書いてあること
- 主な読者:適正な会計処理・税務処理を徹底したい経営者・経理担当者
- 課題:身近であるが故に、特段注意を払わずに、流れ作業的に取り扱ったりしている人が少なくない
- 解決策:実務上問題になることの多い税務の観点から、請求書・領収書に関する基礎知識を解説
1 請求書・領収書の基本
1)請求書・領収書とは
請求書は、代金の支払人に対して、販売した商品等の代金の支払いを求める書類です。また、領収書は、代金の受取人がその代金を受け取ったことを証明する書類です。
請求書・領収書は、ビジネスパーソンであれば必ず取り扱うことになる身近なものです。一方で、身近であるが故に、「会社の備品を買ったときには、とにかく領収書をもらわなければいけない」といったように、曖昧に覚えていたり、特段注意を払わずに、流れ作業的に取り扱ったりしている人が少なくありません。
しかし、請求書・領収書は、誰が誰に対して、いつ、何のために代金を支払った(受け取った)かという「お金の動き」を示す大切な書類です。
本稿では、実務上問題になることの多い税務の観点から、請求書・領収書に関する基礎知識を紹介します。実際には、この他にも会計上や法務上の留意点や、社内規程などのルールが定められていることがあるので、こうした点にも注意しましょう。
2)請求書・領収書の記載事項および様式
請求書・領収書の記載事項については、「この事項の記載が漏れていたら請求書・領収書として認められない」といったものが、法人税法・所得税法上で定められているわけではありません。ただし、「お金の動き」を把握するために必要となる事項は共通しているので、請求書・領収書はおおむね同じです。
例えば、請求書の一般的な記載事項は次の通りです。
- 宛名
- 発行者(会社等)の名称・住所
- 日付
- 請求金額(内訳と合計金額)
- 支払期限
- 振込先(銀行口座名等)および振込手数料負担者
また、領収書の一般的な記載事項は次の通りです。
- 宛名
- 発行者(会社等)の名称・住所
- 日付
- 受領金額
- 但書
請求書・領収書の様式も記載事項と同様に法人税法・所得税法上では定められていません。そのため、市販されているもの、インターネット等で入手したひな型、自社独自に作成したもの等であっても問題はありません。
3)消費税法における定め
消費税法上では、請求書・領収書の記載事項について定めがあります。詳しい説明は省略しますが、消費税の課税事業者で簡易課税制度を適用しない事業者が、支払対価が3万円以上の場合で仕入税額控除を受けるときには、原則として、取引の相手方から交付を受ける請求書等(請求書、納品書その他これらに類する書類で領収書も含まれる)を保存しなければならず、その請求書等には、次の事項が記載されていなければなりません。
- 書類の作成者の氏名又は名称
- 課税資産の譲渡等を行った年月日
- 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容
- 課税資産の譲渡等の対価の額
- 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
- 軽減税率の対象品目である旨(「※」等軽減税率の対象となることを表示)
- 一般税率と軽減税率ごとに区分して合計した対価の額(税込)
この規定に該当する請求書・領収書には、上記事項の記載がなければなりませんが、前述した一般的な請求書・領収書には、これらの記載事項が含まれているため、実務上はあまり気にする必要はないかもしれません。
なお、軽減税率等の導入により、2019年10月1日から2023年9月30日までの期間は、今までの『請求書等保存方式』を維持しつつ、区分経理に対応するための措置として、『区分記載請求書等保存方式』が導入されています。
2 請求書・領収書のよくある10の疑問
ここでは税務上、問題になることが多い領収書を中心に、実務上よくある疑問点や間違った認識を持っている人が多い事項について、取り扱い方法等を紹介します。
1)領収書は必要になるか
領収書がなくてもレシートがあれば問題がない場合があります。
最近のレシートには、発行する会社名・店名、住所、日時、購入品目、購入金額に加えて、飲食店の場合は利用人数なども印字されているものが多くなっています。こうしたレシートであれば、前述した「領収書の一般的な記載事項」については、おおむね網羅されているため、領収書がなくとも問題はありません。ただし、金額しか記載されていないような簡易レシートの場合は、領収書を発行してもらう必要があります。また、高額の支出の場合は、領収書を発行してもらうほうが無難です。
なお、レシートには宛名の記載がありません。一方、前述した消費税法上定められた記載事項には「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」とあります。ただし、消費税法には小売業、飲食店業、写真業、旅行業等を営む事業者が交付する請求書等については、「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」の記載要件が除かれています。
