いが異なる終身(短期払い)のものに係る税務上の取り扱いは、次の通りです。
3)養老保険
養老保険は、
被保険者が死亡した場合は死亡保険金、保険契約期間が満期となった場合は満期保険金が支払われるもの
です。途中解約の場合は解約返戻金が支払われます。契約時に設定した保険金額がそのまま満期時の受取金額(満期保険金額)となるので、何年後にいくら受け取れるかが明確です。生存退職金と死亡退職金のいずれにも備えることができます。
通常、養老保険の保険料は全額を資産計上しますが、契約形態が、
- 契約者:法人
- 被保険者:役員・従業員全員(普遍的加入)
- 死亡保険金の受取人:被保険者の遺族
- 満期保険金の受取人:法人
の場合、福利厚生費として支払保険料の1/2を損金算入できます。
一方、養老保険を使って役員退職慰労金(生存退職金)の準備をする場合、役員の退職時期が当初の予定より延期されると、会計上、満期保険金(保険料積立金等の資産計上額を取り崩して受け取った保険金との差額)は収益(益金)となります。
養老保険の支払保険料の取り扱いは次の通りです。
【養老保険の支払保険料の取り扱い】
法人が契約者となり、役員又は使用人を被保険者とする養老保険に加入して支払った保険料は、保険金の受取人に応じて次の通り取り扱われます。
1.死亡保険金及び生存保険金の受取人が法人の場合
その支払った保険料は、全額資産に計上します。
2.死亡保険金の受取人が被保険者の遺族、生存保険金の受取人が被保険者の場合
その支払った保険料は、被保険者である役員又は使用人に対する給与として損金に算入します。ただし、役員給与には、損金算入に関する種々の制約があるので注意が必要です。なお、給与とされた保険料は、その役員又は使用人の生命保険料控除の対象となります。
3.死亡保険金の受取人が被保険者の遺族、生存保険金の受取人が法人の場合
その支払った保険料のうち、1/2に相当する金額は資産計上し、残り1/2に相当する金額は期間の経過に応じて損金に算入します。ただし、役員又は部課長その他特定の使用人のみを被保険者としている場合には、それぞれ役員又は使用人に対する給与になります(給与とされた保険料の取り扱いについては上記2.と同様となります)。
なお、持病で養老保険に加入できない場合や、「入社半年以上の社員」など客観的で合理的な基準に基づく制度導入の場合は、普遍的加入とみなされます。基準については、顧問税理士や保険会社担当者などに相談するとよいでしょう。マイナス金利が導入された現在、養老保険は必ずしも有利な選択ではなくなってきました。払い込んだ保険料と比べて、満期保険金のほうが少ないことがほとんどです。
(注)傷害特約などの特約があり、その特約部分の保険料の額が生命保険証券などで区分されている場合は、その特約部分の保険料の額を期間の経過に応じて損金の額に算入します。ただし、役員又は部課長その他特定の使用人のみを傷害特約等に係る給付金の受取人としている場合には、その特約部分の保険料の額は、その役員又は使用人に対する給与とします。
以上(2023年2月)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)
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