書いてあること
- 主な読者:経営者保証の付いた融資を受けている会社の経営者
- 課題:既に付いている経営者保証を解除したい、経営者保証のない融資を受けたいが、金融機関とどう交渉していいか分からない
- 解決策:まずは金融機関に相談する。解除の可能性を高めるため、「経営者保証ガイドライン」の3要件を満たすように自社の経営改善を図る
1 「経営者保証」は解除できる?
会社の融資の際に付けられている経営者の個人保証(経営者保証)。日本政策金融公庫の調査(2022年10月)によると、
金融機関に相談したうちの約45.4%が解除
されています。経営者保証の解除は、経営者保証ガイドライン研究会(共同事務局:一般社団法人全国銀行協会、日本商工会議所)が作成した「経営者保証に関するガイドライン(以下「ガイドライン」)」が、2014年2月に適用されてから推奨されるようになりました。しかし、周知が十分ではなく、日本政策金融公庫の調査では81.5%の経営者が「相談したことがない」と回答しています。
そのため、まずは解除できることを知り、
金融機関に相談してみることが大切
です。ただし、半数以上のケースは解除を断られていますので、解除に向けた準備をしておくべきでしょう。大前提として、いきなり解除の相談をするより、
金融機関と日頃からコミュニケーションを取り、信頼関係を築いておくことが大切
ですし、この他にも、経営者保証を解除できる可能性を高めるためのポイントがあります。そこで、この記事では、経営者保証を解除したいと考えている経営者の方に、
- 経営者保証が解除できた例、できなかった例
- どうしたら経営者保証を解除できる?
- 解除のための3要件を満たしているかチェックしよう
について解説します。
2 経営者保証が解除できた例、できなかった例
繰り返しますが、経営者保証を解除するためには、
まず金融機関に相談すること
です。実際に、相談してみるとあっさり解除できたケースもあるようです。経営者保証が解除できた例、できなかった例として、次のようなものがあります。
■金融庁「『経営者保証に関するガイドライン』の活用に係る参考事例集」(PDF形式)■
https://www.fsa.go.jp/status/hoshou_jirei.pdf
■中小企業庁「事例でみる経営者保証の解除~課題解決のポイントとその効果」(PDF形式)■
https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/download/jirei.pdf
3 どうしたら経営者保証を解除できる?
1)「ガイドライン」の3要件を満たしているか?
経営者保証は「ガイドライン」が定めた次の3要件の全て、または一部を満たせば、既に付いている経営者保証を解除できたり、経営者保証の付かない融資を受けられたりする可能性があります。3要件とは、
- 個人・法人の分離(資産の所有やお金のやり取りに関して、経営者と法人との関係が明確に区分されていること)
- 経営基盤の強化(財務基盤が強化されており、法人のみの資産や収益力で借入金の返済が可能であること)
- 経営の透明性の確保(金融機関に対し、適時適切に財務情報が開示されていること)
です。金融機関に相談する前に「ガイドライン」を確認し、後述するチェックシートを利用して、自社が3要件をどれだけ満たしているかを把握していくことが大切です。
なお、中小企業庁の「事例でみる経営者保証の解除~課題解決のポイントとその効果(2022年9月20日)」では、3要件を改善して解除となった事例を多く紹介しているので、抜粋して紹介します。
金融機関に相談する際の留意点として、日本商工会議所・中小企業振興部長の加藤正敏さんは、事前知識なしに相談するのではなく、自分でも調べて、解除される可能性があるから相談したと示せるほうが、好印象となると言います。
「金融機関は、経営者保証が付いているから、自分事として本気で経営に取り組んでいる経営者が多いと見ています。経営者保証を解除する際に求められるのは、解除しても本気で経営に取り組み、償還原資を確保できることです。ですから、3要件を満たすように取り組み、資料を開示し、収益力を改善すれば、本気で経営に取り組んでいると思ってもらえて、解除の可能性が高まります」(加藤さん)
2)解除のために条件が付けられることも
金融機関に相談した結果、経営改善が不十分だとして、条件付きの解除になったり、解除に応じてくれなかったりすることがあります。条件付きの解除とは、