レシートを発行する企業のほとんどは小売業や飲食店業のため、実務上、この点を気にする必要はほとんどないといえるでしょう。
2)宛名が「上様」とされた領収書は有効か
領収書の宛名が、「上様」とされることがありますが、これは会社名を記載するようにしたほうがよいでしょう。
法人税法上は、宛名に関する特段の規定がないため、「上様」とされている領収書であるからといって、直ちに経費にできないということはありません。ただし、「上様」では、誰が支出したのか(本当に会社の経費なのか)ということが、領収書だけでは判断できません。そのため、税務調査の際に指摘を受けたり、説明を求められたりするなど、問題が発生することがあります。
また、社内実務においても、「上様」の領収書では、個人的な支出など不適切な支出に対するものか否かといった判断が難しくなります。
加えて、消費税法上の場合は、前述した通り、一定の要件に該当する場合以外は、「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」がなければ、仕入税額控除の対象とすることができなくなることがあります。
3)4万円の領収書を発行。収入印紙を貼り付ける必要はあるか
2014年4月1日付以降に発行される領収書(印紙税法上は「領収書」「レシート」等の名称にかかわらず、金銭又は有価証券の受取書の全てが対象になります)については、記載された受取金額が4万円であれば、収入印紙を貼り付ける(印紙税を納付する)必要はありません。
領収書は、記載された受取金額に応じて、印紙税を納付しなければなりません。印紙税の納付は、領収書などの課税文書に収入印紙を貼り付けた上で、その課税文書と収入印紙の彩紋とにかけて消印等をしなければなりません。
2014年3月31日までに発行された領収書は、記載された受取金額が3万円未満の場合に非課税となるため、4万円の領収書であれば印紙税を納付する必要がありました。一方、2014年4月1日以降に発行される領収書は、5万円未満まで非課税となるので、印紙税を納付する必要はありません。
領収書の発行実務を頻繁に行わない人は、「3万円未満は、印紙税の納付は不要」としか覚えていないことがあり、誤って収入印紙を貼り付けてしまうことがあるので注意しましょう。
なお、消費税額等が区分記載されているとき又は、税込価格及び税抜価格が記載されていることにより、その取引に当たって課されるべき消費税額等が明らかとなる場合には、その消費税額等は印紙税の記載金額に含めないこととされています。
4)領収書に貼る収入印紙の消印が押されていないけど問題ないか
印紙税を納付するときには、単に収入印紙を貼り付けるだけではなく、その収入印紙が使用済みであることを示す消印等をしなければなりません。そのため、正しい金額の収入印紙を貼り付けていたとしても、消印等がない場合には「印紙税を納付していない」ことになるので、収入印紙の金額の同額と過怠税が課されます。
また、本来、印紙税を納付する必要があるにもかかわらず、収入印紙を貼り付けていない場合は、その事実が税務調査等で発覚すると、「納付しなかった印紙税額+その2倍に相当する金額の合計額」(すなわち印紙税額の3倍の金額)の過怠税が課されるので注意が必要です。ただし、不備について自己申告した場合は、「納付しなかった印紙税額+その10%に相当する金額の合計額」に過怠税が軽減されます。
なお、印紙税が納付されているか否かと、領収書の有効性は関係ありません。そのため、印紙税が納付されていなくても、領収書の内容自体は有効と認められます。
5)領収書に宛名の記載が漏れていた。追記してよいか
領収書に不備がある場合は、勝手に追記をせずに、それらを発行した相手方に修正をしてもらったり、再発行してもらったりするなどしてください。
領収書・請求書は法律上の証拠書類に当たります。証拠書類に勝手に追記をしたり、書き換えたりすると私文書偽造として刑事罰の対象となる可能性があります。また、税務調査などで発覚すれば、重加算税を課される可能性があります。
6)領収書に書損が生じたので、破棄してよいか
領収書は、書損をしても勝手に破棄せずに、領収書の控えと併せて保管するのが一般的です。
様式は各社各様ですが、領収書は通し番号を付して管理するのが一般的です。また、相手に渡す領収書と社内で保管する控えがワンセットになっていますが、書損が発生した場合は、領収書を破棄せずに控えと併せて保管しておくことが大切です。
これは、領収書の改ざんや金銭の横領などの事故を防止するためです。例えば、誰かが「顧客から現金を受領し、控え分と併せて事前に抜き取った領収書に金額を記載して顧客に渡し、現金を横領する」ということを企てた場合、通し番号を付していれば、会社に保管している領収書は、その番号だけ抜けているので、不正の端緒をつかむことができます。
7)クレジットカード会社が発行した請求明細があれば領収書は不要か
商品などの販売元が発行する「ご利用明細」等は領収書の代わりになりますが、クレジットカード会社が発行した請求明細は、領収書の代わりにならないと考えたほうがよいでしょう。
