書いてあること
- 主な読者:一般常識として役員退職金の基礎を知っておきたい経営者など
- 課題:役員退職金は、法務、会計、税務などいろいろと取り決めが複雑
- 解決策:法務、会計、税務の視点で整理すると分かりやすい
1 役員退職金とは
役員退職金とは、
退任した役員に対し、在任中の会社への功労に報いることや、勤続に対する報奨として支給されるもの
です。役員退職金の基本的なルールを法務、会計、税務に分けて整理します。大切なポイントは次の通りです。
- 法務:支給には株主総会の決議などが必要
- 会計:支給時に一括で費用処理するか、有税積立(引当金)をして支給時に充当する
- 税務:基本的に損金となるが、代表取締役の功績倍率の目安は「3倍」
2 役員退職金の法務
1)基本的な考え方
一定の権限を持つ役員が自身の役員退職金を自由に決めると、いわゆる「お手盛り」の懸念があります。そこで役員退職金の支給については、
役員退職金を含む役員報酬等について定款に定めるか、株主総会の決議が必要
です。ただし、定款に定めると金額を変更する際などの手続きが煩雑になるのでこうする会社は少なく、多くは株主総会の決議で役員退職金を支給しています。その際、株主総会では
支給対象者だけを開示し、支給額などは取締役会に一任する旨を決議
するのが一般的です。この決議を受け、取締役会で役員退職金規程に基づいて金額、支給の方法、時期などを決定します。こうした方法を「内規一任型」などと呼びます。
当然ですが、株主総会で否決されれば、役員退職金は支給されません。株主にとっては、役員退職金も役員報酬の一部であり、株主の利益と相反する部分があるのです。株主総会の招集通知の記載例や、その後の取締役会での決議は以下の通りです。
2)「定時株主総会招集通知」の記載例
決議事項
第○号議案 退任取締役に対し退職慰労金贈呈の件
3)「議決権の行使についての参考書類」への記載例
第○号議案 退任取締役に対し退職慰労金贈呈の件
本総会終結の時をもって退任されます取締役 日本太郎氏に対し、その在任中の功労に報いるため、当社所定の内規に従い、相当額の範囲内で退職慰労金を贈呈することとし、その具体的金額、支給の方法、時期などは取締役会にご一任願いたいと存じます。退任取締役の略歴は、次の通りです。
4)取締役会決議
役員退職金規程に基づき、役員退職金の金額、支給の方法、時期などを決定します。
3 役員退職金の会計と税務
まず会計についてです。役員退職金は支給時に一括して費用処理する場合もありますが、
役員退職金規程があり、支給実績がある場合、役員退職金引当金として有税積立(いわゆる「一時差異」で、後に損金となる)をしておき、支給時に充当するのが通常
です。
次に税務についてです。役員退職金は損金に算入できます。そのタイミングは次の2つです。
- 株主総会において役員退職金の支給を決議し、金額が確定した事業年度
- 実際に役員退職金を支給した事業年度
役員退職金を年金として支給する場合もありますが、その場合も支給した事業年度に支給した額を損金算入します。
なお、役員退職金の全額が無条件で損金に算入できるわけではありません。「役員退職金が高額過ぎる!」と判断されてしまうと、高額とされた部分(適正額を超える部分の金額)は損金に算入できません。
そこで、多くの会社は「功績倍率法」を採用しています。功績倍率法とは、
役員退職金を「退任時月額報酬×在任年数×功績倍率」によって算出し、それを税務上の上限とみなす方法
です。功績倍率によって金額が大きく変わりますが、この点については、
代表取締役の功績倍率は「3倍」が一般的で、これを超えると過大となる恐れがある
ことを覚えておいてください。
4 役員退職金の問題点
役員退職金は株主の利益と相反する部分があります。「退任時月額報酬×在任年数×功績倍率」で役員退職金を算出する場合、
勤続年数が長い役員の役員退職金は高額ですが、その者が本当に会社に貢献したかは疑問
です。さらに、その役員が会社に貢献して業績が良くなったとしても、その時期と役員が退任する時期にはズレが生じることもあります。現在の業績が低迷しているのに、過去の栄光で多額の役員退職金を支給することについて、意見が分かれるわけです。
このような理由から、株主総会における「退職慰労金贈呈の議案」に反対票を投じる株主もいますし、役員退職金を廃止する会社も少なくありません。
以上(2024年2月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)
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