- 金利の引き上げや融資額の減額
- 在庫(原材料・商品)や機械設備、売掛債権などの資産を担保とする動産担保融資(ABL=Asset Based Lending)
- 停止条件や解除条件を付けた保証契約
- 預金(流動預金や固定預金)の積み増し
などがあるようです。経営者にとっては、金利負担が重くなるなら、経営者保証は付けたままで構わないという判断も出てくるでしょう。そのため、条件を付けられた場合、条件をはずすために必要な改善点を聞き、改善後に交渉を再開することも一策です。
3)金融機関の経営方針も要チェック
金融機関の経営者保証についての考え方は、
「各行の経営方針によって異なる」(前出・加藤さん)
そうです。積極的に解除しようという金融機関は、新規融資には経営者保証を付けない方針を掲げたり、経営者保証を付けるかどうかを決めるためのチェックシートなど独自に作ったりしています。一方で、解除に慎重な金融機関もあります。
金融庁の「経営者保証に依存しない融資に関する取組状況」によると、経営者保証を付けない融資件数の割合(2021年度下期実績)は、地域銀行では最高が88.8%、最低が11.9%と、大きな差が生じています。メイン金融機関の態度が解除に後ろ向きであれば、
「『経営者保証に依存しない融資』の取り組み実績の高い金融機関に、融資を申し込むという方法もあります。また、解除に向けて動くこと、動いていることをメイン金融機関に伝えれば、経営者の経営者保証解除に向けた本気度が伝わると思います」(前出・加藤さん)
と言います。
■金融庁「経営者保証に依存しない融資に関する取組状況」(PDF形式)■
https://www.fsa.go.jp/news/r4/ginkou/20221004/01.pdf
4 解除のための3要件を満たしているかチェックしよう
まずは、経営者保証を解除するための3要件を満たした経営ができているか、自社の状況をチェックしてみましょう。また、金融機関以外で経営者保証の解除についての相談を受け付けている団体も紹介します。
1)チェックシートを活用し、自社の状況を確認する
経営者保証の解除には、収益力改善に向けた取り組みや経営体制の整備が求められます。3要件の充足を確認するには、中小企業庁が作成した「経営者保証の解除に向けた経営者と支援機関の目線合わせチェックシート」が役に立ちます。これは同庁が2022年12月に発表した「収益力改善支援に関する実務指針」の別表にあります。チェックシートを活用して自社の状況を把握し、金融機関がどこをチェックするのか知っておくといいでしょう。
■中小企業庁「収益力改善支援に関する実務指針」(PDF形式)■
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/shuuekiryokukaizen/shishin.pdf
2)経営者保証を解除する際の相談先
経営者保証の解除は、金融機関以外にも相談することができます。相談先は「借り入れや借り換えをするとき」「事業を引き継ぐとき」「保証債務の整理を行うとき(廃業するときなど)」のタイミングによって異なります。
なお、国が認定した専門家の支援を受け、経営改善計画を策定する場合、必要となる費用の3分の2を国が補助する「経営改善計画策定支援事業」や「早期経営改善計画策定支援事業」があります。補助の対象には、経営者保証の解除を目指した金融機関との交渉費用を含むものもあります。
■経営改善計画策定支援事業■
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/saisei/05.html
■早期経営改善計画策定支援事業■
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/saisei/04.html
5 参考:経営者保証の提供についての相談結果
日本政策金融公庫「第214回 信用保証利用企業動向調査(2022年10月)」では、経営者保証についての調査も行っており、冒頭で紹介した経営者保証の解除率(45.4%)などは、この資料を根拠としています。
以上(2023年2月)
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画像:CrizzyStudio-shutterstock