請求明細の取り扱いで問題になるのが消費税です。クレジットカード会社が発行した請求明細は、課税資産の譲渡等を行った事業者(商品などを販売した事業者)が作成・交付した書類ではないため、前述した消費税法の規定に該当する書類とは認められません。
一般的に、クレジットカードで商品などを購入すると、販売元は「ご利用明細」等を発行しています。通常、「ご利用明細」等には、書類の作成者の氏名又は名称をはじめ、前述した要件が全て記載されているため、消費税法の規定に該当する書類と認められます。
ポイントは「ご利用明細」等の書類の名称ではなく、必要事項が漏れなく記載されていることなので注意をしましょう。
8)インターネット通販での「取引内容確認メール」は、領収書の代わりになるか
「取引内容確認メール」は、基本的に領収書の代わりになります。
インターネット通販の場合、領収書・請求書を発行していないことがあります。この場合、購入手続きを終えた後に送信されてくる「取引内容確認メール」や、購入手続き終了後に表示される購入情報が掲載されたウェブページなどは、発行する会社名・店名、住所、日時、購入品目、購入金額、購入者名といった事項が記載されていることが一般的であり、こうしたものであれば領収書の代わりとすることができます。
9)倉庫がいっぱいになったので、請求書・領収書を破棄してよいか
請求書・領収書は保存期間が決められているので、勝手に破棄してはいけません。
請求書・領収書は、法人税法上、「取引等に関して作成し、又は受領した書類」として、保存期間が定められています。例えば、青色申告者の場合は、原則、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間の保存が義務付けられています(青色申告書を提出した事業年度に欠損金が生じた場合は、当該年度からの保存期間は9年間(注)となります)。この期間中は「保存スペースがないから」「前回の税務調査で、税務署に確認されたから」等という理由で、勝手に破棄してはいけません。
なお、請求書・領収書などの帳簿書類は、一定の要件を満たす場合は、マイクロフィルムや電磁的データ等で保存することができます。スペースの問題で保存が難しい場合は、こうした方法を検討してもよいでしょう。
(注)2018年4月1日以後に開始する欠損金の生ずる事業年度においては、保存期間は10年間となります。
10)交際費等に該当する飲食費が1人当たり5000円を超えた。領収書を2つに分けてそれぞれ1人当たり5000円以下になるようにしたらどうなるか
領収書を2つに分けることには意味がありませんし、分けてはいけません。
現在は法人の資本金や交際費の内容等の一定要件により損金に算入できる場合がありますが、原則として、交際費等は税務上の損金に算入することができません(一定要件に関する詳しい説明は省略します)。ただし、交際費等の範囲に含まれるものであっても、1人当たり5000円以下の飲食費(社内飲食費を除く)は、一定の要件に該当するものについては、損金に算入することができます。
そうすると、「1人当たり5000円を超えたときに、領収書を複数に分けてそれぞれ1人当たり5000円以下になるようにしたら、損金に算入することができるのでは」と考える人がいるようです。
しかし、領収書が複数に分かれていても、それが一体の飲食であるときは、全ての領収書に記載された金額を合計した上で、金額の判定を行います。
国税庁「交際費等(飲食費)に関するQ&A(平成18年5月)」では、これに類似したケースである「1次会と2次会の費用」に関するQ&Aがあり、次の通り説明されています。
(Q)
飲食費が1人当たり5000円以下であるかどうかの判定に当たって、飲食等が1次会だけでなく、2次会等の複数にわたって行われた場合には、どのように取り扱われるのでしょうか。
(A)
1次会と2次会など連続した飲食等の行為が行われた場合においても、それぞれの行為が単独で行われていると認められるとき(例えば、全く別の業態の飲食店等を利用しているときなど)には、それぞれの行為に係る飲食費ごとに1人当たり5000円以下であるかどうかの判定を行って差し支えありません。
しかしながら、それら連続する飲食等が一体の行為であると認められるとき(例えば、実質的に同一の飲食店等で行われた飲食等であるにもかかわらず、その飲食等のために要する費用として支出する金額を分割して支払っていると認められるときなど)には、その行為の全体に係る飲食費を基礎として1人当たり5000円以下であるかどうかの判定を行うことになります。
(出所:国税庁「交際費等(飲食費)に関するQ&A(平成18年5月)」)
なお、こうしたことを意図的に行うと、仮装隠蔽と判断されて重加算税の対象となる可能性があるので注意しましょう。
以上(2019年12月)
(監修 税理士法人コレド会計 税理士 石田和也)
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