書いてあること
- 主な読者:感覚だけでなく、定量的な基準や根拠を持ってビジネスの判断をしたい人
- 課題:多額の資金が必要になる投資の判断は難しく、数字での裏付けがほしい
- 解決策:計算が簡単な回収期間法を用いる。初期投資額、投資後の見込みキャッシュ・フロー、目標となる投資回収期間の数値から、投資の要否判断を下す
1 質問:その投資、回収できる根拠はありますか?
工場の新設や機械の購入など大型の投資には、多額のお金が必要です。そのため、会社全体の資金繰りを考え、慎重に進めていかなければなりません。このような投資意思決定時に使われる管理会計上の手法のうち、最も簡単なものが「回収期間法」です。
回収期間法とは、
投資したお金が何年間で回収できるかを計算し、その年数で投資を行うかどうかで判断する方法
です。この手法には、
- 設備の購入価額など初期投資額(見積書などから算出)
- 投資後の見込みキャッシュ・フロー(投資後の収入と支出の増減を推測して将来計画を立てる)
- 目標となる投資回収期間(何年間で投資額を回収したいか、自社で設定)
の3つの数字が必要になります。
2 回収期間法を使って、投資判断をしてみよう
では早速、次の事例を使って、回収期間法による投資判断がどのように行われるのかを見てみましょう。
この計画によると、初期投資額(1000万円)のうち、3年目までに累計900万円(200万円+300万円+400万円)を回収し、4年目の途中で全額を回収する予定です。正確な回収期間は、投資額を回収する最後の年を次のように計算して算出します。
1000万円(初期投資額)-900万円(3年目までの回収金額)=100万円(残りの回収額)
100万円(残りの回収額)÷400万円(4年目のキャッシュ・フロー)=0.25年
結果として、
回収期間は3年+0.25年=3.25年
になります。回収期間が分かったら、投資をするかどうかを判断します。自社で決定した目標となる投資回収期間が、4年と3年の場合の判断は次の通りです。
- 4年であれば、3.25年<4年であるため、この投資計画を実行
- 3年であれば、3.25年>3年であるため、この投資計画は中止
目標となる投資回収期間は会社ごとの資金状況やビジネスの内容によって変わるもので、具体的に何年という正解はありません。このため、案件ごとに何年で投資が回収できそうな案件なのかを設定する必要があります。
3 将来計画を立てるときのポイント
投資後の見込みキャッシュ・フローを決めるために、収入と支出の両面から将来計画を立てます。
収入については、主に投資による増加が見込まれる売上となります。もし、売上が単価と数量などに分解できるのであれば、より細かく計画していきます(支出についても同様です)。これは投資後、計画に対する進捗状況の確認や修正を検討する際の要因分析に役立ってきます。また、その投資により、削減できる支出も収入に加算します。例えば、ペーパーレス化のためのシステム導入を行った場合は、今までにかかっていたコピー用紙代や複合機の台数削減によるリース料などが削減できる支出となってきます。
一方、支出については、どんな人・モノなどが関わってくるかを現場担当者からヒアリングし、見積もります。以前に同じような投資をしているのであれば、前回の支出内容を確認してみましょう。このように、過去の数字を使うことが多々ありますので、会計伝票に何の投資に関するものかを備考欄などに記入しておくとよいでしょう。
以上(2022年7月)
(執筆 管理会計ラボ株式会社 取締役・公認会計士 福原俊)
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